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2024.10.09 (Wed)

ビジネスを成功に導く極意(第72回)

文具店がDX支援企業にチェンジ!華麗な転身を遂げた宮城県の企業に迫る

 宮城県塩釜市の株式会社TAKAYAMAは、地域の文房具店から、全国の中小企業を支援するDX支援企業へ転身しました。変革の立役者である3代目社長の高山智壮氏に話を聞きました。

なぜ老舗の文具店がDX支援企業に生まれ変わったのか?

 中小企業の多くが、事業の維持や継承に苦しんでいます。中小企業庁が2023年に発表した「2023年度版中小企業白書・小規模企業白書」でも、中小企業・小規模事業者は、物価高騰や深刻な人手不足などにより厳しい状況にあるとしています。特に地方では、地域経済の縮小や少子高齢化に伴う労働力不足・後継者不足といった問題も存在します。

 このような状況下で、事業転換とビジネスモデル変革を行うことで、事業の存続に成功した中小企業が存在します。宮城県塩釜市の株式会社TAKAYAMA(以下、TAKAYAMA社)です。

 同社は第二次世界大戦後の1946年に文房具店として誕生し、70年以上にわたって地元の学校や自治体、企業向けに文房具と事務機を販売してきました。しかし、同社の三代目である高山智壮(たかやま・ともたけ)氏の入社後は、中小企業向けのサイバーセキュリティ事業を開始。同氏が社長に就任した2022年には、完全にDX支援企業へと事業転換しました。

 なぜTAKAYAMA社は、文具店からDX支援企業という、一見すると脈略が無さそうな事業転換を行ったのでしょうか?2022年よりTAKAYAMA社の代表取締役社長を務める高山智壮氏に、その背景を聞きました。

事業継承を決意させた祖父のメッセージ

 高山智壮氏は1985年、TAKAYAMA社の三代目の跡継ぎとして、宮城県塩釜市に生まれました。とはいえ事業を引き継ぐ意思は強いものではなく、社会人になってからは東京の銀行で働いていました。

 そんな中、2011年3月11日に東日本大震災が発生。高山氏は震災後ボランティアとして地元に帰った日の夜、母親と一緒に見た1本のビデオによって、家業を次ぐことを決意します。

 「ビデオには、祖父が亡くなる数か月前の映像が収録されていました。創業者である祖父は、私が生まれた後にほどなくこの世を去りましたが、祖父は生まれたばかりの私を抱きかかえる母に対して、鼻に呼吸器を差し込みながらうめき声で『必ず智壮にこの会社を引き継げ』と言っていました。

 それまでの私は、銀行に残るべきか、塩釜に戻って経営に参加するべきか逡巡している状態でした。しかしこの映像を見て、事業を引き継ぎ、東北に貢献していくことが自分の使命であり、この会社の使命でもあると明確に理解しました」(高山氏)

 震災では、幸いなことに従業員は全員無事でしたが、商品である文房具は全て津波に飲み込まれていました。当時の決算書を見た高山氏は、商品の欠損によるダメージが大きく、このまま従来通りの事業を続けていても、企業としての永続性が確保できないと判断。まずは東京に残って経営を学び、事業戦略を立ててから塩釜に戻ることにしました。

 東京で経営を学んだ高山氏は、TAKAYAMA社の新事業として、サイバーセキュリティ事業に着目しました。当時、業務システムのクラウド化が進んでいく中で、地元には中小企業のサイバーセキュリティ対策を支援できる事業者がなく、従来の事業のひとつだったOA機器販売ビジネスとも親和性が高いということが理由でした。

 「銀行員時代に、サイバー犯罪が増加する一方、中小企業におけるセキュリティ対策の意識の低さを実感していました。塩釜には競合もおらず、社内にはネットワークがわかる社員もいたので、専門家と連携してセキュリティの啓蒙活動をしながらIT商材も販売していけば、必ず成功して会社を発展させることができると確信しました」(高山氏)

人の心を掴めないと変革はできない

 高山氏が塩釜に戻ったのは、震災から数年が経った2014年4月のこと。TAKAYAMA社への入社と同時にサイバーセキュリティ事業を開始し、2年後には宮城県の警察本部から講演依頼を受けるなど、事業そのものは順調に成長しました。

 ところが社内では、高山氏の事業改革に冷ややかな目が向けられていました。

 当時のTAKAYAMA社では、社長をはじめとした幹部社員が御用聞き営業の思考を持っていました。そのため、啓蒙活動やコンサルをして対価を得るという“支援型”のビジネスの考え方が社内のメンバーに伝わらず、しかも高山氏も、メンバーに対し理論的な詰め方で応じていたために、ほとんどの社内メンバーと反目することになってしまいました。

 ストレスを抱えつつ事業改革を推進した高山氏は、やがて身体を壊し、入院を余儀なくされました。その際、社員が誰一人見舞いに来ないという現実を目の当たりにし、高山氏は大きな挫折感を味わいます。

 「私は何のために働いていて、何のために経営者になったのか?病院のベッドの上で自問自答し、それが結果として経営のターニングポイントになりました。

 本来、人は幸せになるために働いているのに、自分も社員も、幸せに働けていないこと痛感しました。戦略からスタートしても、人は腹落ちしません。人の心を掴めないと変革はできないことを、身に染みて感じました」(高山氏)

