アベノミクス第三の矢・成長戦略の一環として、政府は労働移動、中高年の雇用、教育関連を重視した助成金制度を設けています。助成金はいってみれば、「返済不要の貸付金」のようなもの。上手に活用することで、ビジネスを上手に回すことができます。
本記事では、特に人事面で企業のビジネスに貢献する助成金をいくつか紹介します。実際の受給には細かな条件もありますので、申請する際には必ずハローワーク等で確認してください。
一時的な休業・出向をサポート「雇用調整助成金」
業績が悪化した際、社員の人員削減を検討する企業も多いでしょうが、それを避けるために、社員の一時的な休業・教育訓練・出向を実施するケースもあります。そのときに発生する費用の一部を負担してくれるのが、この「雇用調整助成金」です。
受給の対象となるのは、最近3カ月間の月平均で、売上高・生産量など事業活動を示す指標が前年同期に比べて10%以上減少し、かつ雇用保険加入者や派遣労働者が一定以上増えていない企業です。支給金額は以下のように設定されています。
(a)休業……支払った休業手当の3分の2(大企業は2分の1)
(b)教育訓練……職業に関連する3時間以上の教育訓練を条件に、支払った訓練費用の3分の2(大企業は2分の1)に1,200円/人を加えた額
(c)出向……3カ月以上1年以内の出向で、出向元が賃金の一部を負担したときにその負担額の3分の2(大企業は2分の1)
受給できる期間は、教育・休業で1年間に100日、3年であれば最大150日、出向で1年です。
社員の転職支援で受給できる「再就職支援助成金」
「再就職支援助成金」とは、リストラした社員の再就職支援を、民間職業紹介事業者に委託したり、求職活動のための休暇を与えたりすると、その社員ひとりにつき企業側が受けられる助成金です。ハローワークに再就職支援計画書を認可してもらうなど、いくつかの条件を満たす必要があります。支給額は以下のとおりです。
(a)再就職委託時……10万円
(b)委託費用……6カ月以内の再就職が決まった場合に費用の3分の2(大企業は2分の1)、45歳以上は9カ月以内の再就職が決まった場合に費用の5分の4(大企業は3分の2)。訓練やグループワークの委託による加算がある
(c)求職活動中の休暇……90日分を限度に、1日あたり7,000円(大企業は4,000円)、休暇中の賃金の支払いや、期間内の再就職など条件を満たす必要がある
「リストラを助長する」という批判もありますが、本来は労働力の移動をスムーズにするのが目的です。成長産業への労働移動や、会社と労働者のミスマッチを減らすための制度なのです。
新人さんいらっしゃい!「トライアル雇用奨励金」
職業経験や技能、知識が不足しているなどの理由で、「安定的な就職が困難な求職者」(後述)を試験的に雇用する際に受けられる助成金です。本採用を目指すための雇用であり、試用期間は一定期間であることといった条件があります。支給金額はひとりあたり月4万円、母子家庭の母、父子家庭の父の場合は月5万円です。
ここでいう「安定的な就職が困難な休職者」とは、以下のような状態にある人のことを指します。
・就労経験がない職業に就くことを希望している
・卒業後3年以内で安定した職業に就いていない
・2年以内に2回以上離職・転職をしている
・離職している期間が1年を超えている
・妊娠、出産、育児で離職し、安定した職業に就いていない期間が1年超
・生活保護受給者、母子家庭の母など、就職支援にあたって特別の配慮がいる求職者
ほかの助成金に比べると条件が緩いため、比較的しやすい助成金です。企業側だけではなく、求職者は新しい業界に挑戦しやすくなるという、双方にメリットがある助成金です。。
「高年齢者雇用開発特別奨励金」で高齢化社会に対応する
65歳以上の高齢者を採用すると受けられる助成金が「高年齢者雇用開発特別奨励金」です。ハローワーク、または民間の職業紹介事業者などからの紹介で、1年以上継続して雇用するなどの条件を満たすことで支給が受けられます。助成期間は1年で、トータルの助成金額は以下になります。
・短時間労働者…ひとりあたり40万円(大企業は30万円)
・短時間労働者以外…ひとりあたり60万円(大企業は50万円)
高齢者を雇用する際の助成金はこのほかにもいくつかあります。たとえば「特定就職困難者雇用開発助成金」は、60~64歳の高齢者雇用に、「高年齢者雇用安定助成金」は、高齢者向け作業環境の整備や高年齢者のための能力評価・賃金体系等制度の導入などに関係するものです。高齢化社会に適した助成金といえるでしょう。
企業による従業員の子育て支援をサポート「両立支援等助成金」
