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2023.01.30 (Mon)

ICTで製造業はどのように変わるのか(第19回)

製造業におけるヒューマンエラー対策とは? エラーが起こる原因も解説

 ヒューマンエラーは、「不安全行動」や「ポカミス」などとも呼ばれており、製造業の多くの企業は生産性の低下だけでなく、従業員の安全性にも関わる重大な問題として認識しています。人が作業する以上、ヒューマンエラーを完全になくすことは難しいですが、適切な対策を講じることで発生を減少させることはできます。ヒューマンエラーの発生を減少させるには、発生原因を特定し、原因に応じた対策をとることが重要です。本記事では、ヒューマンエラー対策の主な発生原因や対策などについて解説します。

製造業におけるヒューマンエラー対策の重要性

 英国の調査会社Vanson Bourneの実施した国際調査では、製造業における計画外のダウンタイムの23%がヒューマンエラーに起因するものでした。製造業以外の業界では、この数字が9%に留まることから、製造業はヒューマンエラーの多い業界であることがわかります。ダウンタイムの発生が企業の収益性に大きく影響することを考えれば、ヒューマンエラー対策が重要な経営課題となることは明らかでしょう。

 ヒューマンエラーは、従業員の安全性にも直結する問題です。厚生労働省の資料によれば、製造業における2021年の労働災害死傷者数は28,605人で、業種別の集計結果では最も多い結果です。事故の種類としては、機械類による「はさまれ・巻き込まれ」型の事故が最も多く、意図的に行った不安全行動によって生じた事故も多数あります。

 このように、ヒューマンエラーは自社の収益性や従業員の安全に関わる重要な問題です。ヒューマンエラーが起こる原因はひとつではないので、すでに何らかの対策を講じている企業も、見落としがないか、講じた対策が実際に機能しているか、折に触れて確認する必要があります。

製造業でヒューマンエラーが起こってしまう原因

 

 ヒューマンエラーの発生は、「発生させた従業員当人に原因がある」と捉えられがちです。しかし、実際はチームの連携や業務体制、作業環境、組織風土などに原因が存在するケースもあるため、多角的な観点から原因分析することが重要です。

従業員の考えや行動

 従業員の考えや行動に何らかの問題があった場合、ヒューマンエラーは起こりやすくなります。意図的なヒューマンエラーによって起こる場合もあれば、見落としや勘違いのように非意図的なヒューマンエラーによって生じる場合もあります。

 意図的なヒューマンエラーとは、「定期点検をずさんに行う」「機械設備を完全停止させずに清掃やメンテナンスをする」などのように、自分でも適切さに欠けると認識しながら行う問題行動です。また非意図的なヒューマンエラーとは、「操作手順を間違えて覚えていた」「必要な数字を読み違えた」など、純粋にミスや手違いによって生じるものです。ベテラン従業員が経験則を過信して動くことで事故を招くように、思い込みや慢心が原因になる場合もあります。

関係者の連携ミス

 ヒューマンエラーはミスや事故を起こした当人の問題だけでなく、関係者間の連携に問題があり生じる場合もあります。たとえば、「納期や仕様に変更があったが伝え忘れていた、聞き逃していた」などがその具体例です。他には、上司があいまいな指示や情報を伝えた結果、現場の従業員が間違った解釈をしてしまったということもあるでしょう。

 こうした連携ミスは、人間関係や連絡体制のなかに潜む課題が起因となる場合があります。たとえばコミュニケーションが不活発な職場では、不明な点があっても周囲に質問しにくくなりがちです。その結果、ヒューマンエラーが生じる場合もあります。

従業員のスキル不足

 従業員のスキルや経験の不足によって、ヒューマンエラーが生じる場合もあります。いくら作業マニュアルや安全確認の手順などのルールを整備しても、従業員が不慣れな作業で余裕がなければ、それらに注意を払う余裕がなくなるでしょう。現場によってはマニュアルに記載されていない暗黙のルールがあり、入社して間もない従業員が対応できないケースもあります。こうした事態を防ぐには、「従業員に十分な教育訓練の場を与える」「不慣れなうちは監督者と共に作業させる」などのケアが必要です。

業務体制の不備

 既定のルールや作業手順、あるいは業務体制そのものに問題があるケースも存在します。たとえば作業手順にルール化されていない部分がある場合、従業員がそれぞれの判断で行動することになってしまい、ミスや事故の可能性が高まります。特にトラブル対応時などは焦って行動し、かえって事態を悪化させることもあるでしょう。

 単独での安全確認作業なども、見落としや誤認などを招くリスクのある行為です。ヒューマンエラーは避けがたいことと考えて、できるだけカバーできる管理体制を敷くことが重要です。

組織の風土

 組織風土によってヒューマンエラーが発生しやすい環境になっていることもあります。たとえば、職場が慢性的な人手不足に陥っている場合、従業員にかかる作業負荷は大きくなり、疲労やキャパシティオーバーによるミスが生じやすくなるでしょう。

 あるいは、工具の管理体制が粗雑であったり、機械設備が使いにくいことなども、ヒューマンエラーにつながります。さらに、経営者や管理職層も含めて組織全体がルールや品質への意識に乏しい場合も、ヒューマンエラーのリスクが高まります。

製造業におけるヒューマンエラー対策の例

 ここでは、前述のようなヒューマンエラーの発生原因に対して有効な具体策を紹介します。自社の状況に沿って必要な対応をご検討ください。

コミュニケーションの改善

 ヒューマンエラーを減らすための重要な施策は、組織全体でコミュニケーションの改善に取り組むことです。たとえば管理者が厳しすぎる態度を取っていると、従業員は必要な確認事項の確認もためらうようになります。そうなれば情報共有が疎かになり、ヒューマンエラーが生じやすくなるでしょう。

