2023.04.28 (Fri)

ビジネスを成功に導く極意(第51回)

大谷選手のCMが証明した、ジェンダーレス市場ECの勝算

 コーセーが美容液のCMに大谷翔平選手を起用したことで、売り上げが一気に約4倍になったというニュースは世間をざわつかせました。男女問わずこの商品を買い求める人が殺到した背景には、大谷選手の人気はもちろん、近年の「ジェンダーレス志向」の高まりがあると推測されます。今回は、ジェンダーレス消費とECの関係性から、この時流にのるマーケティングの施策を考えます。

ジェンダーレスコスメはECこそ売れる!?

 ジェンダーレス消費とは、社会的、文化的性別にとらわれない消費活動のことで、最近では衣料や家電、雑貨などにも中性的なジェンダーレスデザインが数多く見受けられるようになりました。

 ジェンダーレスを象徴するアイテムとして、最初に挙げられることが多いのはコスメです。コロナ禍で外出を控える人が多かったこともあり、2020年の化粧品の推計市場規模は前年比89%と縮小するものの、男性による化粧品市場規模は前年比104%と拡大しました。男女共用の商品はもちろん、女性用化粧品を購入する男性も多くみられました。しかし、「購入する際に人目が気になる」などのネガティブな消費者意識もあり、爆発的に売り上げが伸びるには至りませんでした。

 2023年3月、コーセーがロサンゼルス・エンゼルス所属の大谷翔平選手を、自社スキンケアブランド「コスメデコルテ(DECORTÉ)」の美容液の広告モデルに起用したところ、情報解禁の翌日には百貨店での新規購入数が通常時の3.6倍に達し、さらに公式オンラインブティックでの販売個数は通常時の約20倍という数字を叩き出しました。

 潜在的なニーズに加えて、2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™で侍ジャパンを14年ぶりの世界一に導く活躍を見せた大谷選手の起用により、それまで存在したネガティブな消費者意識という壁が壊れたことが、爆発的な売り上げにつながったと考えられます。

 コスメは、実際に試さなければ自分に合うのかがわからない性質が顕著なため、専門のスタッフに相談し、自分に合ったコスメを紹介してもらうことが有効です。そのため、長らくコスメはネット通販などのEC(電子商取引)では弱い商品とされていましたが、その定説が覆される形となりました。人目を気にせず購入できるECこそ、ジェンダーレスコスメが売れる要素があるともいえるのです。

衣料品の店舗販売もジェンダーレス消費には不利な側面も

 続いて衣料品の例を見てみましょう。ジェンダーレス衣料品については、消費者の多くが店舗に対し物理的な不便さを感じています。百貨店をはじめとする衣料品店では、男性用・女性用と売り場やフロアが分けられている傾向にあるため、ジェンダーを超えた商品を検討する場合は、売り場を行き来しなければなりません。そのほか、店舗自体に入りにくい、試着がしにくいことなども、不満を感じる理由に挙げられています。

店舗とECのよさを活かしたハイブリッド型販売へ

 店舗には実際に商品を手に取り試せるメリットがありますが、一方で「人目が気になる」、「売り場間の移動をあまりしたくない」と考えるジェンダーレス商品の購入者にとってはデメリットとなります。そこで、店舗のよさとECのよさを融合させたハイブリッド型の販売をめざし、新しい取り組みを始めている企業もあります。

 コスメECサイトの資生堂ワタシプラスでは、肌状態がわかるアプリの導入やバーチャルメイク、オンライン接客なども取り入れています。加えて、コスメ商品はSNSや口コミと相性がよいという特性を活かし、商品のレビューには、投稿者本人の肌の状況や生活環境などの情報も細かく掲載。よりリアルな参考になるよう工夫しています。また、「バレンタインは2人でコスメ選び」という企画でジェンダーレスな商品やメイクを紹介するなど、男性に向けた訴求も積極的に行っています。

 一方、EC体験型シェア店舗やサブスクリプション型出店も注目を集めています。2023年3月、名古屋にオープンしたYOUITS by my GAKUYA は「シェアコスメ」「ジェンダーレスコスメ」を中心に取り揃えており、オープニングイベントにはメイク男子としても人気の近藤耀司氏(こんどうようぢ)が1日店長に就任しました。

 衣料品を販売するECサイトは、検索でほしい商品が一覧できるメリットがあります。たとえば通販サイトZOZOTOWNでは、「ジェンダーレス」と検索すれば1万点以上の商品がヒットします。試着ができないというECサイトの弱点も、サイズレコメンドエンジンを利用することなどで解消可能です。さらに、購入した商品を店舗に取り寄せて試着、購入するスタイルも浸透しつつあります。

 ある調査会社によると、ユニセックスやジェンダーレスファッションの世界市場は毎年4.5%成長し、2028年には32億ドル(約4,444億円)に達するともいわれています。これまでのECサイトの弱点をカバーしつつ、ジェンダーレス消費に対応した仕組みを導入することで、新たなビジネスチャンスが創出できるかもしれません。

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