製造業では今、少子高齢化による労働力人口の減少から、人手不足による業務負荷の増大、業務の属人化といった課題が山積みとなっています。企業にとって利益に直結する深刻な問題であり、早急な対策が必要です。
最近ではこれらの課題を解決するために、生産管理におけるAIの導入が多くの企業で進んでいます。本記事では、生産管理におけるAIの必要性や活用が進んでいる領域、AI活用の実例、導入により得られるメリットや注意点を解説します。
生産管理におけるAIの重要性
製造業では、商品を計画通りに生産するために、生産管理体制を構築しておく必要がありますが、AIはその体制づくりに大きく貢献する可能性を秘めています。まずは、製造業の生産管理におけるAIの重要性について解説します。
AIとは
AIとは、Artificial Intelligenceの略称で、日本語では「人工知能」のことです。一般的には、人間の知能をコンピュータで再現した技術を示します。
AIの大きな特徴は「自己学習能力」です。コンピュータが過去のデータを学習することで、判断および推測の精度を徐々に高めていくことが可能になります。
製造業では、AIを活用した「産業用ロボット」や「機械のスマート化」により、需要と供給の最適化、多品種変量生産が可能になります。今後、より進化したAIロボットの導入が進むことで、製品設計も含めた“完全自動化”の実現も期待されています。
生産管理に関する課題
製造業における生産管理体制は、計画通りに生産が行われるよう、原料や材料の調達から製造、出荷までのプロセスを把握し、品質・原価・納期の3つの要素を最適化する必要があります。たとえば、コスト管理やスケジュール調整、在庫調整、さらにはクレーム対応も、体制に含んでおく必要があります。
しかし、生産管理体制はそう簡単に構築できるものではありません。構築のためには、さまざまなステップを乗り越えていく必要があります。
たとえば、従業員や部門間で不公平な業務負荷がある場合は、平準化する必要があります。放置しておくと、業務量や業務の幅の広さから、人為的ミスが起こり、手配遅れや誤発注が生じることも考えられます。また、不良品などの製造における「ムダ」を減らすことも難しいのが現状です。
課題からわかるAIの必要性
上記で解説した生産管理におけるさまざまな課題は、AIを活用することで解決できます。たとえば、生産管理における業務幅の広さも、人が行わなくてもよい単純作業をAIに任せることで、人員を減らせます。なおかつ、AIの特徴である自己学習能力により、データの取得量に比例して精度が向上する傾向にあるので、人為的に起こっていたミスも減り、品質管理においても十分な能力を発揮します。
生産管理のなかでAI活用が進んでいる領域
生産管理のどの領域でAIの活用が進んでいるのか、もう少し詳しく解説します。
生産計画
「生産計画」の領域でも、AI活用が進んでいます。生産計画とは、生産物の種類や量、原材料、部品についての計画や製造から出荷までのスケジュールなど、生産に関わるすべての計画のことです。これまで行われてきた経験則に基づいた生産計画では、従業員の経験値や見立てに左右されてしまいがちです。とはいえ、人間が大量のデータを考慮しつつ、精度の高い予測を行うというのも、難易度の高い業務でしょう。
この生産計画領域においてAIを活用することで、高い精度の生産計画が実現します。AIは蓄積された膨大なデータを瞬時に分析し、客観性の高い予測が可能です。消費者行動や地理的特性、社会情勢などの要因を踏まえた、高度な生産計画の作成が行えるようになります。こうした高精度な生産計画に基づき生産すれば、業務効率の向上が期待できます。
設備メンテナンス
故障を未然に防ぐ設備メンテナンスも、従来は人の経験値に依存していたため、多大な時間や労力が必要になっていました。近年の労働力人口の減少による人手不足の波は、製造業にも押し寄せています。そのため、設備メンテナンスにかかる人手や時間は、大きな課題となっています。
この設備メンテナンス領域でも、AIの活用が進んでいます。人手に頼らずAIに任せることで、業務効率化の向上が期待できます。AIを活用すれば、24時間365日体制で設備の監視ができます。それにより正常時のデータを継続的に取得し、自己学習能力により異常発見の精度も高くなります。経験値の高い従業員でも人間である以上、24時間監視することは困難なため、この領域におけるAIの活用効果は高いといえるでしょう。
品質検査
製造業において品質管理は、企業の利益に関わる重要業務です。深刻な人手不足に悩む生産現場では、品質検査に手が回らなくなってしまうことも少なくありません。この問題の解決にも、AIが活用されています。不良品の判別業務にAIを活用することで業務の効率化が進みます。
AIが精度の高い判別業務を行うには、数多くのデータを数多く学習させなければなりませんが、近年のAIは、機械学習のひとつである深層学習(ディープラーニング)により、過去にはできなかった不良品の判別ができるまで進歩しています。仮に判別ミスが起きても、そのミスをAIに学習させることで、精度はより上がります。
人による判別はどれだけ注視しても、疲労などによってミスが起きてしまいます。そのため、品質検査の精度向上実現に向けて、企業でAIの導入が進む可能性は高いでしょう。
生産管理におけるAI活用事例
生産管理の現場では、AIをどのように取り入れているのでしょうか。ここでは、生産管理における活用事例を5つ紹介します。
生産計画の自動立案
