2023.01.30 (Mon)
ICTで製造業はどのように変わるのか(第38回)
【製造業向け】RPA導入のメリットや注意点とは?
製造業で自動化というと、産業用ロボットなどの物理的機械によるものをイメージする人が多いかもしれません。しかし近年は、ソフトウェアロボット「RPA」を活用した自動化に取り組む企業も増えています。
本記事は、RPAの基本知識や、製造業の抱える課題の解決のためにどのように役立つのかなどを解説します。製造業におけるRPAの活用法に関心のある方はぜひ参考にしてください。
そもそもRPAとは何か
RPA(Robotic Process Automation)とは、人間がコンピューター上で実行する定型業務を自動化するソフトウェアロボットです。
RPAとは
RPAは、人手不足や設備の老朽化などの課題を抱える製造業において、導入が進んでいる技術です。
これまで手作業で行っていたルーティン業務をRPAに代替させることで、人間は単純作業から解放され、複雑な判断や創造性が要求される人間にしかできない業務に集中できます。しかも、RPAはコンピューター上で動作するので、人間が行うよりも早く、正確に作業を行なうことが可能です。
しかも最近のRPAは、複雑なプログラミング作業を要さない「ローコード」もしくは「ノーコード」の製品が主流になってきました。したがって、ICT人材が不足している企業・部署でも比較的簡単に導入できます。
製造業では、製品の組み立て、品質管理、物流業務などに産業用ロボットなどを用いるハードウェア面の自動化は進んでいます。しかし、ロボットを制御するコンピューターの操作手順やバックオフィス業務の処理などは手作業で行っている企業は多いのではないでしょうか。RPAを導入することで、こうした作業も自動化し、自動化の範囲を大きく拡張できます。
RPAの市場規模について
現在、RPAは国内外問わず多くの企業に導入されています。株式会社MM総研が公表した「RPA国内利用動向調査 2021(2021年1月調査)」によれば、年商50億円以上の国内企業でのRPA導入率は37%以上、大手に限定すれば過半数に達しています。
アメリカの調査企業Gartnerの調査によれば、2021年における世界のRPA市場の成長率は31%を達成し、他のソフトウェア市場の平均成長率(16%)を二倍近くも上回りました。2022年の成長率も19.5%になると予測されており、RPAは世界中の企業へ着実に普及しつつあることがうかがえます。
最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が、その足掛かりとしてRPAを導入する企業も少なくありません。RPAを導入することで、従業員は単純作業から解放され、より戦略的・創造的な仕事に集中するための時間が得られます。導入効果が目に見えて実感しやすいというのも、RPAの導入が急速に広がっている理由と考えられます。
製造業が抱える課題
RPAは、製造業に導入しても効果的です。その理由について説明する前に、まずは現在の日本の製造業界が直面している課題から解説します。
労働人口の減少
日本では少子高齢化が年々深刻化しており、社会全体で働き手が不足しつつあります。製造業は特にその傾向が顕著です。経済産業省が2017年に実施した調査によれば、94.2%の企業が人材確保に課題を抱えており、そのうち32.1%がビジネスにも影響が出ていると回答しています。
新しい人材の確保ができなければ、職場の若返り化も図れません。実際、製造業における34歳以下の若年就業者の割合は年々下降しており、2000年には32%だったのが、2019年には24.8%にまで下がっています。
このような状況においては、技術の承継問題も出てきます。高齢化した熟練工が、その技術を誰にも伝えられないまま引退してしまうのは、その企業だけでなく日本のものづくり産業全体にとって憂慮すべき問題です。
設備の老朽化
設備の老朽化も大きな課題です。経済産業省が2021年に公開した資料「製造業を巡る動向と今後の課題」によれば、2012年以降、国内の製造業者の設備投資額は減少傾向にあります。生産設備の老朽化も進んでおり、たとえば金属工作機械、二次金属加工機械は15年以上稼動し続けている割合が50%を超えています。
労働生産性や競争力の向上のために、製造業に設備投資が重要なのは言うまでもありません。しかし新型コロナウイルスの流行で、先の見通しが不透明な現状では、思い切った投資をためらう企業が多いようです。
一方で、日本政策投資銀行の資料「2020年度設備投資計画調査の結果概要」によれば、デジタル化需要を見据えた投資は増えていることが報告されています。
RPAの導入で得られるメリット
このような課題を抱える製造業において、RPAを導入するメリットはどこにあるのでしょうか。以下に、3点に分けて紹介します。
単純作業を効率化できる
RPAを導入することで、コンピューターを使用して行われる単純作業の効率化が可能になります。たとえば、発注書や請求書の処理、在庫管理、データ入力などの定型作業を要するバックオフィス業務の自動化は、RPAが最も得意とするところです。バックオフィス業務は企業に直接的な利益をもたらすものではありませんが、自動化することによって、自社のコア業務に注入できる従業員を増やすことが可能になります。
単純作業を自動化することは、従業員の負担軽減にもつながります。延々と単純作業を繰り返すことは、従業員にとって大きなストレスになりかねません。集中力が途切れれば、思わぬミスが生じることもあるでしょう。RPAの導入により単純作業を効率化することは、従業員のモチベーション向上やヒューマンエラーの抑制効果にもつながるのです。
高精度な物体検知を実現できる
