ネット通販が普及したことで、ショッピングは大変便利になりましたが、それを家庭に届ける宅配業者の負担が大きくなっています。
これを受けて宅配業者は、サービスの縮小や値上げでこの苦境に対応しようとしていますが、その一方で、ユーザーの利便性も損なわないようなサービスも整い始めています。
増加し続ける荷物が宅配業者を苦しめる
宅配の荷物は増加傾向にあります。国土交通省の調べによる宅配便の配達数は、1990年度は約11億個でしたが、2015年度は約37億個と、約3倍に増えています。また、宅配最大手のヤマト運輸は、2016年度に配達した宅配便の数が18億6,756万個と、前年度を7.9%上回る、過去最多の数値であったと発表しています。
配達する荷物が増えたことにより、宅配スタッフの負担は増加しています。ドライバーが長時間労働を強いられ、その残業代が支払われないといったケースもあるといいます。
こうした事態を受け、ヤマト運輸は3月に、サービスの変更を発表。ドライバーの大きな負担となっている「再配達」について、受付の締め切り時刻を、4月24日から従来の20時から19時に切り上げると発表しました。さらに、配達時間帯の指定枠については、6月から「12時から14時」の時間帯を廃止し、「20時から21時」の時間帯を「19時から21時」に拡大することになりました。
ヤマト運輸ではこのほかにも、通販サイト「Amazon.co.jp」で行われている購入当日の配達サービスから撤退する方針であること、今秋より宅配料金の値上げを検討することが、一部報道で報じられています。
宅配業者側から見れば、これらの取り組みは自らの労働環境を改善するための施策です。しかしユーザー側から見れば、これまでのサービスが減ったり、値上げされる点において、不便を強いられることになります。
宅配業者にもユーザーにもメリットがある解決策とは
そんな中、宅配業者側にもユーザー側にもメリットがあるソリューションが普及しつつあります。そのひとつが「オープン型宅配便ロッカー」です。2017年1月に、環境省がオープン型宅配便ロッカー設置費用の半額を補助することを発表したこともあり、現在急速に設置が進んでいます。
オープン型宅配便ロッカーとは、駅やコンビニといった施設に設置される、宅配便の荷物を受け取るためのロッカーです。ユーザーが受取場所としてロッカーを指定すると、配送業者がロッカーの中に荷物を入れ、ユーザーはそれを受け取るというものです。配送業者は再配達の手間が少なくなり、ユーザー側もドライバーの都合に合わせることなく、好きな時間に受け取れるメリットがあります。ユーザーには受け取り用のワンタイムパスワードが通知されるため、第三者に荷物を奪われてしまうのを防ぐ仕組みになっています。
オープン型宅配便ロッカーのひとつに「PUDOステーション」というものがあります。「Packcity Japan(パックシティ ジャパン)」社が運営するオープン型宅配便ロッカーで、同社の株主であるヤマト運輸に加え、佐川急便、順豊エクスプレスといった配送業者の荷物も利用可能です。駅やコンビニだけではなく、駐車場やアパートなどに設置されているケースもあります。現在は東名阪を中心に展開されていますが、2022年までに全国5,000カ所への設置が予定されています。
オープン型宅配便ロッカーとしては、日本郵便の「はこぽす」もあります。はこぽすではゆうパックに加えて、書留ゆうメール、書留郵便も受け取れます。また、楽天市場などのECサイトで購入した商品の受け取りにも対応しています。さらに、荷物を差し出す際にも利用できます(はこぽす対応のECサイトの場合のみ)。
このほかにも、玄関に設置することで、配達のドライバーが留守宅にも荷物を預けることができる「宅配ボックス」も人気となっています。メーカーの中には、注文が想定を上回り、生産が追いつかないところもあるといいます。
人手不足の社会にこそ求められるソリューションがある
成長し続けるECサイトに対応し続けていた日本の宅配サービスですが、現行のやり方では、ひとつの限界を迎えてしまったといえそうです。今後は従来のサービスが減少したり値上げされるなどで、ユーザーが不便さを強いられるケースもあるでしょう。
前出したオープン型宅配便ロッカーや宅配ボックスは、こうした宅配業者側とユーザー側のアンマッチを解消するソリューションといえそうです。宅配業者側は再配達の手間が減り、ユーザー側は宅配業者の都合に合わせることなく、荷物を受け取ることができます。
人手不足は、宅配業界だけでなく日本の社会的な問題ですが、オープン型宅配便ロッカーや宅配ボックスといった、人と人の間をつなぐものに、解決の道があるのかもしれません。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年4月10日)のものです
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