2023.11.22 (Wed)

ビジネスを成功に導く極意(第56回)

挑戦がブランドになる。財政難バスケチームの逆転劇

 バスケBリーグの「レバンガ北海道」は、かつて深刻な財政難に悩んでいました。しかし、数々の新しい挑戦が実を結び、黒字転換に成功しました。どんな挑戦を行ったのでしょうか?

レバンガ北海道は、なぜ財政難→黒字に成功したのか?

 2023年8月に開催されたバスケットボールの世界大会「FIBAバスケットボール ワールドカップ」にて、男子日本代表チームは3勝2敗で出場32カ国中19位となり、アジア地区のチームにおける最高順位を記録。2024年にフランス・パリで開催される五輪大会への出場権を獲得しました。

 バスケ日本代表チームが好成績を残した背景には、2015年に設立された日本のプロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE(以降、Bリーグ)」の存在があるかもしれません。代表チームのメンバー12名のうち、実に9人もの選手がBリーグのチームに所属していました。Bリーグには現在38チームが参加しており、全国各地で選手たちがしのぎを削っています。

 北海道に拠点を構える「レバンガ北海道」も、Bリーグのチームのひとつです。直近の2022-23年シーズンの順位は、東地区の8チーム中7位と振るいませんでしたが、Bリーグ発足以降、トップディビジョンであるB1リーグに常に所属し続ける実力を持つチームです。

 レバンガ北海道はビジネス面でも安定した経営を続けています。運営会社である株式会社レバンガ北海道の2022年度(2021年7月~2022年6月)の売上高は約10億円で、これは2021年度の同期と比べて137.9%となり、6期連続の単年度黒字を達成しています。

 しかし、数年前までのレバンガ北海道は財政難に苦しんでおり、赤字が続く危険な状態だったと言います。なぜ財政難を克服し、黒字に転換することができたのでしょうか?株式会社レバンガ北海道 代表取締役CEOの横田 陽氏に、赤字から黒字転換に至るまでの話と、改革が進むBリーグの未来に向けた展望を聞きました。

「強いチームでなければ稼げない」は幻想である

 レバンガ北海道が発足したのは、Bリーグ発足前の2011年のこと。それまで北海道に存在していたプロバスケットボールチームが経営破綻し、北海道からプロバスケットボールチームをなくしてはいけないとの思いで、当時現役選手であった現・株式会社レバンガ北海道 社長の折茂 武彦氏が異例の代表兼選手として立ち上げたのがレバンガ北海道です。しかし、発足当初は厳しい状況が続きました。

 「チーム発足当初から赤字経営で、チーム運営自体が危ぶまれていました。自分が入社した2014年の段階においても、半年先の営業目標や経営理念、ビジョンも無いに等しく、営業活動するにも、営業資料すらまともにない状況でした」(横田氏)

 横田氏は、当時のレバンガ北海道の経営がうまくいかなかった大きな原因として、組織全体が「強いチームでなければ稼げない」という考えに至ってしまっていたことを挙げました。

 「プロスポーツチームは当然ながら勝利という結果が求められ、ファンの皆さま、パートナー企業の皆さまなど、関わる全ての方が勝利を願って応援してくださっています。クラブとしても大前提として勝利にコミットしなければなりませんが、当時のレバンガ北海道は潤沢ではない予算の優先度をチームに置いており、“経営改善=強いチームになるしかない”という幻想にとらわれていました。そのことは、赤字経営の大きな要因になっていたと思います。

 チームが勝利することで一定数の来場者も増えることは間違いなく、それによって収益改善にもつながります。しかし、経営サイドの考え方としては、自分たちでコントロールできない試合の結果にビジネスが左右されてしまうことは経営上リスクが高く、不安定であると言えます。2016年から自分自身が経営的な立場となって取り組んだことはシンプルで、事業計画を見直し、勝利以外の価値づくりを徹底するとともに、効率的なコストダウンを図りました」(横田氏)

 コストダウンの中心として考えたのがチームの強化費でした。

 「これまではチームの人件費へのインパクトが大きく、“勝利”という結果が安定して出ることを想定し、営業収入やチケット収入などのアップセル(顧客の単価をアップすること)を見込んでいました。そのため、敗戦などネガティブな結果が出た場合には、当初見込んでいたインセンティブが上がらなくなってしまうという、負のスパイラルに陥っていました。

 こうした状況を改善し、安定経営の基盤を確立するために、まずは前年ベースの売上を基に予算の上限を算出。売上の30~35%以下でロスター(バスケットボール用語で、チームに登録されているメンバーのこと)の人件費を賄うよう、金額をチームの編成部に提示しました。時には、Bリーグで認められている特別指定選手制度(満22歳以下のアマチュアバスケットボール選手を選手登録する制度)を活用するなど、限られた予算の中で最適なロスターを組むことで、勝率を維持しつつ、人件費の軽減を図りました」(横田氏)

