2021.09.07 (Tue)

ビジネスを成功に導く極意(第44回)

ワークマンを支える「Excel経営」とは?土屋専務に聞く

  
 10期連続最高益を達成し、急成長を続けるワークマン。躍進の一翼を担った“Excel経営”の裏側を、立役者である専務取締役 土屋哲雄氏に聞きました。

<目次>
凡人でも、データを使えば経営できる
全社員が簡単なExcel操作を習得。店舗運営もデータ経営の実験の場に
短期間で浸透した背景に「成功/失敗の共有」「低ハードルの表彰」
データ教育には社員の人生を変える力がある

凡人でも、データを使えば経営できる

 アパレル業界の中で、ワークマンはいま最も注目を集めている急成長企業と言っても過言ではないでしょう。2021年3月期通期決算では売り上げは1000億円を超え、10期連続最高益を達成。新型コロナウイルスによって業績低迷に悩む企業が多い同業界の中で、右肩上がりの成長を続けています。

 同社のコンセプトは、“最重要目標に集中し、それ以外はしない”という「しない経営」です。低価格の機能性ウェアというブルーオーシャンに狙いを定めた事業戦略は、同名の著書によってビジネスシーンで大きな話題を呼びました。

 そんなワークマンの好調を支えるもう一つの経営手法が「データ経営」です。

 データ経営と聞くと、データサイエンスなどの高度な知識やスキル持つ人材が先端のツールを活用している光景を思い浮かぶ方もいるかもしれません。しかし、ワークマンにおけるデータ経営では、各店舗の従業員が、Excelを使うというものです。どんな製品を開発すれば良いか、どの製品を店舗に配置すれば売上が上がるのか、といった分析を従業員自身がExcelで行い、改善を行っているのです。

 この“Excel経営”をワークマンに組み込んだのが、2012年に入社、当時常務取締役に着任した土屋哲雄氏です。土屋氏によると、当時のワークマンはデータ経営とはまったくかけ離れていたといいます。

株式会社ワークマン
専務取締役
土屋 哲雄 氏

 「当時、私が入社して驚いたのは、データ活用がほぼゼロの会社だったことです。極端にいえば、決算に必要な数字さえあれば問題ないという考え方です。店舗にある商品の在庫数すら十分に把握できていないのが当たり前でした」

 背景には、ワークマンは作業服というニッチな市場をターゲットとしており、創業から40年間、競争せずに事業が続けられていたことがあります。しかし土屋氏は、その市場はいずれ頭打ちになると懸念していました。

 そこで土屋氏は、従来の作業服市場はそのままに、新たなターゲットとして、低価格の機能性ウェアという空白市場の開拓と、開拓のためにデータ経営を行う方針を打ち立てます。

「低価格の機能性ウェアという第2のブルーオーシャン市場に対して、当然ながら誰も知見がありません。とはいえ、ワークマンには経営の天才がいるわけでもありません。そんな人は、世の中にごく一握りしかいません。たとえ凡人であっても 経営できる組織を作るには、データを活用するしかないと考えました」(土屋氏)

全社員が簡単なExcel操作を習得。店舗運営もデータ経営の実験の場に

 土屋氏が目をつけたのが、表計算ソフトのExcelです。高度なデータ分析ツールではなくExcelを選んだ理由は、操作が簡単なため、当時はデータ経営とは無縁だったワークマンの社員でも使えるのではないか、というものでした。

 土屋氏はExcelによるデータ経営を導入するため、全社員にVLOOKUPやSUMIFなど基本的な関数を扱うことを求めました。

 「社員それぞれが自分で関数を書き、データ分析ができるよう研修を実施し、平均90点を取るような試験問題も解いてもらいました。研修のテーマも、実際に店舗運営で行っている題材で分析させるなど、参加者が興味を持てる実践的な内容となるよう、細心の注意を払っています。結果、社員はExcelに対する恐れがなくなり、“仕事で使ってやろう”というモチベーションを持つようになりました」(土屋氏)

 データ教育の取り組みは、新人教育でも同様です。新入社員は、入社1年目は接客や商品知識を身につけますが、2年目から直営店の店長を経験し、現場でのデータ分析も行います。そこでは売場を改善した成果をデータで検証するレポートを毎月提出するよう義務付けているといいます。

 「データ分析の研修の総まとめとして、2年目の社員には店長という重要なポジションを任せています。実験の場と割り切っているため、店舗の売り上げについてはほとんど問題にしません。その代わり、データ教育の成果が出ていないと判断した場合は、教育担当者が駆けつけ指導を行います。ワークマンでは、それくらいデータ教育を重視しています」(土屋氏)

