2024.10.08 (Tue)

理想的な会社の在り方とは(第71回)

​あの大企業も導入。「ジョブ型人事」は何が優れているのか?

 政府では現在、企業の競争力維持を目的に「ジョブ型人事」という雇用制度を推進しています。なぜ政府はジョブ型人事に力を入れているのでしょうか?その理由を探ります。

なぜ政府は「ジョブ型人事」を推進しているのか?

 「ジョブ型人事」という言葉をご存知でしょうか。多くのビジネスパーソンにはまだ耳馴染みがないかもしれませんが、人事担当者であればすでに知っている人も多いかもしれません。

 ジョブ型人事とは、企業が事前に定義した職務内容(ジョブ)に基づき、必要な能力や経験を持つ人材を採用し、その人材の職務内容や役割を明確に定義するという人事手法を指します。簡単にいえば、「人」ではなく「仕事」に対して賃金が支払われる制度で、「ジョブ型人事制度」もしくは「ジョブ型雇用」と呼ばれることもあります。

 このジョブ型人事は、現在政府が推進している「新しい資本主義実現会議」にて、日本企業の競争力維持を目的に、各企業に導入が進められようとしています。なぜジョブ型人事は、企業の競争力維持につながると期待されているのでしょうか?政府の資料から読み解きます。

旧来の「メンバーシップ型雇用」とは何が違うのか?

 政府がジョブ型人事の導入を急ぐ背景には、現代の社会において、働き方が大きく変化しつつあることがあるようです。

 2024年6月21日に政府が発表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」という資料によると、日本の従来の雇用制度は、新卒の人材を一括で採用することが基本となっており、かつ異動も会社主導で行われるなど、従業員はただただ企業から与えられた仕事をこなすことが求められていたといいます。このように、業務内容を限定せずに従業員を雇用するという、ジョブ型とは真逆の雇用形態は「メンバーシップ型雇用」と呼ばれます。

 しかし資料では、こうした旧来のメンバーシップ型雇用について、いくつかの欠点があるといいます。1つ目が、最先端の知見を有する専門性の高い人材が採用しにくい点、2つ目が若手を適材適所の観点から抜擢しづらい点、3つ目が日本以外の国ではジョブ型人事が一般的であるため、社内に人材をリテインする(保つ)ことが難しいという点です。

 日本企業の中には、こうした旧来からのメンバーシップ型雇用に対する危機感が多く聞かれていることから、政府では従業員の個々の職務に応じて必要なスキルを設定し、スキルギャップ(企業が求めるスキルと、従業員が持つスキルの差)の克服のため、従業員が自ら職務やリスキリングが選択できるジョブ型人事に移行する必要がある、としています。

ソニーグループもジョブ型人事を導入。離職を防ぐためFA制度もスタート

 とはいえ、これまでメンバーシップ型の雇用スタイルが当たり前だった日本企業が、すぐにジョブ型へ転換できるわけではありません。そこで政府では8月28日、自社のスタイルに合った導入方法が検討できるよう、すでにジョブ型人事を導入している20社の事例をまとめた「ジョブ型人事指針」という資料を発表しました。

 この資料によると、世界的な総合電機メーカーであるソニーグループ株式会社も、ジョブ型人事を導入した企業のひとつです。同社では2008年度から4期連続で赤字を記録するなど、2010年代前半に業績が低迷。さらに、従業員の管理職比率が4割に膨れ上がり、多くの“部下なし管理職”が存在するなど、人事面に大きな問題を抱えていました。

 こうした会社の窮境を改善するため、同社は2015年に「ジョブグレード制度」というジョブ型人事を導入。グループ会社に所属する約5万人がジョブ型人事の対象となり、管理職も非管理職も関係なく適用されました。新卒社員の採用についても、合計130のコース(技術系115コース、事務系15コース)を用意したうえで、採用を実施しています。

 同社はさらに、社内の異動についても新たな制度を導入。継続的に高い評価を記録している従業員に対し、次の異動先を選択できる権利を付与する「FA(フリーエージェント)制度」も同時期にスタートさせ、2022年までに319人が異動したといいます。これは「ソニー社内の行きたい部署に行けないのであれば、辞めて社外で働きたい」というハイパフォーマーの従業員からのリクエストに答えたものとなります。

ジョブ型とメンバーシップ型を併用した企業も

 金融サービス業の三菱UFJ信託銀行株式会社も、ジョブ型人事を採用した企業の1つです。

 同社では年々進化し続ける金融サービスに対応するため、高度な専門性を備える人材を求めていたものの、徐々に新規採用や従業員のリテンション(確保)が難しくなってきたため、授業員の専門性を評価し、処遇に反映させるジョブ型人事を導入しました。

 その一方で、金融という社会インフラの基盤を支えためには、時間をかけて人材を育成する必要もあることから、ジョブ型人事に加え、従来のメンバーシップ型も継続する“一国二制度”を採用することを決めました。

 人事制度の改革は、2020年4月より段階的にスタート。2021年にはファンドマネージャー、2023年には定年後の再雇用者、2024年にはそのほかの専門領域についてもジョブ人事制度が導入されました。同社では、まずは会社が対象となる社員を指名し、本人が同意することで、ジョブ人事制度がスタートするという体制を採用しています。


三菱UFJ信託銀行におけるジョブ型人事の導入の流れ


 ジョブ型人事制度の導入により、当初の目的であった、高度な専門性を備える“尖った人材”の採用には一定の効果があり、かつ社内の人材の多様性も向上したといいます。適用対象となった従業員からも、「評価や処遇に納得感」「人事異動の不安が無い」といった声が聞かれているといいます。

 なお同社のジョブ人事制度では、賃金に対して勤続年数は考慮されないため、たとえばジョブ型で働いている若手従業員の賃金が、メンバーシップ型の部長と同程度になることも起こり得るといいます。

 ここまで述べてきたように、ジョブ型人事はスキルや専門性の高いスペシャリストな人材を採用するためには、効果を発揮する制度といえます。一方で、従業員の業務は固定されるため、複数の異なるタスクをこなすゼネラリストを確保したい場合には向かない可能性が高いです。

 三菱UFJ信託銀行の例のように、ジョブ人事は必ずしも全社的に導入する必要はなく、一部の業務だけ採り入れることも可能です。「優秀な人材の応募が無い」と悩んでいる企業は、一部の業務だけジョブ型人事を採用することで、必要なスキルを持った人材が獲得でき、企業の競争力が高まるきっかけとなるかもしれません。

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