 管理者は、部下の質問や相談をオープンに受け入れる姿勢を示し、コミュニケーションの改善に努めることが重要です。コミュニケーションが活発化すれば、仕事に役立つスキルや知識の共有などもチーム内で進み、ヒューマンエラーが減ることも期待できます。

確認の習慣化

 ミスや異常、あるいは重要事項についての確認を習慣づけておくことも重要です。たとえば重要な確認事項は指差し確認をしたり、復唱を求めるなどが該当します。

 重要な業務は複数人で多重チェックを行ったり、管理者が最終確認するのも有効です。こうした対策は、見落としや聞き逃し、思い込み、誤認などによるヒューマンエラーを抑制するのに役立ちます。

教育の強化

 従業員のスキル不足によってヒューマンエラーが発生している場合は、教育の強化も必要です。業務をこなすのに十分な知識やスキルを身につけられるように、研修や訓練などの教育体制を整備し直しましょう。

 教育を効率的に進め、作業手順などを標準化するためにも、マニュアルの策定や見直しは大切です。さらに、ルールや品質を遵守する意識が薄い場合は、コンプライアンス研修などを通して意識改革していかねばなりません。

KY活動の実施

 KY活動(危険予知活動)の実施も効果的です。KY活動とは、現場作業でどのようなリスクが潜んでいるかを複数人で検討し、あらかじめ対策を講じたり安全確認を行う取り組みのことです。

 KY活動を通して危険な行動やポイントをチーム内で共有し、避ける方法や行動目標を明確化することで、ヒューマンエラーの防止が期待できます。

ICT環境の整備

 どれだけ対策を講じても、人が作業に関与する限りヒューマンエラーを完全に防ぐことは難しいのが実情です。その意味では、従業員の行動やルールを再検討すると同時に、ICTを活用して業務プロセスの自動化などを行い、人が行う作業そのものを減らしていくことも考えねばなりません。

 たとえば危険を伴う作業や重労働をロボットなどに代行させれば、従業員の負担やストレスを減らし、安全性を大きく向上させることが期待できます。さらにICT活用はヒューマンエラーを減らす以外にも、業務効率化や人手不足の解消、属人化の抑制、製品品質の向上などさまざまな副次効果が見込めます。

製造業のヒューマンエラー対策に活用できるICT

 ヒューマンエラーの可能性を根本的に減らすためには、ICTの活用が有効ですが、ひと口にICTといっても使われる技術はさまざまです。ここでは、ヒューマンエラー対策に活用できる技術を紹介します。

ヒューマンエラー対策に活用できる技術

 ヒューマンエラー対策に役立つ技術としては、AI、AR、IoTなどが挙げられます。それぞれの概要は以下の通りです。

AI

 AI(人工知能)とは、人の知的な能力を疑似的に再現する技術です。今日の発達したAIはセンサー技術などと組み合わされ、人以上に精度の高い認識能力を有しているものもあります。AIを異常検知などに活用すれば、人の目では感知できないような異常の発見も期待できます。人とは異なり、単純作業への飽きや疲労もないので、見逃しや手順抜かしなどによる品質問題の発生を防ぐことができます。

AR

 AR(拡張現実)とは、デバイスを通して現実の風景にデジタル情報を映し出す技術です。たとえば、従業員の装着したウェアラブルディスプレイに作業手順などの指示や各種のデータを表示すれば、マニュアルを確認する際に作業を中断する必要がなくなります。作業に集中できるため、ヒューマンエラーの抑制や業務効率化が期待できます。

IoT

 IoT(モノのインターネット)とは、各種機器にインターネット通信機能を付与する技術です。たとえば工場に設置された機械設備をIoT化することで、システム上で遠隔操作したり、IoT機器で収集したデータを分析して、故障などの兆候を察知できます。IoTを活用して設備の管理運用を効率化した工場はスマートファクトリーと呼ばれ、ヒューマンエラーの抑制をはじめさまざまな効果が期待できます。

ヒューマンエラー対策に役立つシステム

 ヒューマンエラー対策に役立つ具体的なシステムとしては、MESが挙げられます。

MES

 MES(製造実行システム)とは、製造工程の管理運用を包括的に支援する統合的なソリューションです。MESでは、たとえば発注情報などのデータを管理して従業員が簡単に確認できるようにしたり、製造データをリアルタイムで追跡して、製造工程を可視化できます。このように製造工程におけるさまざまなデータをMESで管理運用すれば、ヒューマンエラーの抑制が期待できます。

まとめ

 製造業でヒューマンエラー対策を実施することは、生産性の維持や事故防止などの観点から重要です。ヒューマンエラーは、個人の思い込みや注意不足などを原因に発生することもあれば、規則の不備や劣悪な作業環境など組織体制に原因が存在する場合もあります。

 ヒューマンエラー対策では、ICTの活用が鍵となります。たとえば工場をスマートファクトリー化すれば、ヒューマンエラーを抑止できるだけでなく、業務効率化などのさまざまなメリットが期待できます。自社の工場に合ったスマートファクトリー化を支援するソリューションについては、下記のページをご覧ください。

製造業のスマートファクトリー化をデジタル技術から支援

日本の製造業は人材不足や老朽化した生産設備の維持、技能継承など、さまざまな問題を抱えており、これらに対応するため、生産性の向上が喫緊の課題となっています。NTT東日本は、「デジタル技術」と「セキュアなインフラ環境」によって、工場のデジタル化(スマートファクトリー化)をご支援。製造業の生産性向上をサポートします。

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