 研修を終えた社員はスーパーバイザー(SV)となり、店舗を巡回し、加盟店のオーナーにデータをもとにした品揃えの提案を行います。その後、希望に応じてロジスティクスや製品開発などに配置転換されます。

 「もし分析に秀でた社員がいれば、分析専門の部署でより深くデータに関わることもできます。こうすることで、現場での分析経験を持つ人材が社内全体に行き渡る仕組みにしています」(土屋氏)

短期間で浸透した背景に「成功/失敗の共有」「低ハードルの表彰」

 Excelによるデータ経営は、今やワークマンを支える屋台骨となっています。土屋氏が入社した2012年から10年も経っていませんが、なぜ短期間で浸透したのでしょうか。

 土屋氏は理由のひとつに、「失敗の共有」を指摘します。

 「ワークマンでは、分析チームが実験によってわかった事実を発表する機会を設けています。そこでは仮説どおりにいかなかった失敗事例も共有しています。例えば、陳列する商品の種類は同じでも、見せ方や陳列方法によってまったく売れないこともあります。こうした失敗は貴重です。重要な教訓をみんなで共有することで、データへの関心はより深まっていると思います」

 加えて、社長表彰のハードルを下げたのも効果的だったといいます。

 「ワークマンで社長表彰を受けるためには、たとえば製品開発であれば、年間100万着売れる製品を作れなければ取れません。しかしデータ活用に関してはハードルを思いっきり下げて、ちょっとしたツールを作れば、すぐ褒められるようにしました。こうすることで“ワークマンはデータを重視しているのだ”という会社の方向性や意気込みが、確実に従業員に伝えられます」

これまでに作られたExcelのツールは60種類を超えます。ワークマンでは、全社的に分析したいテーマを年によって絞り込み、多数のツールから年間2種類を重点的に使用しているといいます。Excelで作ったツールをより本格的に使用するべきだと判断されれば、社内システムへと移植されます。一度はExcelで簡単に試すことで、柔軟でスピード感のある対応ができ、時間をかけて作ったシステムが使われずムダな投資になってしまうことも避けられるのです。

データは社員の人生を変える力がある

 もちろん中には、Excelがうまく使えない社員もいます。しかしワークマンでは、Excelに触れるだけで、社員を大きく変える契機の1つになっているといいます。

 「Excelが不得意だった、ある社員の例を紹介しましょう。その社員は、性格的に押しが強く、データよりも直感で動くタイプのSVで、Excel研修も6回以上受けていました。しかし、研修後はデータを根拠にした話ができるようになり、担当する加盟店の業績も急激に伸びました。その結果、トップクラスのマネジャーに成長しました」

 結果が出るようになったのには、この社員が開発した「未導入製品発見ツール」の効果があるといいます。このツールは、Excelのフォームに店番を入れると、その店舗に置いていない製品が、他店でどれだけ売れていたか、その売上金額を順に表示するというものです。つまり、“導入しておけば、売れていた可能性があった”という機会損失を可視化するツールです。このツールを使うことで、他店で売れ行きの良い商品を仕入れようという判断につながります。

 「別の社員の例も紹介しましょう。その社員はコミュニケーションが苦手で、店長からの評価は低かったものの、データを根拠にすることで、自信を持って店長に説明できるようになりました。彼は現在、商品部に移り、データ分析グループの中心的存在として難しい需要予測を担当しています。いまやワークマンにとっては欠かせない貴重な人材です。

 データで話せるようになると、人は大きく変わります。自信のなかった人や、頼りなかった人が貴重な人材へと生まれ変わります。データは社員の人生を変える力があり、それは難しいことではなく、Excelから始めることができるのです。もちろん、取り組みが常にうまくいくとは限りません。データを過信し過ぎてときに失敗することもありますが、決して社員を咎めません。やらないよりもやって失敗するほうがはるかに学びになります。時間をかけてもいいから、愚直にデータに向き合って、未来を予測する力をつけていく。これが社員一人ひとりの能力の限界を引き上げ、ひいては会社の成長の限界を超えていけると考えています」(土屋氏)

土屋哲雄(つちや・てつお)
三井物産入社後、三井物産デジタル社長、本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、三井情報 取締役などを経て2012年にワークマンに入社。2019年に専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。著書に『ワークマン式「しない経営」』(ダイヤモンド社)がある。

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