2022.06.27 (Mon)
ビジネスを成功に導く極意(第49回)
「ディフェンス重視」が、生き残る企業の条件になる
不確実な時代の中、生き残る企業と消える企業の差はどこにあるのでしょうか。“スーパー経理部長”の異名を持つ前田康二郎氏に聞くと、その差は「ディフェンス」にあるようです。
<目次>
- 不確実な時代は、「攻め」よりも「守り」の方が効く
- 管理部門をないがしろにする企業はうまくいかない
- 誰も考えたくない「売上減」のリスクも想定しよう
- 従業員の言葉で、経営者は動く
- 不確実な時代が続くのであれば、常に組織を変化していけば良い
不確実な時代は、「攻め」よりも「守り」の方が効く
新型コロナウイルス感染症の流行や、ロシアのウクライナ侵攻、急速な円安の進行など、先行きが簡単には見えない時代が訪れています。これまではうまくビジネスを続けてきた企業も、社会の急速な変化によってビジネスの風向きが変わってしまい、経営が不安定になってしまう恐れがあります。
こうした社会の変化が激しい不確実な時代において、企業が生き残るためにはどうすれば良いのでしょうか?この命題に対して、「ディフェンス(守り)」の重要性を主張するのが、経営・会計コンサルタントの前田康二郎氏です。
前田氏は複数の企業にて経理業務を務めた後、2011年に独立し、リーマンショック後に経営難に陥っていた企業経営の再建に尽力。現在はベンチャー企業やIPO準備企業などの顧問、社外役員も兼務しています。さらに、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(日本経済新聞出版刊)、『図で考えると会社は良くなる』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(いずれもクロスメディア・パブリッシング刊)といった著書も上梓しています。
前田氏が重要視する「ディフェンス」とは、リスク管理のことです。前田氏は多くの企業では、“オフェンス(攻め)”ばかりでリスク管理ができていないと指摘します。
「多くの企業は、営業や現場出身者の手により創業しています。そうした人たちは売上に直接結びつく営業活動など、いわゆる“オフェンス”に注力しがちです。しかし、売上を上げることは社会の状況に左右されやすく、自社だけでコントロールすることは困難です。
一方でリスク管理は、あらかじめ備えていれば、自社でコントロールしやすい領域です。オフェンスが強くてもディフェンスの弱い企業は、一見強く見えたとしても、よく見ると弱点があるものです」(前田氏)
管理部門をないがしろにする企業はうまくいかない
それでは、「ディフェンス(リスク管理)」を高めるためには、具体的には何をすれば良いのでしょうか。前田氏は、総務や経理など「管理部門」を強化すべきと指摘します。
「私は経営コンサルタントとして数多くの企業を見てきましたが、管理部門をないがしろにする企業はほとんどうまくいっていません。そもそも管理部門に無関心だったり、事務関連のノウハウがなかったりする事例が目立ちます」
企業の中には、企業内に管理部門を構えず、外注しているというケースもあるでしょう。しかし前田氏は、総務や経理は社内に置くことを推奨しています。
「例えばメーカーでは、モノが売れているのに利益が出ていないということがよくありますが、これは現場サイドが、在庫が足りなくなることを避けようと、原材料を多めに仕入れていることも1つの要因に挙げられます。過剰な在庫を知られないように、余っている材料を隠す現場すらあります。
こうした問題も、管理部門がしっかり機能していれば、原材料がどれだけ使われ、どれだけ残っているかがわかります。ビジネスモデルが正しいにもかかわらず、利益が出ない事例の裏を調べてみると、管理部門で見抜ける問題はたくさんあります。成功したいのであれば、社内に企業経営のリスク管理ができる数字に強い人材を置くべきです」
誰も考えたくない「売上減」のリスクも想定しよう
前田氏が管理部門の強化を推奨する別の理由として、急激な売上減が発生した場合のシミュレーションができる点も挙げています。
「経営者は、売上減のことについてはあまり考えたくないものです。だからこそ管理部門が、経営者の代わりとなり、売上減となった場合の対応策を検討すべきです。企業経営にはどうしてもリスクは存在します。今回のコロナ禍がまさにその証明といえるでしょう。企業経営の核となる売上減がリスクヘッジとなる新規事業も含めて検討できれば、未曾有の事態が起こったとしても、企業経営は続けられるでしょう。
特に、自然災害や疫病などの外敵リスクは突発的に発生することが多いため、常に具体的な備えをしておくことが大切です。売上が上がらなくなった時に、資金は何カ月持つのか、融資を受けることは可能か、といった現在の事業の継続性を考え、そこからどのような施策を打つべきか、具体策を事前に考えておくべきです」(前田氏)
リスクの管理という観点では、管理部門だけではなく、「税理士」との関係を見直すことも重要であるといいます。
「税理士は誰にお願いしても同じではありません。たとえば事務処理だけに特化する税理士もいれば、経営相談が得意な税理士もいるなど、タイプはさまざまです。リスク管理を強化するためには、困った時にはアイデアを出してくれて、リスクがあるときには警告し、お金の話以外のことにも協力してくれそうな税理士を探すことが大切です」(前田氏)
