2024.08.13 (Tue)
ビジネスを成功に導く極意(第68回)
すでに教育の現場で導入済み。生成AIを"教材"として使う方法
ChatGPTをはじめとする生成AIが急速に普及し、身近な存在となったいま、学校教育における利用が模索されはじめています。児童生徒の能力を伸ばすため、現場ではどのような生成AIの活用が行われているのでしょうか? 先進的な取り組み事例を通して、生成AI活用の可能性を考えます。
就活生の3人に1人が生成AIを利用 授業への導入もスタート
ChatGPTをはじめとする対話型の生成AIは、文章の素案作成やブレインストーミングなどが簡単にできることから、ビジネスパーソンだけではなく、学生も日常的に活用しはじめています。
「マイナビ 2025年卒 大学生活動実態調査」によれば、生成AIの利用経験がある学生は62.9%、そのうち37.2%がエントリーシートの作成など就職活動で利用したことがあると回答しています。全国大学生協連の調査によれば、生成AIの利用目的は多い順に「論文、レポート作成の参考」「翻訳、外国語作文」「相談、雑談相手」ということがわかりました。
手軽に使えるという生成AIの利点を生かし、授業など教育現場への導入も始まりつつあります。2023年には、文部科学省による「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」において、授業や校務における利活用の方針が示されました。同ガイドラインでは、コンクールやレポート、小論文など使用は禁止し、”限定的なところ“から活用を始めることが推奨されています。
「作業」を生成AIに託し、子どもの主体的な学びを伸ばす
教育現場における”限定的な“生成AIの活用法とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?政府や自治体が主導する生成AI推進事業の指定校での取り組み事例の一部を紹介します。
中高一貫校のつくば市立学園の森義務教育学校では、5年生から9年生までの児童・生徒を対象に、生成AIの活用を学ぶ授業を導入しています。例えば、8年生の英語の授業では、1人1台用意されたパソコンを使い、普段は生徒同士で行っている英語での対話やディベートを、AI相手に行っています。ディベートではあらかじめ生徒の考えに否定的な意見を出すように設定するなど、AIの役割や目的、条件を生徒が設定し、相手意識を持ちながら考えを伝え合ったり、議論を深めることに役立てています。
東京都の生成AI研究校に指定された東京都立小岩高等学校では、データから特定の要素を抽出するのが得意な生成AIの特質を活かして一部の作業時間を短縮し、生徒が考える時間に充てています。例えば、小説の文体を分析する国語の授業では、AIに文体の要素を抽出・リライトさせることで、その後の比較分析を生徒が集中して行う授業を行っています。
これらの事例に共通することは、生成AIを、答えを出すツールとしてではなく、生徒の思考力や分析力、対話力を高めていく材料として使用している点です。生成AIを、あくまでも生徒が思考を深めるための”教材“として使うことで、教科書とは違う角度から、生徒の発想を促すツールとして活用することが期待できます。
利用を規制する動きも。求められるのはAIリテラシーの向上
とはいえ、生成AIは情報の真偽が不明な答えや、著作権侵害の回答を出すリスクも存在するため、一部の学校では使用が制限されています。海外の例では、英ケンブリッジ大学のように、生成AIで生成されたテキストを引用する場合には「一つの引用につき50語程度に収め、引用に対して必ず自分で批判的に検討すること」という具体的なガイダンスを設ける学校も出てきています。
こうした規制方針も含め、生成AIの教育現場における活用はまだ模索段階にあり、カリキュラムにどう組み込むのかも各学校の判断に委ねられているのが現状です。そのため今後は、導入する学校と導入しない学校のあいだで、AIリテラシーの格差が出てくることも考えられます。
生成AIは、生徒に安易な答えを与える、危険なツールにも成り得ますが、使い方によっては、生徒の思考を豊かにするツールとして活用することも可能です。どのように使うのがベストなのか、その環境を整える大人側の姿勢が問われているといえそうです。
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