GV(旧Googleベンチャーズ)が開発した、課題や問題点を5日間で見極めて、解決策を導き出す「SPRINT」という合理的な仕事術が話題となっています。GVはGoogleのベンチャーキャピタル部門から独立した企業です。GVでデザインパートナーとして活動していたジェイク・ナップ氏と彼らのチームは、スピーディーかつ革新的なアイデアが生まれる仕事術をベンチャーキャピタルの現場で研究・実践してきました。ナップ氏とチームによる著書『SPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法』では、短期間で課題を解決する仕事術のノウハウが紹介されています。
ベンチャーで磨かれた超短期間の仕事術
GVはベンチャーキャピタルとして、スタートアップと呼ばれるビジネスモデルで起業した企業を支援。その企業を急速に成長させて、株式公開や売却によって投資を回収するという仕組みで利益を得ています。時間をかけて議論や検証を繰り返しているようでは、革新性が失われてしまう世界です。
そのような世界でナップ氏は、たった5日間でスタートアップを確実に成功させる仕事術SPRINTを開発しました。現在、SPRINTはさまざまなスタートアップや、企業などの課題解決で実践されています。
「本当に使えるアイデア」は議論だけでは生まれない
ナップ氏はGoogleに入社する前から、自分の仕事の生産性や効率を研究していたそうです。そしてGoogleは、社内のチーム単位での仕事に生産性や効率などの面でさまざまな手法を実験し、その結果を検証するという風土の企業でした。
SPRINTが作り出される前のGoogleでは、アイデア出しでブレインストーミングを行なっていました。ブレインストーミングとは、メンバーが集まり、頭に浮かんだアイデアを次々と口に出すというものです。またたく間にアイデアが積み上がる過程は、スピーディーで効果的な作業だとGoogleのスタッフの多くが考えていました。
そんなある日、参加メンバーの1人から「本当にブレインストーミングは効果があるのか」という疑問が投げかけられます。そこでナップ氏はブレインストーミングから生まれたアイデアが社内の実績に結び付いているかについての検証を始めました。すると、実績に結び付いていないことが判明したのです。
逆に実績を残したアイデアは、デスクで作業している、カフェでお茶を飲んでいる、シャワーを浴びている、またはぶらりと街を歩いているなど、「1人の時間」で閃いていたことがわかります。また時間と実績について調べると、締め切りに追い詰められた状況のほうが実績を残したアイデアが生まれることもわかりました。
「高速仕事術」SPRINTを成功させる3つの要素
この事実を踏まえた上で、ナップ氏はこれまで培ってきた手法の数々を組み合わせて実証実験を行い、「高速仕事術」SPRINTを編み出します。SPRINTとは短距離走のことで、スピーディーかつ正しい解決策を導き出せる仕事術であることを表しています。
その名前の由来でもあるように、SPRINTは5日間という短い期間で課題を解決します。まずは初日に問題の洗い出し、2日目にアイデアを出し合う、3日目に解決策を議論し決定する、4日目にプロトタイプやテストの準備をする、そして5日目にユーザーテストまでを行うというスケジュールです。
SPRINTで成功を収める条件が、3つ存在します。1つ目は「締め切り時間を設定する」こと。時間が限られると、仕事に優先度を設けざるを得ないのは、ビジネスパーソンだけでなく、学生にもいえることです。人は締め切り間近だと些細なことや無駄を省こうとするので、効率的な思考になるそうです。さらに集中力を高めるべく、チーム構成員は期間中にメールやスマートフォンなどの外部連絡を一切断ちます。
2つ目は「1人で考える時間を設ける」ことです。実績のあったアイデアが生まれた環境を考慮すると、深く課題を追求したりアイデアが閃くには、1人でいる時間が必要となります。特に初日と2日目の作業では、1人で考える時間が重要となります。
3つ目が「チーム構成」。プロジェクトの決定権を持つ1人以外は、エンジニア、プロダクトマネージャー、デザイナーなど、専門分野が異なるエキスパートを揃えます。人数は、7人以下が理想です。3日目、4日目の作業で専門分野の違う人間が意見を交わすことは、解決策を正しい方向へまとめるためには必要不可欠。しかし専門分野が被り人数が多いと、短時間でまとめることが難しくなるそうです。ナップ氏も最初に実験したSPRINTでは40人で行ない、始まりもしないうちに脱線しかけたと述べています。
これを5日間という短期間で可能なのかという疑問も湧きますが、ナップ氏の「高速仕事術・SPRINT」はGVの事業だけでなく、GmailやGoogleハングアウト、Google Chromeなど、数多くの開発プロジェクトで活用されるようになっています。会議や開発で長い時間を要して、実りが少ないと実感しているビジネスパーソンは、SPRINTの仕事術を検証してみてはいかがでしょうか。
【参考書籍】
ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー『SPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法』ダイヤモンド社
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