従業員の言葉で、経営者は動く
前田氏は管理部門の強化のためには、「業務のデジタル化」が重要になるとしています。経営者は従業員が働く環境のデジタル化を推し進めることで、業務の効率化を図るべきとしています。
「強い企業になるためには、社員の柔軟な思考を妨げないよう、業務の効率化が欠かせません。特に管理部門は、先に触れたようにリスクをシミュレーションするなど、考えるべきことはたくさんあります。仕事を効率化して事務処理などの処理に追われずに、いろいろな発想が出てきやすい環境づくりが大切です。そのためにも積極的なデジタルツールの活用が求められます」
経営者が従業員の環境を整える一方で、従業員もまた、経営者に対する向き合い方を変えるべきと、前田氏は指摘します。
「自分の要望を経営者に提案し承認してもらうには、自分のメリットだけでなく、経営者にもメリットがなくては耳を傾けてもらえません。そこで、経営者の目線に立って、自分の要望がどう映るかを考え、どのように提案すれば経営者が納得するか俯瞰してみることが大切です。
たとえば経理担当者が『経理ソフトを最新のものに入れ替えたい』と考えていたとしても、単に『入れ替えたい』と要望を出すだけでは、“古いソフトがまだ使えるでしょう”と却下される恐れがあります。しかし、『作業が効率化できる新しいソフトを使えば2日早く業務を完了することができ、経営判断の迅速化につながる』と、事業におけるメリットを説明すれば、上長も納得しやすく、従業員の職場環境も改善されるでしょう」
不確実な時代が続くのであれば、常に組織を変化していけばよい
ここまで述べてきたように、不確実でさまざまな変化が起こりうる社会であっても、常にリスクを想定しておけば、ビジネスは継続することが可能になります。とはいえ、今までリスクについて考えることを避けてきた企業が急に変われるかというと、そう簡単にはいかないケースも予想されます。
しかし前田氏は、日々のちょっとしたことから変えていくことで、変化に対応する企業文化は作れると主張します。
「たとえば、毎月1つずつ、従業員個人、各部署、企業全体の課題を洗い出し、改善していくことでも、企業の文化は変えられます。『アポを○件取る』『遅刻をしない』といった小さな改善で構いません。毎月1つの課題を改善していけば、個人、部署、企業それぞれで、1年につき12個の課題が改善されます。全員が達成できるようにあまり高い目標を設けず、必ず全員が守ることが重要です。継続的に課題を改善していくことで、改善が習慣になり、変化に対応しやすい組織ができます。
加えて、『敬意のある職場づくり』も重要です。中小企業を中心に、日本企業は家族的な企業風土を持つことが多く、手助けしてもらっても、言葉で感謝の気持ちを伝えないことがあります。そうした小さな積み重ねが、いつしか大きな衝突になる恐れもあります。『親しき仲にも敬意あり』という言葉もあるように、上司と部下、同僚同士でも、互いにねぎらいの言葉や感謝の一言を添えるべきでしょう。各従業員の敬意のある行動が、会社の数字を作る上でも非常に重要なポイントとなります。
すべての従業員が、自分のことだけを考えるのではなく、お互いのことを考えながら、敬意を持って接することが、不確実な時代における、強い企業と弱い企業の差につながっていくと、私は考えています」(前田氏)
前田康二郎(まえだこうじろう)
流創株式会社 代表取締役。数社の民間企業にて経理業務を中心とした管理業務全般に従事し、2008年に経理部長としてIPOを達成。その後中国現地法人の設立、内部統制業務などに携わった後、2011年に独立して現職。著書に『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(クロスメディア・パブリッシング)など
©2022 NTTCom Online Marketing Solutions Corporation
連載記事一覧
- 第1回 劇的な変化をみせるネットスーパーが目指すもの 2016.04.12 (Tue)
- 第2回 家電メーカー「アクア」を成功に導いた風雲児 2016.04.19 (Tue)
- 第3回 下町ロケットを例に考える、競合に打ち勝つ戦略 2016.06.21 (Tue)
- 第4回 ロート製薬の副業解禁は朗報か悲報か? 2016.06.28 (Tue)
- 第5回 広島オバマ演説に見る最高の「問いかけ」手法 2016.07.13 (Wed)
- 第6回 「運が良い人」「運が悪い人」の違いはどこにある? 2016.10.13 (Thu)
- 第7回 非正規→正規雇用で助成金、経営に役立つ制度7選 2016.10.25 (Tue)
- 第8回 会話上手な人になるための3つのポイント 2016.11.17 (Thu)
- 第10回 手帳は「目盛り」があるものを選んだ方が良い!? 2017.02.17 (Fri)
- 第11回 中小企業必見、銀行の「融資姿勢」を知る指標がある 2017.03.09 (Thu)
- 第12回 辛いときこそ「ポジティブシンキング」すべき理由 2017.03.16 (Thu)
- 第13回 「宅配便ロッカー」に見る、人手不足問題の解決法 2017.04.17 (Mon)
