海外との取引を始める前に、細心の注意を払わなければならないのが契約書の取り交わしです。契約書には法律用語だけでなく、独特な表現があります。独特な表現ゆえに、微妙なニュアンスを取り違えてトラブルを招いてしまうことがあります。海外では契約書に記載されている内容がすべてなので、契約段階で曖昧なままにしてしまうと、トラブルの際に被害が拡大する可能性もあります。
今回は、英文の契約書で注意を払う必要のあるフレーズや、被害を抑制する文面を紹介します。
契約書の「shall」は日常会話と意味が違う
日常会話では「~だろう」という意味で「shall」は使われています。しかし契約書においては意味が異なるのです。
The Seller shall deliver the Products to the Buyer on or before 31th of July 2017.
(売り手は商品を2017年の7月31日、またはそれ以前に買い手に引き渡さなければならない。)
この場合、「shall」は「~しなければならない」という、義務をあらわす表現です。義務として明記されているのですから、当然、履行しなければなりません。「will」も同じ義務の表現で使われていますが、契約書では「shall」を使う場合がほとんどです。「shall」や「will」が用いられた契約書の文面では、どこまでが義務になるのか内容をきちんと確認しましょう。
Each of the Owners shall have thirty days from the effective date.
(各所有者は、発行日より30日を有するものとする。)
That violates the terms of this Agreement shall be void and shall not be binding.
(この契約条件に違反するものは無効であり、拘束力を持たない。)
ただし、上記のように「shall」を用いた表現でも、義務までの強制力がない場合があります。契約書で「shall」が義務か、義務でないかを判断するのが難しい場合、まずは義務として捉えるのが、後々のトラブルを回避するためにも賢明といえます。さらに押さえておくべきポイントとしては、「shall」が使われている文面に、期限や条件に関する文面がある場合は、義務と考えるべきです。
If the delay lasts more than 30 days, the other party may cancel the agreement without liability.
(遅延が30日以上続いた場合は、責任なしに相手方は契約の解除が可能である。)
契約書における「may」は「~が可能である」「~できる」など、契約者の権利をあらわします。「shall」のような強い表現ではありませんが、「may not ~.」と続く場合は「~を禁止している」という意味になります。否定形が出てきた場合は要注意です。
契約の不履行を防ぐ文面を盛り込む
契約を交わす場合は、義務や違反を契約書で明確にしなければなりません。明確にされないと、トラブルが起きた際に適切な対処ができず、問題をずるずると引きずってしまうケースが考えられるためです。ここでは、義務や違反に関する便利なフレーズを紹介します。
The parties hereto agree that they have no right to cancel or revoke their representation and warranty for any reason.
(両社はいかなる理由においても保証の取り消しができないものとする。)
契約内容の保証が絶対であることを明確にした文面です。このような文面を契約書に盛り込めば、思わぬトラブルが起きても契約の破棄は困難です。
If either party violates any provision of this Agreement, the other party may seek compensation from the violating party for losses suffered from the violation.
(当事者のいずれかが契約に違反した場合、契約に違反された方は損賠請求を求めることができる。)
文面で契約違反のペナルティをしっかり決めておくことは、お互いの権利を守ることにも繋がります。特にトラブルが起きた際の損害賠償についてはきちんと定めておくべきです。
If A violates any obligation of this Agreement, and does not cure such violation within ten (10) days, B may terminate this Agreement.
(Aが契約に違反し、10日以内に違反の是正がなされない場合は、Bは契約を終了できる。)
損害賠償と合わせて取り決めをしておきたいのが、契約終了についてです。期日を定めることで、損害の拡大を防げます。
誤解を招きやすいフレーズと解決法
契約書では「and」や「or」の表現はよく用いられます。この2つは、契約の範囲を規定する文面で使われます。小さな表現の違いで契約の範囲が変わるので、注意が必要です。
Neither party shall be deemed in default hereunder for any interruption, delay, or failure in the performance of its obligations hereunder due to earthquake, flood, war, and armed conflict.
(地震、洪水、戦争、紛争によって、本契約の履行が中断、延期、または不可能となった場合は、契約違反とはならない。)
注目してほしいのは、「and」とコンマの使い方です。「earthquake, flood, war, and armed conflict」の部分について、「and」の前にコンマを置くことで契約の範囲を示しています。コンマがないと「and」の示す範囲が不明確になり、誤解を招く恐れがあります。条件を列挙する場合は、コンマでしっかり区切るのがポイントです。
The order for the Products does not imply any assignment of the intellectual and/or industrial property rights attached to the Products.
(製品の注文は、付随する知的所有権および、または工業所有権の譲渡を意味するものではない。)
「and/or」という表現は、契約書でよく見られる表現です。これは、「AおよびB」または「AあるいはB」のいずれのケースにおいても、という意味です。「and」や「or」以上に適用範囲が広まります。
ビジネスにおいて、少しの表現・ニュアンスの違いがトラブルに発展することもあります。特に契約書の場合、間違いは許されません。今回紹介した表現を活用して、契約書作成や契約書確認の参考にしてみてください。
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