 このような経営改革により、レバンガ北海道がBリーグ入りを果たした2016年には、クラブ初の黒字転換を果たすことができました。

集客の秘訣は「共感・愛着づくり」にあり

 しかしレバンガ北海道には、まだまだクリアすべき基準がありました。

 実はBリーグには、参加チームに厳しい財務基準が設けられており、たとえばB1リーグのチームには、クラブを運営する法人の売上高が税抜きで3億円以上、3期連続で赤字になってはいけない、債務超過であってはならないなどのルールが設けられています(※)。レバンガ北海道がBリーグのチームであり続けるためには、その基準を満たし続ける必要がありました。

※B.LEAGUE 2022-23「クラブライセンス交付規則」参照

 2016シーズン以降、レバンガ北海道はようやく達成した黒字化を維持するため、集客力の向上に力を入れることを決定。新たな取り組みとして、デジタルマーケティングをスタートすることとしました。

 デジタルマーケティングにおける具体的な施策の一つが、インターネット上における、チームのさまざまな情報をまとめたランディングページ(LP)の構築です。

 LPとは、ユーザーが検索サイトや広告を経由した際に、最初にたどり着くページのことです。レバンガ北海道のLPは、基本的にホームゲーム毎に作成されています。試合の見どころやイベント情報、会場アクセスなどが掲載されており、そこからチケット販売へ誘導するという、コンバージョン(成果)へつなげるための一連の流れがデザインされたページとなっています。

さらに、観客の属性を分析することで観客層をセグメント化(分類化)し、適切なターゲット層に広告を配信して、LPを経由してチケットサイトへの誘導を促しました。

 「これまでは地域の皆さまに、レバンガ北海道の存在や活動を知っていただくために、チラシ配布や学校訪問やイベントなどでの直接的なタッチポイントを設けていました。この部分の強化は継続しながら、予算をかけることができなかった“空中戦”を展開するために、専門のデザイン会社に依頼し、節ごとにさまざまな企画を用意したキービジュアルを展開しました。

  LPには試合以外のコンテンツを充実させたことで、LP自体の価値が高まり、CVR(コンバージョンレート:Webサイト訪問者のうち、購入や問い合わせなどの成果に至った件数の割合)も向上していくことができました」(横田氏)

 LP施策に加えて、レバンガ北海道では初めてBリーグに訪れた方に“2度目の来場”を促す取り組みも強化しました。

 「負けても楽しかったと思えるイベントや演出、試合の勝敗に左右されない会場づくりを徹底しました。選手たちも、たとえばSNSでの発信をするなど、集客やブランディングの意図を理解したアクションを主体的に起こしてくれました。結果的に、ファンやブースター(バスケットボール用語で、特定のチームを応援する人)の皆さまの満足度向上につながったと思います。

 このようなデジタルとリアルの両面でのマーケティングにより、2017年の集客率は前年比160%にまで向上しました」(横田氏)

バスケットチームであると同時に、地域の「御用聞き」でもある

 集客の向上に加えて、チームのスポンサーに対する広告効果の数値化にも取り組みました。

 「スポーツチームに広告を出稿した場合、クライアントに対して広告効果を価値換算することは簡単ではありませんが、マーケティング会社に依頼して、チームの広告出稿に対する露出換算を調査し、スポンサーになることのメリットを数値化しました。さらに、ファンに対する調査も実施し、いかにクラブのファンの方々が、クラブを支援してくださっているパートナー企業のことを好意的に感じているかも数値化しました。

 こうしたファンエンゲージメント(チームとファンとの深いつながり)がもたらすアップリフト(上昇効果)を提示することで、幅を広げた営業提案をするようになりました」(横田氏)

 横田氏は企業との関わり合いについて、決してスポンサーという形にとどまらず、その他の企業や行政、地域の人々を結びつけるハブとなり、地域の活性化に貢献していきたいとしています。

 「レバンガ北海道は、“御用聞き”のような立場で、企業や行政と向き合っていきたいと考えています。言うなれば『三方よし』の考えを大事にした地方創生が理想です。もちろん、我々が企業や行政の課題を全て解決することはできません。しかし、400社を超えるパートナー企業や取引先を通じた解決策の提案はできます。地域とパートナー企業をつなぐことが、我々の強みであると思っています。

 それによって地域は経済的な支援を受けられたり、パートナー企業は行政と関係を深められたり、といったつながりをマッチングするハブになっていくこともプロスポーツチームの存在意義であると捉えています」(横田氏)

失敗しても、その挑戦がブランドになる

 レバンガ北海道では、集客やスポンサー提案以外にも、さまざまな取り組みをスタートしています。

 2018年にはeスポーツのチームとして『レバンガ☆SAPPORO』を設立。現在8名のプロゲーマーと、3名のストリーマー(映像配信や編集、ゲームの実況を行う人)が所属しています。

 2019年には、一般企業が利用するようなクラウド人材管理ツールを導入。アカデミーの選手のデータを登録し、育成に活用しています。

 2022年には、クラブへの応援の“しるし”や“証”の役割を果たす代用貨幣「トークン」の発行をスタート。一定以上のトークンを保有するユーザーに対し、NFT(非代替性トークン、所有証明書付きのデジタルデータのこと)をプレゼントする取り組みもスタートしています。

