PHM(Prognostics and Health Management)は、高度なテクノロジーを用いてさまざまな機器の「故障予知」や「寿命予知」を行う手法のこと。センサーなどを通して取得した膨大なデータを活かしコンピューター上でリスクを予測することで、故障前に部品を修理したり、取り替えることが可能になると言われています。安全性の担保やコストダウンに貢献する手法として、おもに製造業で注目を集めるPHM、その概要や現状について解説します。
コストを抑えて品質を高める、新しい製造概念PHM
近年、製造業においてPHMが注目を集めています。PHMとは、製造現場の設備や製品の稼動状況を「Health(健康)」に例えて運用管理するシステム工学的な概念のこと。もともとは海外先進国の航空業界で研究が進められ、その後、自動車産業などでも活用されるようになってきました。
航空機や自動車は、「絶対に壊れることがあってはいけない精密機械」です。万が一、故障などのトラブルが起こると、多くの人の命が失われかねません。よって緻密に設計し、確実に製造し、何回もテストと検証を繰り返して、可能な限り不具合をなくして世に送り出す必要があるのです。ところがこうしたプロセスを、すべて試作機をつくって行うとなると、莫大なコストと時間がかかってしまいます。そこで、ビッグデータやAIを活用し、コンピューター上で故障予測を行うPHMの研究がスタートしました。
PHMの概念を用いれば、コンピューター上で機器の劣化進行をモデリングし残存寿命を予測したり、異常の予兆を捉えたり、さらに不具合を起こすであろう部品を特定することなどが可能です。こうした予測や検証を、実機でのテストを最小限に抑え、確実かつ効率的に行えるため、コストを削減しながら品質を向上させることができます。
現在は、おもに航空宇宙産業、自動車産業で活用されていますが、今後は製造業全般に大きく広がっていく見込みです。IoTやAI、ビッグデータを活用し、おもに製造業の業務プロセスを最適化するインダストリー4.0の核となる概念として、今後、世界中で応用が進むと予測されています。
徐々に増加している日本国内での取り組み事例
PHMの活用に向けた取り組みはアメリカでスタートしました。国内でも、徐々に採り入れる企業が増えています。どのような企業がどんな取り組みを行っているのか、紹介しましょう。
最初に紹介するのは、大手建設機器メーカーの取り組みです。同社は遠隔稼動管理システムを利用して、多くの建機から稼動データを収集しています。集めたビッグデータを分析し、現場の課題や非効率部分を洗い出し、顧客に対して生産性を向上させるための提案を実施。ビッグデータに基づいた理論的で透明性の高い提案を行うことで、効果的かつスピーディーに改善施策を採り入れてもらうことができ、顧客の満足度が高まりました。
次に紹介するのは、大手産業機器メーカーの事例です。日々の暮らしに欠かせないインフラ系の機器を数多く製造しており、高効率かつ壊れない製品をつくるためにPHMの導入と運用を決断しました。効率的にデータを取得するため、まずはコンピューター上で、製品に配置するセンサーの構成を検討するところからスタート。最適なセンサー構成を割り出した上でデータの収集と分析を進めました。こうして段階的に取り組みを進めることで、トラブルのメカニズムを、無駄なく、確実に、そしてなにより客観的にあぶり出すことができるようになったと言います。
ほかにも、自動車メーカーや空調機器メーカーなど、さまざまな日本企業がPHMを導入しています。研究段階の企業もあれば、業務プロセスへの実装が進んでいる企業もありますが、いずれにせよ、国内でも、その波がやってきつつある状況だと言えそうです。
本格導入への機運が高まるいま、データの収集だけでも始めておきたい
PHMの課題は「滅多に故障しない機器類から故障に関するデータを取ることが難しい」、「膨大なデータから使えるデータを見つけ出さなければならず労力がかかる」「効率よくデータを収集するには高度なセンサー設計が必要とされる」点だと指摘されています。とはいえ、これらの課題はセンサーデバイスやデータの計測分析技術、AIの急速な進化によって、現在解決しつつある状況です。また、PHMに関するコンサルティングを行う企業や、高度な関連ソリューションを提供する国内のSIerなども出てくるようになりました。これに伴い、今後、国内での導入や運用がしやすくなってくることでしょう。
一方で「導入のハードルが下がり切るのを待ってからデータを取り始めると出遅れてしまう」「技術を十分に活用できない」などの懸念も指摘されています。PHMの本格導入に向けた機運が高まるいま、データ収集のモデル設計だけでも、着手を検討してはいかがでしょうか。
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