いま製造業界で、クリエイターやスタートアップ企業と職人・製造工場をつなぐマッチングサイトが注目されています。コロナ禍でECサイトの需要が伸びる中、スモールスタートで商品の生産・販売を始めたい事業者と、新規取引先を見つけたい製造者双方の利用が増えているのです。その背景や動向を、関連サービスを含めて紹介します。
新たなビジネスモデル「D2C」の隆盛をサポートするサービス
近年、アパレル業界を中心に盛んになっている「D2C(Direct to consumer)」。これは、メーカーやブランドが、小売店や卸業者をはさまず自社のECサイトで直接消費者に販売するビジネスモデルのことです。コロナ禍による外出控えの影響でECサイトの需要が高まり、D2Cビジネスも急速に拡大しています。広告コンサルティング会社の「売れるネット広告社」が2020年9月に発表した市場動向調査では、2020年のデジタルD2C市場は昨年比109%の2兆2200億円に上り、2025年には3兆円に達する見込みと予測されました。
D2Cは事業者が仲介業者を通さずに商品の企画・製造から販売までを一貫して行うため、小ロットでの販売や受注販売がしやすく、スモールスタートで始められるのが利点です。販売のためのECサイトを簡単に制作できるプラットフォームが充実してきたことも、後押しになっています。
とはいえ、業界ネットワークを持たない個人のクリエイターやスタートアップ企業が、自社製品にマッチした製造工場を見つけ出すのは簡単ではありません。コロナ禍以降は特に、工場を見て回ったり、交渉や技術力チェックのため現場に足を運ぶことが難しくなっています。そんな中、注目を集めているのが、製造工場や職人たちとつながることできるマッチングサイトです。
製造業界のマッチングサイトには、アパレルや化粧品など商品の種類に特化したものもあれば、業界の垣根を超え、多くの大手企業が発注者として登録しているものもあります。発注者側としては、つくりたい商品に合った製造工場や職人を、一カ所ずつ独自に探すよりも少ない手間で見つけ出せるのがメリットです。登録された情報から事前に工場の技術力を確認したり、複数工場の見積もりを簡単に比較できるマッチングサイトもあります。対して受注側のメリットは、新規顧客の開拓がサイト上でできることです。取引先が分散すれば事業の安定化が期待できますし、これまで営業に割かれていた時間を製造に充てることで、品質を向上させることもできます。
細かいニーズに丁寧に対応することで利用が拡大
では、実際にどのようなマッチングサイトがスモールスタートのD2Cで利用されているのでしょうか。アパレルを中心にいくつかの例を紹介します。
「sitateru(シタテル)」は、縫製工場や生地メーカーなど、約1300社と提携している衣服生産プラットフォームです。利用者がサイトを通してつくりたい服のイメージを伝えると、専任のコンシェルジュが生産計画やデザインなどの相談に乗り、適した生産工場・生地を紹介したり、やり取りをサポートします。運営会社のデータベースには各工場の縫製レベルや対応可能アイテム、料金、発注から納品までにかかる期間、稼働状況といった情報があり、利用者の希望に応じたマッチングを行っています。2015年のリリース以降、個人のデザイナーはもちろん、ビームスやユナイテッドアローズなど有名セレクトショップに商品を卸すブランドなどの利用者も増やし、現在では約2万1000社が利用しています
革製品メーカーのナダヤが提供するのは、バッグや財布、名刺入れといった服飾雑貨のOEMメーカーに特化した「ものつく」です。服飾雑貨は生産工程が複雑なうえ、職人の手作業が多く、クリエイターの希望する商品に合った生産者を見つけるのが特に難しいジャンルです。「ものつく」では、生産者がポートフォリオを登録し、利用者が生産したい製品の形やロット数、納期などの条件を入力することでマッチングします。サンプル制作費の推奨や、料金仮払いシステムを取り入れ、生産者側も安心して使える仕組みをつくっています。
「Benten(べんてん)」 は、化粧品ビジネスに特化したマッチングサイトです。利用者がつくりたい化粧品に関する相談を行い、専門知識を有する事業者が回答を返すことで取引が始まります。このサイトの特徴は、化粧品そのものの製造に限らず、容器やパッケージ、薬機法 、イベント、PRといった化粧品ビジネスにまつわるあらゆる分野の専門家が受注者として登録しているところ。「いつも使う化粧水を自分でつくることはできるのか」「販売にあたって必要な商品表示や許可は」といった相談を気軽に行えます。
中小・零細工場のネットワークが今後の国内製造業界の支えに
製造業界におけるマッチングサービス事業は、クリエイターと職人・製造工場の出会いを生み出すことに加え、運営会社が各地に散らばる中小零細工場のハブとなって、ネットワークを構築できることにも大きな意味があります。ここ数十年で工場製品の生産拠点は海外へと移り、国内は弱体化が進んでいました。特に縫製工場には中小零細が多く、高い技術を有した職人がいても、それを生かせる場は減少の一途をたどっていたのです。
そんな中、2020年4月にマッチングサイト運営会社のリンカーズが、コロナ禍で不足する医療用ガウンの生産を各地の縫製工場をつないでサポートする取り組みを行い、成果を上げました。当時、中国からの輸入に頼っていた医療用ガウンが入手困難になり、国内での生産が急務に。そこで、リンカーズは自社サイト「Linkers Sourcing(リンカーズソーシング)」で生産可能な工場を募集しました。結果150社からの応募を集め、内30社に急ぎ製造を依頼したのです。
この時のカギは、国内に散らばる縫製工場を短期間でまとめて組織的な大量生産ができるかどうかでした。リンカーズはこれまでの事業で築いてきた企業とのつながりを生かして短期間で集め、月間約100万着の生産を実現したのです。
クリエイター、製造工場双方のサポートとともに、製造業界のネットワークを強化するマッチングサービス。この取り組みは今後日本のものづくりを支える、次の一手となっていくかもしれません。
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