 「当社はプロバスケットボールチームの運営会社でありますが、『試合』という商品をお見せすることだけが目的ではなく、理念の実現のためにバスケットボールを通してさまざまな領域とつながることが大事であると考えています。

 クラブの理念である”北海道から『人』や『社会』に感動を届け、世の中を笑顔にする”を実現するために、バスケットボールはもちろんですが、eスポーツというコンテンツを育て、これまで関わりのなかったゲームユーザーの方々にゲームを通して感動をお届けするということも理念に紐づいた多角経営につなげています。単純に真新しさや別分野への参入を考えているわけではなく、理念の実現に寄与できること、内的なアセット(資源)を活用できること、本業とのシナジーが発揮できること、などの観点を見極めながら進めています」(横田氏)

 このようにさまざまな施策を打ち出しているレバンガ北海道ですが、中には期待通りの成果が挙げられなかった施策もありました。しかし、たとえ失敗に終わったとしても、「失敗もブランディングの一つ」とポジティブに捉える社風があると言います。

 「レバンガ北海道では、目標達成のコンピテンシー(仕事で良い結果を生みだす行動特性)として、リスクテイク(損失が生じる可能性に挑むこと)し、チャレンジし続けることを掲げています。

 成功か失敗かの分かれ道ではなく、成功までのプロセスには失敗がつきものであり、事業の多角化や新たな企画においても数々の失敗を経て、その都度改善を繰り返しています。こういったたくさんのチャレンジや斬新な企画を創り上げていき、その行動自体がブランディングされることで、許容の範囲を広げ、結果的に実現可能な企画が増えていくことになります。

 マーケティングにおいては、『人気“感”』を創出することを大事にしています。日本代表の選手がいるわけではないので、デザインや距離感などを大事にしながらさまざまなツールや演出によって選手たちのバリューを高めることで、来場促進やMD(グッズ・物販)、FC(ファンクラブ)会員といった副次的なサービスへの移行を促していくことで全体的な売上をスケール(拡大)していくことにつながると考えています」(横田氏)

いよいよ新シーズン開幕。2026年のBリーグ革新に向け挑戦は続く

 このような経営改革を続けてきたレバンガ北海道では、さらに大きな目標に向かって、売上増と観客増に取り組んでいます。

 Bリーグでは2026年シーズンを節目に、アメリカのプロバスケットボールリーグであるNBAに次ぐ世界2位のリーグ実現を目指す「B.革新」を宣言しています。それに伴い、リーグの階級構造も改革が行われ、集客力、地域貢献度、そして経営力といったクラブの状況に応じ「B.LEAGUE PREMIER」「B.LEAGUE ONE」「B.LEAGUE NEXT」のいずれかのリーグへ所属することになります。

 このうち、最上位リーグであるB.LEAGUE PREMIERに所属するためには、1試合あたりの入場者数が平均4000名以上、売上基準が年間12億円、5000席を超えるさまざまな要件を満たしたアリーナの確保、といったライセンス基準をクリアする必要があります。レバンガ北海道も、その基準を満たすべく、日々奔走しています。

 「現在、レバンガ北海道を応援してくださるファン・ブースターの皆さまをはじめ、関係者の皆さまはもちろんのこと、これからバスケットボールを始めたいと思っている子どもたちを一人でも増やしていくためには、地元で最高峰のバスケットボールの試合が観戦できることはとても重要だと思っています。

 B.LEAGUE PREMIER参入を実現するためには、事業力と集客力両面を強化していくことが求められていますが、まずはこれまでクラブが大切にしてきた地域の皆様に愛されるチームであり続けるために、プロスポーツチームとして地域貢献活動を継続しながら、事業投資とチーム運営を加速するための環境を整えていき、目標達成を目指していきたいと思います。

 レバンガ北海道は、札幌市の北海きたえーる(北海道立総合体育センター)をホームアリーナとして活動しており、いよいよこの10月から2023-24シーズンがスタートします。

 スピード感と迫力に溢れるバスケットボールの試合に、ダイナミックな映像や照明・音響が一体となるアリーナエンターテインメントを掛け合わせ、皆さまに最高の観戦体験をお届けしたいと思っています。ぜひ、会場に足を運んでいただければと思います」(横田氏)

株式会社レバンガ北海道
代表取締役CEO
横田 陽(よこた あきら)

北海道釧路市出身、札幌大学経営学部経営学科卒業。札幌大学ではバスケットボール部に所属。同大を卒業後、一般企業を経て2007年にレラカムイ北海道へ入社し、新クラブの立ち上げメンバーとして執行役員を務めた。2011年にレラカムイ北海道の運営会社が経営破綻したのちは一般企業勤務していたが、2014年よりレバンガ北海道へ入社。事業統括本部長を経て2016年より現職。

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