2024.03.29 (Fri)
ビジネスを成功に導く極意(第62回)
モノを売らない店舗「ショールーミングストア」の可能性
店舗で商品を見た後、ネットで購入する「ショールーミング」は、かねてから小売店で問題視されていました。しかし最近は、ショールーミングに特化した店舗も登場しています。
店舗を「ショールーム代わり」に利用するのが当たり前に
「ショールーミング(Showrooming)」という言葉をご存知でしょうか?これは、商品を店舗でチェックした後、その店では購入せずに、オンラインショップで購入することを指す業界用語です。要は、実店舗をまるでショールームのように利用する顧客の行動のことを指します。
このショールーミングには、顧客側から見ていくつかのメリットが存在します。その1つが、実物を目で確かめてから購入できる点です。一般的なネットショップでは、顧客に対し実物のイメージができるよう、商品の画像を数点掲載しています。とはいえ、注文後に届いた商品を手に取った顧客が「イメージと違う……」と不満を抱くことは十分に起こり得ます。
こうした事態を避けるため、顧客はデザインやサイズ感、質感、機能性などを、自分のニーズやイメージにマッチするかどうかを確認するため、実店舗で購入するつもりはないのにわざわざ売り場に足を運び、実物をチェックしたうえで、ネットショップで注文をする、というわけです。
顧客がショールーミングを行う別の理由としては「価格」もあります。ネット上には多くのショップが存在し、中には実店舗以上に安価に購入できるケースもあります。そのため、たとえ店舗で気に入った商品を見つけたとしても、「この価格なら、ネットでもっと安く買える」と、実店舗での購入を諦め、ネットショップで注文をするというわけです。
総務省の情報通信白書によると、このようなショールーミングは家電量販店や日用雑貨、本、おもちゃ、ペット用品などの幅広い業種で行われており、オンライン購入者の多くが、何かしらの形でショールーミングを行っているという見解を示しています。白書では、大手ネットサイトである「Amazon」が成長した背景に、ショールーミングの存在があるとしています。
ショールーミングを禁止する方法とは?
ここまで述べてきたように、ショールーミングは顧客側にとってはメリットがあるものではありますが、一方で実店舗を運営する側としては、販売の機会をみすみす逃していることになるため、歓迎できるものではありません。
それどころか、競合他社であるネットショップの売り上げに繋がってしまうため、ショールーミングを選択する顧客が増えれば増えるほど、店舗運営を脅かす恐れも十分に考えられます。
このショールーミングを防ぐため、一部の店舗では「フィッティング・フィー(Fitting Fee)」を導入している店舗も存在します。これは、衣料品店で服を試着する際に、試着料金としてフィッティング・フィーを請求するというものです。実際に商品を購入すれば、フィッティング・フィーは返金されます。
逆にショールーミングに特化した店舗が存在する
このように、ショールーミングを禁止する方向で対策している店舗もありますが、逆に店舗での販売を行わず、ショールーミングに特化した店舗というものも存在します。それが、「ショールーミングストア」です。
ショールーミングストアでは、一般的な店舗と同様に商品が陳列されており、顧客は商品のデザインやサイズといった確認ができます。ただし、購入だけはネットショップを経由して行います。
ショールーミングストアは、店舗側にもメリットがあります。たとえば、店内に商品の在庫やレジなどの機器を導入する必要が無いため、小規模・少人数での運営が可能です。当然、レジ業務も不要のため、接客業務だけに集中できます。顧客とのコミュニケーションが深められる点もメリットといえるでしょう。
モノを売らない店舗「ショールーミングストア」の効果とは
実際に日本でも、ショールーミングストアがオープンしています。
大手デパートの「高島屋」では、美容グッズや食品、食器などを扱うショールーミングストア「Meetz Store」を、東京と京都で運営しています。店舗では、顧客は商品の体験はできますが、購入は店舗のポップに掲載されている二次元バーコードから、専用ECサイトにアクセスしたうえで行います。
この店舗はマーケティング活動への貢献も期待されており、店内のAIカメラから取得したデータや、オンラインストアの閲覧データ、店員が接客時に得た情報を出店ブランドに提供し、今後の商品開発に役立てることを狙っているといいます。
ファッションブランドの「ZARA」では、ショールーミングに特化した店舗を期間限定で東京・六本木に開設していました(現在は閉店)。来店客は2階のフィッティングルームで商品を試着し、購入はスマートフォンアプリやスタッフが持ち歩くデバイスを使って、オンラインで行い、13時までに購入した商品は、同日の18時以降に受け取れるといいます。フィッティングルームの待ち時間をアプリで確認できるサービスも導入されています。
かつては“店舗運営の敵”のような存在であったショールーミングですが、うまく活用すれば、顧客に新たな顧客体験を与えられるうえ、未知のデータが集められる、絶好のチャンスとなりえます。ネットショッピングが当たり前となった今、店舗側はショールーミングを禁止するよりも、ショールーミングを奨励することで利益を生み出す方向で店舗運営を考えていくべきといえるでしょう。
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