子育て支援を目的とする助成金です。事業所内で保育施設を設置するときや、育休中の代替要員を確保する際に支援が受けられます。かなり細かな条件が設定されているため、導入を検討するのであれば、ハローワークや社労士などの専門家に確認したほうがいいでしょう。ここでは参考として、一部の支給概要を紹介します。
まず、事業所内に保育施設を新しく設置・運用する場合、設置費用の3分の2(大企業は3分の1)の支援を受けることが可能です。支給の上限額は2300万円(大企業は上限1,500万円)です。
育休中の代替要員については、ひとりあたり30万円の支援があります。従業員満足、ひいてはCSRをアピールしたいと考えているのであれば、大いに検討の価値があるといえるでしょう。
非正規→正規雇用で助成金「キャリアアップ助成金」
近年注目が集まっている、非正規雇用者のキャリアアップ・待遇改善を促す助成金です。具体的には、有期契約者などの正規雇用への転換、または派遣労働者の直接雇用化を行うと受けられます。キャリアアップの対象となる労働者は、有期契約者、無期雇用者、派遣労働者などです
支給金額は細かく設定されており、有期から正規への転換で、ひとりあたり50万円(大企業は40万円)が支給されます。1年度1事業所15人が上限で、金額の変更も検討されています。
ここで紹介した正規雇用転換コースのほかにも、「人材育成」「処遇改善」「健康管理」「多様な正社員(短時間正社員)」「短時間労働者の週所定労働時間延長」といった5つのコースがあります。非正規雇用労働者の正社員転換に対する、政府の本気度の高さがうかがえます。
支給のハードルはやや高め「障がい者トライアル雇用奨励金」
就職が困難な障がい者を一定期間雇用し、適正や業務遂行可能性を見極めるための助成金です。期間は最長で3カ月、支給額はひとりあたり月額4万円。就労日数が少ない場合は減額されます。
支給を受けるためには、ハローワーク、または民間の職業紹介事業者などの紹介が必要といった、細かな条件も設定されています。たとえば継続雇用を考えている場合や、過去3年間に雇用予定の事業所で職場適応訓練を受けたことがある場合は、支給対象からはずれます。利用にあたっては専門家の指導を受けたほうがいいでしょう。
以上7つの助成金を紹介しましたが、基本的な申請手続きは厚生労働省のウェブページから必要な書類をダウンロードするところから始まります。ただし煩雑な手続きが必要なので、身近な専門家の知恵を借りることをおすすめします。細かな条件や申請方法は変更されている場合もありますので、ご注意ください。
連載記事一覧
- 第1回 劇的な変化をみせるネットスーパーが目指すもの 2016.04.12 (Tue)
- 第2回 家電メーカー「アクア」を成功に導いた風雲児 2016.04.19 (Tue)
- 第3回 下町ロケットを例に考える、競合に打ち勝つ戦略 2016.06.21 (Tue)
- 第4回 ロート製薬の副業解禁は朗報か悲報か? 2016.06.28 (Tue)
- 第5回 広島オバマ演説に見る最高の「問いかけ」手法 2016.07.13 (Wed)
- 第6回 「運が良い人」「運が悪い人」の違いはどこにある? 2016.10.13 (Thu)
- 第7回 非正規→正規雇用で助成金、経営に役立つ制度7選 2016.10.25 (Tue)
- 第8回 会話上手な人になるための3つのポイント 2016.11.17 (Thu)
- 第10回 手帳は「目盛り」があるものを選んだ方が良い!? 2017.02.17 (Fri)
- 第11回 中小企業必見、銀行の「融資姿勢」を知る指標がある 2017.03.09 (Thu)
- 第12回 辛いときこそ「ポジティブシンキング」すべき理由 2017.03.16 (Thu)
- 第13回 「宅配便ロッカー」に見る、人手不足問題の解決法 2017.04.17 (Mon)
- 第14回 どうしてGoogleはメールを使わなくなったのか!? 2017.06.15 (Thu)
- 第15回 たった5日間で難解な課題も解決するGoogleの仕事術 2017.08.04 (Fri)
- 第16回 企業の業務改善を実現する、いま話題の「BPM」とは 2017.08.08 (Tue)
- 第17回 サイバーエージェント流、社員の強みを伸ばす方法 2017.09.08 (Fri)
- 第18回 会議を無駄な時間としないための、3つのポイント 2017.10.11 (Wed)
- 第19回 あなたのToDoリストの作り方、間違っているかも!? 2017.10.18 (Wed)
- 第20回 美意識の向上が経営力のアップに!? 2017.11.20 (Mon)
