2023.07.05 (Wed)

ビジネスを成功に導く極意(第54回)

半数以上の企業が副業・兼業を支持、ワーキッシュアクトの可能性を探る

 少子高齢化による労働力不足が叫ばれるなか、本業の仕事以外で自分のために起こした活動が結果としてほかの人のニーズを担う「ワーキッシュアクト」(Workish act)という新しい労働の考え方が注目されています。本記事では、ワーキッシュアクトの概念とその代表例である副業や兼業に期待されるビジネスへの効果について、国内事例を踏まえて紹介します。

多様な方法で労働を分担する「ワ―キッシュアクト」

 ワーキッシュアクトとは、「Workish(仕事っぽい)」と「act(活動)」を組み合わせた造語で、リクルートワークス研究所が名付けたものです。「本業の労働・仕事以外で何らかの報酬を得るために誰かの何かを担う性質がある活動」を意味します。狭義には、空き時間を利用して本業とは別の労働にスキルや人脈を活かす副業・兼業もそのひとつとして考えられます。

 また、例えばランニングしながら町の防犯パトロールや美化活動を行ったり、ゲームを通じてマンホールの位置情報を提供することでインフラ整備の仕事に一役買ったり、趣味の活動や日常習慣を通して不足する労働力を分担することも、ワーキッシュアクトに含まれます。ワーキッシュアクトはあくまで「自分のために」を起点とするため、その領域や対価はさまざまです。

 近年、多くの企業や自治体がワーキッシュアクトに関心を向ける背景には、労働力不足の深刻化があります。優秀な人材の流出を防ぐうえで、従業員の自己実現のニーズに応えられるのはもちろん、副業などで従業員が得たスキルや人脈を本業で活かすことも期待できます。また獲得競争が激しいデジタル人材を確保するために、異業種から副業人材を積極的に受け入れる企業・自治体も増えています。

ビジネス成長戦略としての副業・兼業の促進

 ワーキッシュアクトの中でも近年特に注目されているのが、副業や兼業の広がりです。日本政府による促進政策も後押しとなり、副業の容認と受け入れを行う企業は緩やかな増加傾向にあります。ある企業の調査によれば、2022年時点で回答企業の51.8%が従業員の副業・兼業を認める人事制度を有しており、48.6%が社外からの副業人材を受け入れているといいます。

 全日空空輸は、2020年の新型コロナ感染拡大に伴う大幅な減便で長期休業を余儀なくされた従業員に向けて、副業・兼業を解禁。翌年度には客室乗務員が勤務日数や居住地を選択できる制度も導入したことで、兼業者の数が飛躍的に増え、2022年時点で700名以上にのぼりました。兼業の内容は、地方を拠点にした観光業や語学スキルを活かしたビジネスの開業など多岐にわたります。その結果、給与のカットとは裏腹に従業員の仕事に対する満足度が向上し、兼業を通して地方における企業ブランドのプレゼンスも向上するなどビジネスへの効果も出ているそうです。

 静岡銀行は、従業員の副業・兼業を促進する社内公募制度を導入するとともに、必要とする部署で外部からの副業者の受け入れも実施しています。ICT業界の人材を副業者として受け入れたところ、YouTubeのライブ配信やSNSを活用した新卒採用の施策、他社との協業が生まれるなど、新たな取り組みの創出につながっているといいます。

 社外での副業や出向などの経験を、管理職への昇進の条件とすることを打ち出した三井住友海上火災保険の人事戦略の例もあります。急激な市場の変化に対応できる多様な視点をもった人材を育成し確保していくうえで、副業・兼業は企業の成長戦略のひとつに据えているのです。

副業・兼業がプラス効果となるためのポイント

 従業員の本業以外での労働が一般的に認められつつある一方で、容認制度の導入に二の足を踏む企業も一定数あります。理由として、社外での勤務内容の全把握が難しいことから、労災や労働時間などの管理が複雑になることが挙げられます。また、情報漏えいや人材流出のリスクなどへの懸念も、導入を阻む大きな要因となっています。

 これらのリスクを回避し、社外での労働を企業と従業員双方にとって効果あるものにするためには、最低限のルール設定と周知の徹底が必要です。情報漏えいリスクを軽減するために本業で支給するパソコンの副業先での使用を禁止したり、本業へのエンゲージメントを優先させるために副業希望者に勤続年数の要件を設けたりするなど、考えうるリスクへの対応が各社で取られています。

 すでに副業・兼業を容認している企業の多くは、本業外の労働時間に上限を設け、定期的な活動報告を必須としています。主たる目的は過重労働の予防ですが、ある調査では、こうした労働時間の把握や定期的なヒアリングなど副業に対する周りの支援体制が、副業者のモチベーション向上や視野の拡大といった本業へのプラスの効果を大きく左右すると指摘しています。

 上記のほか、一部の企業同士で副業案件を提供し合う「相互副業」で、これまで見えづらかった副業先での成長の検証や受け入れ体制の見直しを相互に行う取り組みも出てきており、導入検討の参考となる事例が増えてきました。企業や組織が抱える労働力不足の課題解決のカギとして、ワーキッシュアクトのさらなる展開が期待されます。

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