2024年4月より、医師の時間外労働に上限が設定され、これまで医師が抱えていたタスクを軽減し、労働時間を削減していく必要があります。どうすれば良いのでしょうか。
2024年4月から、医師にも時間外労働の上限が設定される
2024年4月より、医療現場における働き方改革を進めるため、医師の時間外労働の上限規制がスタートします。
この規制は、2019年4月より施行された「働き方改革関連法」にて定められたものです。すでに中小企業や大企業では規制がスタートしていましたが、建設業、運送/物流業、医師の3分野については、業務の特性や取引慣行の課題があるため、適用が5年間猶予されていました。
その猶予期間が2024年3月で終わり、4月から医師に対しても時間外労働時間が制限されることになりました。これまでは、医師の時間外労働に上限はありませんでしたが、2024年4月からは1年間の上限が、基本的には「960時間」までとなります(地域医療など、長時間労働を避けられない場合は「1,860時間」が上限)。
もし法令で定められた上限時間を遵守しない場合、病院に罰則が与えられます。加えて病院側に対し、医師の健康状態をチェックする面接指導や勤務間インターバルなどの休息時間を確保することが義務化されます。
「過労死ライン」の医師の重労働をどうやって軽減するか?
医師は、労働時間が特に長い職業です。厚生労働省の調べによると、病院常勤勤務医の21.2%が年960時間超、3.7%が年1,860時間超の時間外・休日労働を行っています。同省は月80時間(年960時間)超を「過労死ライン」として定めているため、病院勤務の医師の約5人に1人が、過労死の危険性があるともいえます。2022年には、兵庫県の病院に勤務する20代の医師が、1か月200時間を超える時間外労働の末、自ら命を絶った事件も発生しました。
しかし、医師の労働時間が規制されることで、今度は地方医療の現場で医師が足りなくなる恐れがあります。地方の医療機関では、大学病院から医師が派遣されるケースもありますが、時間外労働は勤務先と派遣先の通算で計算されるとなるため、時間外労働を抑えるために、他病院への派遣を短縮・中止する可能性も考えられます。場合によっては、医師が確保できない病院があらわれる恐れもあります。
こうした医師の時間外労働の上限設定に起因する諸問題は「医療の2024年問題」と呼ばれており、厚生労働省ではこの問題を解決するために、医師の業務を他の職種へ移管する「タスクシフト/タスクシェア」に取り組むことを推奨しています。具体例としては、患者への病状説明や服薬の指導、採血、記録作成などの業務を、看護師や薬剤師といった他の職種にシフトすることが挙げられています。
自動音声入力など、AIの活用が医師のタスク軽減につながる
タスクシフト・タスクシェアの一環として、ICTを活用することも可能です。たとえば、AIによる問診サービスや、クラウドサービスを活用した患者情報の一元管理、自動音声入力による記録作業などを活用し、医師の業務量を軽減することもできます。
2022年より政府が主導している「AIホスピタルによる高度診断・治療システム」事業では、医療機関におけるAIシステムの実装化に向け、さまざまな検証が行われています。
世田谷区の国立成育医療研究センターでは、医師の記録作業の負担を軽減するため、ドクターカーに救命処置の情報を自動音声入力するAIを搭載しています。AIが医師の音声を解析し、血圧や体温などの患者の状況、医師の処置情報を自動で整理・カルテに入力します。入力内容はクラウドで搬送先にすぐ共有されるため、受け入れ準備の迅速化にもつながり、救命率の向上が期待できます。
江東区のがん研有明病院では、医師が患者に対して説明した際、内容が誤解されたり、伝わっていないケースが発生していることに着目し、NTTデータとの共同開発で、患者が精神的負担を受けた時の行動傾向(コーピングスタイル)を分類するAIモデルを開発しました。このAIでは、問診に対する回答に基づき、患者の行動傾向を推測することで、患者の特性が把握しづらい初診~数回目までの診察期間のコミュニケーションに役立てるとしています。
予防医療の分野ではNTTデータが、健康診断結果と遺伝子検査サービスの情報によって個人のリスクを洗い出し、それに応じた人間ドックなどの適切なオプション検査を提案する医療サービスの実証事業も行われています。
まずは医師の労働時間を把握するところから
医療の2024年問題の解決のためには、そもそも医師の勤務実態を把握している病院が少ないという、時間外労働に対する業界内の問題意識の低さを改める必要があります。2022年の厚生労働省の調査によれば、勤務医の副業・兼業先を含めた時間外・休日労働時間を把握していると回答した病院は、半数以下の39%にとどまっています。
こうした医師の労働時間の管理も、ICTを使えば簡単にできます。例えば、医師自身が一つのデバイスで複数勤務先の労働時間を入力でき、自己研鑽や宿日直といった、労働との線引きが難しい時間も可視化できる管理システムを導入している病院もあります。さらには、医師が装着しているウェアラブルデバイスの情報をもとに、院内での行動をAIで分析し、活動パターンやストレス度を可視化している病院もあります。
「医者の不養生」という言葉もあるように、医療のプロである医師であっても、自分自身の健康に気を配らないことは十分に起こりうることです。新たに設定された時間外労働の上限規制を遵守し、いざという時に頼りになる医師の健康を守ることが、地域の人々の幸せな暮らしに繋がっていくことでしょう。
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