「かかりつけ薬剤師」の必要性が叫ばれるようになり久しい昨今ですが、まだまだ実際にかかりつけ薬剤師をもつ患者は多くありません。そもそも「かかりつけ薬剤師」とは? なぜ利用者が増えないのか? いったいどうすれば、地域の人に求められるかかりつけ薬局になれるのか? 制度の概要や各調剤薬局の取り組み、役立つソリューションなどを紹介します。
そもそも「かかりつけ薬剤師」とはなにか
「かかりつけ薬剤師」とは、いつでも気軽に薬や健康に関する相談ができるなじみの薬剤師のこと。2016年4月に全国で「かかりつけ薬剤師制度」がスタートし、これによって、患者が薬剤師を指名し、同意書にサインをして、概ね100円程度のかかりつけ薬剤師指導料を負担することで、手厚いサービスが受けられるようになりました。
制度化の背景にあるのが、高齢化です。心身の不調を抱え、複数の病院から多くの薬を長く処方されている高齢者の割合が増えることで、以前に比べて大量かつ複雑な薬歴をもつ患者が多くなってきたのです。かかりつけ薬剤師なら、こうした複雑な薬歴を一元管理して、継続的に、薬の重複や飲み合わせ、効果、副作用をチェックすることが可能です。また、土日や夜間の電話相談、在宅医療の支援など幅広いサービスを提供し、患者にしっかりと寄り添うところも特長です。薬に関するリスクを減らすだけでなく、より効果的な服薬アドバイスや健康サポートができ、予防医学や健康長寿の側面でも意義があると考えられています。
このようなメリットがあるかかりつけ薬剤師ですが、利用者は増えていません。2021年2月に内閣府が行った「薬局の利用に関する世論調査」によると、「かかりつけ薬剤師・薬局を決めている」と答えた割合は7.6%にとどまりました。多くの患者にとって薬局は「相談をするところではなく、ただ薬をもらうところ」であり、こうしたイメージもあって、制度ができてから5年ほど経っているにも関わらず、いまだに制度の利用者が少ないという実情があるのです。
薬剤師側からの積極的なアプローチが指名につながる
では、どうすれば患者からかかりつけ薬剤師に指名されるような薬剤師または薬局になれるのでしょうか。かかりつけ薬剤師・薬局化をめざす上で参考になりそうな取り組みをいくつか紹介しましょう。
最初に紹介するのは、大手調剤薬局が行っているテレフォンフォローアップの取り組みです。長期に渡って薬を服用している患者や、持病などの受診時期に来院しない患者などへ積極的に電話をかけて、服薬状況をヒアリングしていると言います。患者からの電話を待つのではなく、薬剤師側が、タイミングを見て電話をしているというのが大きなポイント。薬局側から継続してアクションを積み重ねることで徐々に信頼感が積み上がり、かかりつけ薬剤師化に役立っていると言います。
もうひとつ紹介するのが、「女性の健康」「生活習慣病」など、特定の分野に特化したイメージづくりを行っている薬局です。「なんでもどうぞ」と健康相談を行うのではなく、継続的に特定分野の勉強会やイベントを実施することで、「あの薬局は〇〇の分野に対する専門性が高い」「難しい相談にもしっかり対応してくれる」というイメージをつくっていくのです。例えば、とある薬局では、ウェブサイト上で「女性の健康を応援する」と表明した上で、生理痛や更年期症状などに関する相談会や情報発信を定期的に行っています。婦人科クリニックと連携したイベントなども積極的に行い、「地域の女性のかかりつけ薬局」として知られるようになりました。このように、ブランディングとも言える活動によってかかりつけ薬局化を進めている薬局も多くあります。
ICTソリューションを活用で取り組みを加速
かかりつけ薬剤師・薬局化をめざす活動を強力に後押ししてくれるのが、ICTソリューションの存在です。最後に、役立つソリューションをいくつかご紹介しておきましょう。
代表的なソリューションのひとつが、かかりつけ薬剤師支援アプリ「kakari」です。あくまでかかりつけ薬局を活用してもらうことを目指しているため、薬局の検索機能がなく、薬局番号を入力することでなじみの薬局の情報が大きく表示されるようになっています。薬歴情報の一元管理など基本機能のほか患者への情報発信機能も備えており、これを活用すれば、より密接に患者とつながることが可能です。
ほかに、かかりつけ患者の情報を一般の患者とは別枠で一元管理する「かかりつけフォルダ」機能を備えた「Elixir2」や、長期投薬患者の来局予測ができる「PharnesV-MX」など、かかりつけ薬剤師の業務を支援する機能をもつ電子薬歴ソリューションも多く出てきています。こうしたシステムを店舗でのイベント施策や電話でのフォローアップなどと併せて活用すれば、より高い効果が込めることでしょう。
厚生労働省は、2015年に発表した「患者のための薬局ビジョン」のなかで、「2025年までに、すべての薬局がかかりつけ薬局としての機能を持つことをめざす」と表明しています。今後も、この方針を踏まえ、薬局の再編や活用が進むと考えられています。地域のため、患者のため、そしてなにより調剤薬局の生き残りのために。「まだ大丈夫」と油断することなく、早めに、かかりつけ薬剤師・薬局化をめざす取り組みを加速させたいところです。
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