理想的な会社の在り方とは(第53回)

原作改変は法律違反?企業が知っておきたい著作権の話

 漫画の実写化の度には、とかく「原作改変」が論争になりがちです。しかし、あまりに原作と内容が異なっている場合、著作権法に違反しているかもしれません。

実写化の度に起こる「原作改変」は、実は著作権法違反?

 人気の漫画作品が、テレビドラマや映画などで実写化されるケースはよくありますが、実写化に当たって、ストーリーやキャラクターなどの設定が、漫画原作とは大きく改変されるケースもまたよくあります。

 こうした原作→実写化に際する大幅な内容の変更は、俗に「原作改変」と呼ばれ、その変更点に不満を持ったファンを発端に、社会的な論争に至る可能性があります。

 2024年1月には、某テレビ局が制作した漫画原作の実写テレビドラマの“原作改変”が大きな話題となりました。このドラマでは、テレビ局と原作者で「漫画原作に忠実に実写化すること」が約束されていたものの、実際には原作とは異なる脚本が提出され、その脚本を原作に準じた内容に戻す作業が繰り返されていたことが、スポーツ紙などで報じられました。

 漫画という紙の上で描かれたストーリーを実写で表現する以上、すべてを再現できるわけではありません。とはいえ、何から何まで改変して良いわけではありません。なぜなら、漫画には「著作権」というものが存在するためです。

著作者に自動的に与えられる権利「著作者人格権」とは

 著作権とは、著作物を創作した人物である「著作者」に自動的に与えられる、自分の著作物を無断で使用されない権利です。

 著作物とは、著作権法では「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。少々分かりづらい表現ですが、小説や漫画も著作物に含まれます。

 著作権は大きく「著作者人格権」と「著作財産権」の2つに分かれており、このうち作品の内容を守るのが著作者人格権です。公益社団法人 著作権情報センターでは、著作者人格権を構成する権利として、以下の「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3つを挙げています。

・公表権(著作権法 第18条第1項)
自分の著作物で、まだ公表されていないものを公表するかしないか、いつ、どのような方法で公表するかを決めることができる権利

・氏名表示権(同法 第19条第1項)
自分の著作物を公表するときに、著作者名を表示するかしないか、表示する場合は実名、変名のいずれを表示するかが決められる権利

・同一性保持権(同法 第20条第1項)
自分の著作物の内容や題号(タイトルのこと)を、自分の意に反して、勝手に改変されない権利

 原作改変に関しては、3番目の「同一性保持権」が大きく関わる部分です。もし著作者が、自分の著作物を何者かに改変され、著作権が侵害されたと判断した場合、著作者はその者に対し、著作権法に基づいて差止請求、損害賠償請求を行うことができます。

文章やイラストは、著作者にナイショで変えてはいけない

 著作権に関するトラブルは、普段のビジネスシーンでも十分に起こり得る可能性があります。

 たとえばある作家に、自社のホームページに掲載するコラム記事の制作を依頼したものの、その内容が意図したものと違ったため、作家に無許可で表現を変えた場合、著作者の同一性保有権を侵している可能性があります。

 著作物は文章だけではありません。イラストや写真、動画や音楽などでも、著作者に対して無許可に変更することはできません。企業が著作者の望まない形で改変した文章やイラストを公表した場合、著作者から差止請求や損害賠償請求を受ける可能性は十分に考えられます。そういう点では、原作改変は法律違反と考えることもできます。

 もし納品された文章やイラストの内容を変更したい場合は、著作者に対し「ここを変更するのはどうか」「ここはこういう表現に変えてほしい」と提案し、著作者が納得して自身から変更するというやり方で進めるべきでしょう。

契約書の「著作者人格権を行使しない」の一文に要注意

 契約書を締結する際も注意が必要です。たとえば企業がイラストレーターと契約を結ぶ際、「著作者人格権を行使しない」という内容を契約書に盛り込む場合、イラストレーターは先に挙げた著作者人格権を行使できない恐れがあります。たとえ自分の信条とは異なる商品の広告にイラストを使用されたとしても、公表権や同一性保持権を主張することはできません。


 企業側にとっては、そのイラストを好き放題、自由勝手に使えるという点ではメリットがあるかもしれませんが、そのことが業界に知られれば「クリエイターの権利を奪う企業」という悪いイメージが付いてしまう恐れも考えられます。

 繰り返しになりますが、著作権は著作物が生まれた時から、著作者に自動的に与えられる権利です。企業が優れた著作物の力をビジネスに利用しようと思うのは当然のことですが、そこにもルールは存在します。「原作改変」の負の側面が世間の注目を集めている今、企業は著作権の扱いに慎重になりすぎるほど慎重になった方が良いでしょう。

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