ニチレイフーズは、日立製作所との協創により、機械学習および数理最適化(制約条件を満たしつつ、最も良い結果を導き出す計算技術)を組み合わせたAIを確立しました。ベテラン従業員独特の計画パターンを数値化・解析して効果検証を実施し、その結果、一工場で最大16兆通りある組み合わせの中から、最適な生産計画・要員計画を自動立案することに成功しました。これにより、所要時間は従来の1/10程度に削減されました。
さらに、自動立案によって生まれた生産計画の結果や課題をさらに学習させることで、ベテラン従業員の効率性と品質を両立した生産計画を再現できるシステムが構築でき、業務効率化や生産性の向上に成功しています。加えて、需要の変化に即対応できる生産体制の構築も可能になりました。
高精度な需要予測
ライフコーポレーションは、日本ユニシスと共同で、専門知識や日々の調整が必要な発注作業に、AIによって需要予測を行なう自動発注システムを共同開発しました。あらかじめ気象データや売上データをAIに学習させることで、販売予測のモデルを複数の方法で算出し、実際の売れ行きからAIがモデルの再作成を自動で判断し、実施するというシステムです。
同社はこれまで発注作業に膨大な時間をかけていましたが、AIを活用した自動発注システムの導入により、1日あたり2時間程度を削減。さらに、従業員が発注作業を行えるようになるまで要していた約1年の教育期間も、不要になりました。加えて、従業員ごとにムラのあった発注作業の質を均一化することも実現しています。
熟練工の技術継承
三菱総合研究所が開発したAIでは、熟練工のノウハウをAIモデルに反映することで、熟練工の退職時にも技術承継を可能にします。過去のデータを用いて熟練工に「気づき」を促し、熟練工が自身で説明することが難しいノウハウを、AIモデルに反映。ノウハウが反映されたAIをデジタルツールに組み込むことで、全従業員が熟練工の技術を継承する仕組みを構築しています。熟練工の退職後も、熟練の技術を企業の資産として有することが可能になります。
検査の自動化による品質向上
ダイセルは、AIを搭載した自律型生産システムを開発しました。安全や品質、生産量、コストの最適な指標をリアルタイムで予測し、アウトプットを最大化するための運転条件を導き出すシステムと、環境の変化によって生じたズレを検知・修正するシステムで構成されています。
このふたつの異なるシステムにより、生産性の向上や安全・品質・コストの安定化が実現。加えて、予防保全で生じる修繕費の節約や効率化した生産による在庫削減により、生産コストの大幅な削減も見込まれています。
画像解析による異常検知
ダイセルと株式会社日立製作所は共同で、AIによる画像解析技術を用いた異常検知システムを開発。このシステムでは、通常の作業手順から逸脱した動作を画像解析によって検知し、監督者のウェアラブルデバイスにアラート通知を行います。加えて、エリア内において画像分析を行うことで、人員配置と作業の最適化も行います。これにより、異常事態の未然防止と、作業効率の向上を可能にしています。
生産管理にAIを導入するメリット・デメリット
製造業における生産管理とAIは相性が良く、導入することで多くのメリットが得られます。その一方、導入コストや効果が得られるまでの期間が長いなど、注意すべき点もあります。以下に、AIのメリットとデメリットを列挙します。
メリット1. 人材不足の解消・人件費削減につながる
AIを導入することで、人手不足の解消や人件費の削減につながります。これまで人が行っていた発注作業やメンテナンス業務をAI搭載システムが担うことで、時間と人員が削減できます。加えて、データ分析により偏っていた業務負荷を平準化することで、労働環境の改善につなげられます。
メリット2. 属人化を防げる
製造現場では、業務の属人化も大きな課題です。ある業務を行える従業員が限定されてしまうことで、業務の停滞や、特定の従業員に業務が集中するという弊害が起こります。さらに、属人化した業務を行っていた熟練工のノウハウが継承されないという問題も起こります。
しかし、AI搭載のシステムにより、属人化した業務を自動化することで、担当者や熟練工以外のスタッフでも業務が行えるようになります。担当者が急に休んだ際、熟練工が退職した際も、業務が停滞することはありません。
デメリット1. 導入・運用にコストがかかる
AIを導入・運用するためには、相応のコストがかかります。明確な戦略を立てずに導入を行った場合、コストに見合った成果を得られない恐れもあります。
AIの導入を検討する際は、まず現在の業務課題と導入目的を明らかにしておくことが重要です。どの業務において課題があるのか、AIの導入によって何を達成したいのかを明確にしておくことで、導入の効果が最大化できます。
デメリット2. 効果がすぐに出るとは限らない
AIを導入したからといって、すぐにコストの削減が実現したり、生産性が向上するとは限りません。社内にデジタル人材が不足している場合には、新たに導入した新システムにスタッフが適応するのにも時間がかかるでしょう。
導入前には、現場の従業員にAIシステム導入の必要性を伝えておく必要があります。否定的な意見も聞きつつコミュニケーションを取ることで、導入後のスムーズな実用化が可能になるでしょう。
まとめ
段階的にステップアップできる製造業向けのAI活用
AIなどの高度な技術を自社に導入したいと考えても、はじめの一方を踏み出すのは簡単ではありません。そこでNTT東日本では業務に新たな技術を取り入れる支援として「NTT東日本スマートイノベーションラボの活用」を提案しています。通信ビルを活用したエッジコンピューティング環境でAI/IoTを活用したビジネス検証、本番環境の構築を支援しています。
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