コロナ禍を機に、事業のすべてをDX化

 入院生活から復帰した高山氏は、従来の方針を大きく変更。自社の社会的な存在意義を定めたうえで経営を行う「理念・目的経営」や、従業員を含む事業関係者全員の幸せを追求する「ウェルビーイング経営」など、人や社会との関わりを大事にするやり方に切り替えました。その結果、2018年には過去最高業績を記録。採用体制を強化して新卒採用も開始し、メディアにも注目企業として取り上げられるなど飛躍を遂げました。

 新型コロナウイルス感染症が流行した2020年には、初期の段階で社内コミュニケーション、およびマーケティング活動をすべてデジタル化しました。

 具体的には、まずは社内のリモートワーク体制を早急に整備し、その経験を元に、外部に向けたテレワーク導入支援サービスも開始。同時に、サイバーセキュリティ対策のオンラインセミナーもスタートしました。このほか、SaaS製品やノーコードツールを活用し、マーケティング~営業~採用までをデジタル化する仕組みも構築しました。

 こうしたDXを進めたことで、社内の人時生産性(従業員1人が1時間働いた場合の生産性)は前年度比で123%アップ、集客と採用に至っては1,000%以上もアップするなど著しい成果を挙げました。加えて2022年には、宮城県の企業として初の「DX認定事業者」として国から認定を受けることにも成功しました。

 「私はかねてより、デジタルを使った営業や中小企業のデジタル活用全般を支援するビジネスをしたいと考えていましたが、社内でのリソースもなく、お客様からのニーズも少ないため、断念していました。それがコロナ禍で状況が変わったため、今がそのタイミングだと思い、ワークスタイルとビジネスモデル変革の方向に舵を切りました」(高山氏)

 さらに2022年1月からは、高山氏が3代目社長に就任することが決定しました。高山氏はこのタイミングで、社内の文具店のスペースを廃止し、「DX支援」をビジネスのメインに据えることを決定しました。

 新年度のサービス開始に合わせるため、同社は就任から短期間で、サービスラインアップとオフィスのワークスペース変更、ホームページ刷新、パンフレットの用意を進めました。かつてと違って従業員も高山氏の言動を理解しており、ビジネス変革の方向性も浸透していたため、ほとんどの社員が「いける!」と前向きになっており、苦労をしつつも事業転換のプロジェクトを円滑に進めることができたといいます。

 現在のTAKAYAMA社では、システムからバックオフィス、働き方の改革、さらに自社のオフィスを活用した体験ツアーまでを包含した、独自のDX化支援サービスを提供しています。

 「我々の一番の特徴は、私たちが“これは必ず中小企業に対して成果につながる”、”課題解決につながる“という自社実証済みのサービスを提供していることです。他のシステム開発会社や通信会社にはない、当社だけの強みと断言できます」(高山氏)


TAKAYAMA社のサービスラインアップ

AIやデジタルは、従業員が「働いていて幸せ」と感じるために使う

 事業転換の結果、同社の顧客層は車で30分圏内の地域の中小企業から、中堅企業を含めた全国の企業へと広がりました。さらに、誰もが知るような大企業から働き方改革に関する視察も来ているとのことです。

 商材やビジネスモデル、それに伴う顧客層こそ変わったものの、会社の理念自体は全く変わっていないと高山氏は強調します。

 「創業以来、当社には、『働くというのは傍(はた)を楽(らく)にするという事』という理念があります。今の状況変化は単に商材がデジタル化することによって傍という言葉の定義が広がった結果に過ぎません。商売では、『何を売るか』よりも、『お客様は誰で、何に困っていて、何を求めているのか』を理解することが大切です。

 事業転換にあたっても、外部からは文房具屋からDXカンパニーへと劇的に業態転換していると思われがちですが、そうではありません。我々は大切にしてきた理念を変えずに、時流と共にお客様が求めていること、層が変わっていることを的確に捉え、時代に合わせてビジネスを再定義しただけです」(高山氏)


社内で話し合いながらビジネスを推進


 TAKAYAMA社では今後、サービスと社内の両面でAI活用の領域を強化していく計画を建てています。そこでまずは、AIを活用した日本の中小企業における働き方のロールモデルを作りたいと高山氏は語ります。

 背景にあるのが、同社が掲げる「共に、働くを幸せに」という思いの実現です。そこで今期は、事業変革よりも組織開発に舵を切る方針とのことです。

 「AI活用については、一部では『人間が不要になる』という声も聞かれます。中には、合理化だけを優先し、倫理観を失ったデジタル活用も増えている印象を受けます。しかし、こうしたAIやデジタルの活用は間違っていると思います。当社では働き方改革を進めるなかで、対話やともに学び、成長する時間を作るために、AIやデジタルをフル活用する方針です。

 来年9月から、当社は80周年の年に突入します。私はこのタイミングで、社員のみんなからTAKAYAMAという会社で働いていて幸せだと言ってもらえるような会社経営の在り方を追求したいと考えています」(高山氏)



<インタビュイープロフィール>

高山智壮(たかやま ともたけ)
東京の大手銀行勤務を経てグロービス経営大学院にてMBA取得し、2014年4月にTAKAYAMA社に入社。2022年1月に同社3代目となる代表取締役に就任。社内のビジネスモデル変革、DXの取り組みを進め、2022年に「DX認定制度」のDX認定事業者、2024年に「DXセレクション2024」優良事例に認定されるなど多くの成果に繋げる。

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