- 第21回 タスク管理がはかどる手帳術「バレットジャーナル」 2017.12.14 (Thu)
- 第22回 中国が欲する日本サッカー育成術とビジネスの共通点 2017.12.26 (Tue)
- 第23回 アイディアが整理され、企画案がまとめやすいメモ術 2018.01.18 (Thu)
- 第24回 キャッシュレス化は後進国の国内カード事情 2018.02.20 (Tue)
- 第25回 3密必至の接客業にニューノーマルビジネスを学ぶ 2020.06.26 (Fri)
- 第26回 日本全国で初めて迎える“マスク × 夏 × 作業現場” 2020.06.26 (Fri)
- 第27回 仕事がスイスイ片付く「テレワーク時間管理術」 2020.09.29 (Tue)
- 第28回 ビジネスパーソンに不可欠、よい短文を書くコツ 2020.10.06 (Tue)
- 第29回 デキる人は実践済み、レポート・報告書作成のコツ 2020.10.06 (Tue)
- 第30回 デキる社会人は、なぜビジネス手帳を使うのか 2021.02.19 (Fri)
- 第31回 「伝わる」プレゼン資料作成5つの鉄則 2021.03.09 (Tue)
- 第32回 絶対に知りたい、副業をはじめる際のポイント 2021.03.09 (Tue)
- 第33回 それ、間違いかも!? 戸惑いがちなビジネスマナー 2021.03.12 (Fri)
- 第34回 日本に必要なのは「問題児」。APU出口学長が語る 2021.04.19 (Mon)
- 第35回 好感を与えるメール署名の書き方 2021.05.31 (Mon)
- 第36回 建設の人手不足を解消する、子ども向けキャリア教育 2021.06.03 (Thu)
- 第37回 職人・工場をつなぐ製造業ビジネスマッチングサイト 2021.06.03 (Thu)
- 第39回 「かかりつけ薬剤師」に指名されるための3つの方法 2021.06.15 (Tue)
- 第40回 かっぱ寿司やパルコも導入「サービスロボット」とは 2021.06.15 (Tue)
- 第41回 「もうすぐ故障」がわかる、故障予知技術のいま 2021.06.15 (Tue)
- 第42回 ウェブ会議をうまく仕切る人がやっていること 2021.06.15 (Tue)
- 第43回 コロナ禍で明暗を分ける"与える営業"と"もらう営業"2021.06.23 (Wed)
- 第44回 ワークマンを支える「Excel経営」とは?土屋専務に聞く 2021.09.07 (Tue)
- 第45回 レトロブームにみる若手社会人の新しく古い価値観 2021.09.14 (Tue)
- 第46回 大手や中小企業も活用、BtoBマッチングサービスとは 2021.09.14 (Tue)
- 第47回 コロナ禍でも、実店舗で売上をUPする方法がある 2021.09.28 (Tue)
- 第48回 スポーツ分析官が語る、組織が成長するデータ活用術 2021.09.30 (Thu)
- 第49回 「ディフェンス重視」が、生き残る企業の条件になる 2022.06.27 (Mon)
- 第50回 ビジネス拡大の可能性を秘めた「サステナブル・シーフード」とは2023.04.28 (Fri)
- 第51回 大谷選手のCMが証明した、ジェンダーレス市場ECの勝算2023.04.28 (Fri)
- 第52回 なぜ音声コンテンツはZ世代の心を掴むのか2023.05.30 (Tue)
- 第53回 バーチャル・トライオンとは?事例を交えて紹介2023.07.05 (Wed)
- 第54回 半数以上の企業が副業・兼業を支持、ワーキッシュアクトの可能性を探る2023.07.05 (Wed)
- 第56回 挑戦がブランドになる。財政難バスケチームの逆転劇2023.11.22 (Wed)
- 第57回 2億円の売上増↑山形の製造業はDXで何を変えたのか2023.11.22 (Wed)
- 第58回 なぜ大谷翔平は、野球と関係の薄い企業の広告に起用されるのか?2024.03.01 (Fri)
- 第62回 市民と行政の間の溝を「シビックテック」が埋める2024.03.29 (Fri)
- 第62回 モノを売らない店舗「ショールーミングストア」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第60回 万博で話題の「空飛ぶクルマ」ってどんなクルマ?2024.03.29 (Fri)
- 第61回 高円寺の老舗銭湯が挑む「あえて無駄を残す」DX 2024.03.29 (Fri)