2024.08.08 (Thu)
ビジネスを成功に導く極意(第67回)
顧客の判断力を低下させる「ダークパターン」にご注意
ユーザーの判断力を低下させるWebの表現手法「ダークパターン」をご存知でしょうか。多くの企業がこの表現を採用していますが、欧州をはじめ規制が強化されつつあります。
「残り〇分〇〇秒!」はダークパターンかもしれない
「ダークパターン」という言葉をご存じでしょうか。これはWebサイトやスマートフォンのアプリにおいて、ユーザーを“騙す”ために作られたデザインや操作画面のことを指します。「ダークコマーシャルパターン」や「デセプティブパターン」(Deceptiveは「人を騙すような」という意味)と呼ばれることもあります。
ダークパターンの具体例としては、たとえば「残り〇分〇〇秒!」といったカウントダウンタイマーのバナーを掲載したり、定期購入ボタンの表示を目立たせて、通常の購入表示を分かりづらくする、といったことが挙げられます。
「まもなくお得なセールが終わりますよ!」「定期購入が安いですよ!」といった売り文句を強調し、顧客の冷静な判断力を低下させるデザインがダークパターンです。
隠れサブスク、妨害、緊急性…ダークパターンは7種類ある
消費者庁のサイトによると、ダークパターンには大きく分けて7種類が存在するとしています。以下、列挙します。
【1】行為の強制
商品を閲覧するためだけに、消費者にユーザー登録や個人情報の開示を要求すること
【2】インターフェース干渉(視覚的干渉)
事業者側に有利な選択肢を視覚的に目立させるなどで、ユーザーを誘導する
【3】執拗な繰り返し
拒否する選択肢を提示せず、事業者に都合の良い設定への変更をユーザーに何度も要求する。
【4】妨害
解約するためにはメールや電話が求められるなど、元の設定に戻すことに対する妨害行為。
【5】こっそり(隠れサブスク)
取引の最終段階で金額を追加したり、試用期間後に自動的に定期購入へ移行するなど、継続駅な料金をこっそり請求する。
【6】社会的証明
ページを閲覧した人、購入した人の数を表示するなど、虚偽の推奨表現、過去の購買実績を最近の実績のように通知する行為。
【7】緊急性
カウントダウンタイマーを表示させるなど、ユーザーにキャンペーンや割引の期限を示し、焦らせる(実際にはタイマー終了後も価格は維持される)。
【4】「妨害」は、退会や解約がネットで完結できないケースが含まれる。消費者庁「ICPEN詐欺防止月間(2023年)」の記事より引用
【5】「こっそり」は、定期購入であることが分かりづらく表現されているケースを指す。消費者庁「ICPEN詐欺防止月間(2023年)」の記事より引用
スマホアプリのほとんどに、ダークパターンが採用されている
先に挙げた【1】~【7】のダークパターンについて、実際にWebサイトやアプリで目にした経験がある人も多いでしょう。東京工業大学が発表したレポートによれば、日本で入手できる200のアプリを調査したところ、うち93.5%のアプリにダークパターンが使用されていたといいます。
特に、【5】の「こっそり(隠れサブスク)」のトラブルは頻発しているようです。国民生活センターによると、定期購入が条件となっている健康食品、化粧品、飲料等の通信販売に関する相談が寄せられており、2022年の相談件数は97,683件で、2021年の58,530件を大きく上回る数値を記録しています。
トラブルの詳細としては、「インターネット広告を見てお試しのつもりで注文したところ、2回目と3回目の商品も届いた。解約手続きがうまくできない」「SNSの広告を見て購入し。1回限りと確認して購入したにもかかわらず、4回の受け取りが条件の定期購入になっていた」といった声があがっています。【5】の「こっそり」だけでなく、【4】の「妨害」の手口も加わっているようです。
大手通販のあの有料サービスもダークパターン!?
企業側からすれば、ダークパターンは効率良く利益を生み出すという点で、“おいしい”やり方を言えるかもしれません。しかし、最近はダークパターンを採用する企業に対し、社会から厳しい目が向けられつつあります。
たとえば欧州では、2024年に「デジタルサービス法」が全面施行されました。同法の第25条では、「サービスの受信者を欺いたり操作したりするような方法、もしくは受信者が自由で十分な情報に基づいた意思決定を行う能力を著しく歪めたり損なう方法で、オンラインインターフェースを設計、編成、または運用してはならない」と、ダークパターンの利用禁止が明記されました。
アメリカでは2023年6月、FTC(米国連邦取引委員会)が世界的なネット通販サイトであるアマゾンに対し、ダークパターンに関する訴訟を起こしました(公正取引委員会のレポートより)。FTCはアマゾンが、消費者の同意なしに同社の有料サービス「アマゾンプライム」に加入させ、かつ定期利用契約を解約することを故意に難しくしていると主張、アマゾンへの差止命令、民事罰、金銭的救済を求め、連邦地方裁判所に訴状を提出しました。
日本では現在のところ、ダークパターンに特化した法規制は存在しませんが、2022年には特定商取引法の改正により、詐欺的な定期購入商法の規制が強化されました。同法により、販売業者は、取引の基本的な事項を最終確認画面で明確に表示することが義務付けられました。消費者側も、誤認して申し込みをした場合、申込みの意思表示が取り消せるようになりました。
ビジネスである以上、売り手側が趣向を凝らし、商品を魅力的に見せようとするのはある意味で当然ともいえますが、ダークパターンによって買い手の認識を歪めることは、最終的にはサイトやアプリに対する不信感を生みかねません。
ダークパターン的な手法を採用するサイトが当たり前になりつつある今、むしろ「こちらは定期購入です。ご注意ください!」「解約はこちらから」といったような正直なサイトの方が、ユーザーに信頼されるのかもしれません。
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