RPAを導入することで、製品の検査作業の自動化や高精度化を実現できます。従来、検査作業は人間が行うケースが多数でしたが、大量の製品を検査するには大変な労力が必要です。
製品の些細な異常を検知する能力は、資質や経験による個人差が生じます。また、同じ人でも体調や疲労の度合いによって、検査の精度にムラが出る可能性があります。
その点RPAであれば、あらかじめ決められたルールに従い、一定の精度を維持して検査作業を延々と続けます。RPAの導入は、検査業務の省人化と高精度化の両立を実現し、製品の品質向上に寄与します。
作業工数・業務コストを削減できる
RPAを導入して業務の自動化を進めることで、人的作業を大きく削減することが可能になります。一部をRPAに任せることで作業工数が減り、従業員の負担や作業時間を節約できます。人件費など業務コストの低減も期待できるでしょう。
製造業におけるRPA導入までの流れ
製造業でRPAを導入するためには、どのような手順で作業を進めていけばよいのでしょうか。ここからは製造業にRPAを導入するまでの流れを解説します。
自社に導入する目的を明確にする
RPA導入の際にまず最初に取り組むべきことが、導入目的を明確化することです。RPAに限らず、デジタルツールを導入する企業が陥りがちなのが、いつのまにかツールの導入そのものが目的化してしまうことです。目的を明確に定めないままツールを導入すると、ツールを持て余したり、いざ活用しようにも、目的の用途にツールが対応していないこともあります。
RPAを導入する際は自社の目的や課題を洗い出し、そのテーマに対してRPAが有効な解決策になりうるかどうか、事前に検討することが大切です。目的や課題が具体的であればあるほど、RPAに求める機能要件も明確になるので、導入に失敗するリスクを減らせます。
RPAにもさまざまな製品が存在するため、機能や使いやすさ、料金、サポート体制など多角的な観点から検討し、自社に適した製品を選定すべきです。無料の試用期間がある場合は、そこで実際の使い勝手を確かめるのもよいでしょう。
事前検証と概念実証をする
次のステップは事前検証と概念実証(PoC)です。
RPAが得意とするのはルールベースで動く定型業務であるため、すべての業務に適しているわけではありません。したがって、企業はRPAを適用する対象業務を選定し、業務負担やROI(投資利益率)などの指標に基づいて優先順位を付ける必要があります。さらに、対象業務を自動化することでどのようなコスト削減効果や業務効率化などの効果が見込めるか、シミュレーションを行います。
概念実証とはあるアイデアや理論の実現性を実証することで、事前検証で期待された効果が実現できるかを、実際にRPAを使って確かめることを示します。「この業務を自動化するにはどのようなシナリオ設計が必要か」「自動化することでどのくらい業務に必要な人員や時間を節約できるか」「RPAを使う弊害やリスクはあるか」など、実際にRPAを使用しないと分からないことを確認するのが、概念実証の目的です。
RPAを導入・構築する
概念実証が終わったら、RPAを導入・構築し、実際の業務の中で活用していきます。このとき、最初から一気に多くの業務を自動化するのは、業務に与えるリスクや影響が大きすぎるため、一部の業務から始めて、徐々に対象範囲を拡大していくのが確実なやり方です。最初はシナリオ設計が比較的簡単な業務や、影響範囲が小さな業務から自動化すべきでしょう。
導入して終わりではなく、効果検証を繰り返しながらRPAの運用改善をしていくことも大切です。RPAの便利さが多くの従業員に伝われば、全社的に活用が広がり、企業全体で業務効率化が進んでいくことも期待できます。
製造業におけるRPA導入時の注意点
RPAを導入する際は、事前に運用管理者を決めておくことが大切です。導入するだけであとは現場任せにするのでは、結局RPAが組織に浸透しないまま終わってしまう可能性があります。RPAの定着を図るためにも、トラブル時などの責任や担当の所在をはっきりさせるためにも、運用管理者を明確にすることは必要です。ただし、RPAの管理運用業務自体が属人化しないように、管理者を複数人置いたり、マニュアルを整備することも重要です。
RPAが向いている業務には限りがあることも注意点となります。本稿では繰り返し触れてきましたが、RPAが自動化できるのは基本的に単純作業や定型業務です。RPAは良くも悪くも事前に設定した通りにしか動きません。たとえば、ケースバイケースで判断しなければならないような業務や、作業内容が頻繁に変わるような業務にRPAを導入しても、効果が出ないばかりか、むしろ混乱が生じる危険性があります。
まとめ
RPAは単純作業や定型業務を自動化するソフトウェアロボットで、製造業でRPAを導入することで、人手不足の解消や業務の属人化の抑制、ヒューマンエラーの回避などが期待できます。
NTT東日本は、デジタル技術を使って製造業のスマートファクトリー化を支援しています。RPAをはじめとしたデジタル技術を活用して生産性向上などに取り組みたい企業の方は、NTT東日本が提供する製造業向けのデジタル支援サービスを活用することをおすすめします。
製造業のスマートファクトリー化をデジタル技術から支援
日本の製造業は人材不足や老朽化した生産設備の維持、技能継承など、さまざまな問題を抱えており、これらに対応するため、生産性の向上が喫緊の課題となっています。NTT東日本は、「デジタル技術」と「セキュアなインフラ環境」によって、工場のデジタル化(スマートファクトリー化)をご支援。製造業の生産性向上をサポートします。
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