- 第14回 どうしてGoogleはメールを使わなくなったのか!? 2017.06.15 (Thu)
- 第15回 たった5日間で難解な課題も解決するGoogleの仕事術 2017.08.04 (Fri)
- 第16回 企業の業務改善を実現する、いま話題の「BPM」とは 2017.08.08 (Tue)
- 第17回 サイバーエージェント流、社員の強みを伸ばす方法 2017.09.08 (Fri)
- 第18回 会議を無駄な時間としないための、3つのポイント 2017.10.11 (Wed)
- 第19回 あなたのToDoリストの作り方、間違っているかも!? 2017.10.18 (Wed)
- 第20回 美意識の向上が経営力のアップに!? 2017.11.20 (Mon)
- 第21回 タスク管理がはかどる手帳術「バレットジャーナル」 2017.12.14 (Thu)
- 第22回 中国が欲する日本サッカー育成術とビジネスの共通点 2017.12.26 (Tue)
- 第23回 アイディアが整理され、企画案がまとめやすいメモ術 2018.01.18 (Thu)
- 第24回 キャッシュレス化は後進国の国内カード事情 2018.02.20 (Tue)
- 第25回 3密必至の接客業にニューノーマルビジネスを学ぶ 2020.06.26 (Fri)
- 第26回 日本全国で初めて迎える“マスク × 夏 × 作業現場” 2020.06.26 (Fri)
- 第27回 仕事がスイスイ片付く「テレワーク時間管理術」 2020.09.29 (Tue)
- 第28回 ビジネスパーソンに不可欠、よい短文を書くコツ 2020.10.06 (Tue)
- 第29回 デキる人は実践済み、レポート・報告書作成のコツ 2020.10.06 (Tue)
- 第30回 デキる社会人は、なぜビジネス手帳を使うのか 2021.02.19 (Fri)
- 第31回 「伝わる」プレゼン資料作成5つの鉄則 2021.03.09 (Tue)
- 第32回 絶対に知りたい、副業をはじめる際のポイント 2021.03.09 (Tue)
- 第33回 それ、間違いかも!? 戸惑いがちなビジネスマナー 2021.03.12 (Fri)
- 第34回 日本に必要なのは「問題児」。APU出口学長が語る 2021.04.19 (Mon)
- 第35回 好感を与えるメール署名の書き方 2021.05.31 (Mon)
- 第36回 建設の人手不足を解消する、子ども向けキャリア教育 2021.06.03 (Thu)
- 第37回 職人・工場をつなぐ製造業ビジネスマッチングサイト 2021.06.03 (Thu)
- 第39回 「かかりつけ薬剤師」に指名されるための3つの方法 2021.06.15 (Tue)
- 第40回 かっぱ寿司やパルコも導入「サービスロボット」とは 2021.06.15 (Tue)
- 第41回 「もうすぐ故障」がわかる、故障予知技術のいま 2021.06.15 (Tue)
- 第42回 ウェブ会議をうまく仕切る人がやっていること 2021.06.15 (Tue)
- 第43回 コロナ禍で明暗を分ける"与える営業"と"もらう営業"2021.06.23 (Wed)
- 第44回 ワークマンを支える「Excel経営」とは?土屋専務に聞く 2021.09.07 (Tue)
- 第45回 レトロブームにみる若手社会人の新しく古い価値観 2021.09.14 (Tue)
- 第46回 大手や中小企業も活用、BtoBマッチングサービスとは 2021.09.14 (Tue)
- 第47回 コロナ禍でも、実店舗で売上をUPする方法がある 2021.09.28 (Tue)
- 第48回 スポーツ分析官が語る、組織が成長するデータ活用術 2021.09.30 (Thu)
- 第49回 「ディフェンス重視」が、生き残る企業の条件になる 2022.06.27 (Mon)
- 第50回 ビジネス拡大の可能性を秘めた「サステナブル・シーフード」とは2023.04.28 (Fri)
- 第51回 大谷選手のCMが証明した、ジェンダーレス市場ECの勝算2023.04.28 (Fri)
- 第52回 なぜ音声コンテンツはZ世代の心を掴むのか2023.05.30 (Tue)
- 第53回 バーチャル・トライオンとは?事例を交えて紹介2023.07.05 (Wed)
- 第54回 半数以上の企業が副業・兼業を支持、ワーキッシュアクトの可能性を探る2023.07.05 (Wed)
- 第56回 挑戦がブランドになる。財政難バスケチームの逆転劇2023.11.22 (Wed)
- 第57回 2億円の売上増↑山形の製造業はDXで何を変えたのか2023.11.22 (Wed)
- 第58回 なぜ大谷翔平は、野球と関係の薄い企業の広告に起用されるのか?2024.03.01 (Fri)
- 第62回 市民と行政の間の溝を「シビックテック」が埋める2024.03.29 (Fri)
- 第62回 モノを売らない店舗「ショールーミングストア」の可能性2024.03.29 (Fri)
- 第60回 万博で話題の「空飛ぶクルマ」ってどんなクルマ?2024.03.29 (Fri)
- 第61回 高円寺の老舗銭湯が挑む「あえて無駄を残す」DX 2024.03.29 (Fri)