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2023.01.30 (Mon)

ICTで製造業はどのように変わるのか(第33回)

生産管理が属人化する理由とは? 解消方法と標準化するメリットを解説

 ある仕事が特定の従業員にしかできなくなっている状態は、業務の非効率化やブラックボックス化、トラブル時の対応の遅れなど、さまざまな問題を招きます。とりわけ専門的な技能を必要とすることの多い製造業において、こうした属人化は避けて通れません。

 では、これらの問題をなくすにはどうすればよいのでしょうか。本記事では製造業における生産管理の仕事に焦点を当て、属人化の要因と、解消のためのポイントを解説します。

仕事における「属人化」の意味

 属人化とは、ある業務が特定の人材に依存している状態のことです。たとえば、「この仕事はあの人にしかわからない」「あの人がいないから仕事が進まない」などの出来事に覚えがある方もいるでしょう。

 仕事における特定個人への依存は、経営や業務に不安定さをもたらす潜在的なリスクです。もしもその担当者が突然退職したら、残された従業員は手探りでその仕事の再現を試みるしかありません。場合によっては、再現できないケースもあるでしょう。

 こうした属人化を排し、誰もが業務可能にすることを「標準化」といいます。属人化に陥っている企業は、この標準化を目指すことが重要です。

製造業における属人化の問題点

 なぜ業務の属人化がリスクになるのでしょうか?製造業における属人化の主な問題点を5点解説します。

業務のブラックボックス化につながる

 属人化の根本的な問題は、業務のブラックボックス化が起きることです。ブラックボックス化とは、業務を進めるプロセスが外からわからなくなることです。担当者だけが業務の実態を把握している形になるため、周囲の従業員はその業務にどのような工数がどれだけ発生しているのかもわかりません。仕事状況も見えなくなり、スケジュールを立てたりサポートしたりするのが難しくなります。

 上長としても、ブラックボックス化した業務を改めて把握し、改善するのには手間や時間がかかるので、一定の成果が出ていればこの問題を放置しがちです。しかしそうなると、上長や同僚は、担当者の仕事や成果に対する評価を正当に行えなくなるでしょう。

特定の従業員に業務が集中する

 特定の従業員にのみ業務が集中するという問題点もあります。仕事を進められるのが特定の担当者だけになると、周囲の人との業務分担も困難になり、全て自分でこなさなければいけなくなります。その結果、業務負担に偏りが出てしてしまい、残業時間が増加したり、体調や都合が悪くても休暇を取得しにくくなりします。このような状況が悪化すると、その従業員のワークライフバランスは悪化し、心身の健康に害をきたしかねません。

 ただ、問題解決の難しさのひとつが、そうした状況を「周囲から頼られている」と本人が肯定的に感じてしまうケースもあることです。「自分にしかできない仕事がある」ことは自尊心を満たす材料にもなりえるので、担当者本人がそうした状況を望んでしまう場合もあります。そうなると、いっそう仕事を抱え込むようになり、事態は深刻化するでしょう。

トラブル発生時の対応が遅れる

 トラブル発生時の対応が困難になるのもリスクです。たとえば、担当者が不在の日に、属人化した業務関連のトラブルが発生したとしましょう。こうした場合、一刻も早い対応が必要でも、普段の業務の流れを知らないほかの従業員が即座に有効な対応を取ることは非常に困難です。

 そもそも属人化していること自体が、トラブルの発生確率を上げる面もあります。複数人がチェックしていれば簡単に見つかるミスも、一人だけで作業している場合はちょっとした注意不足で見過ごされてしまうおそれがあるからです。

 この点は、担当者が内部不正をしていた場合にも当てはまります。自分以外の人の目が届かないならば、不正をするのも比較的容易です。それゆえ、属人化の問題を対処することは、リスクマネジメントや内部統制の面でも重要です。

人材の退職によって業務が成り立たなくなる

 属人化の問題が大きく表面化するのは、担当者が退職したときです。担当者が後継者の育成や引継資料の用意などをしていなければ、その人がこれまで蓄積してきたスキルやノウハウ、人脈などはすべて自社から消えてしまいます。

 終身雇用制が機能していた一昔前なら、こうした不安は比較的少なく済んだかもしれません。しかし現在は転職が珍しいことではなくなり、人材がいつまで自社に留まってくれるのかわからないのが実情です。

業務の効率が悪くなる

 属人化は業務効率性の面でも問題があります。仕事のできやスピードが担当者次第となるので、業務への支障が懸念されます。仮に担当者が怠けていたとしても、周囲は気づきにくくなるでしょう。

 担当者が一所懸命に働いているケースでも、その業務プロセスに無駄が潜んでいる場合、本人を含め誰も気づけません。この状態が続けば業務改善は進まないうえ、本人の成長の可能性も奪われてしまいます。

生産管理が属人化する理由とは?

 ここからは特に「生産管理」に焦点を当てて、属人化が起きてしまう理由を3点に分けて解説します。

業務のシステム化ができていない

 生産管理が属人化しやすい理由として、業務がシステム化されていないことが挙げられます。ここでいう「業務のシステム化」とは、単に業務をデジタルで処理しているか否かだけでなく、誰がやっても同じ結果を出せるかという「業務の標準化」も含んだ意味となります。たとえば、生産管理にExcelを使用していても、システム化されていない場合はしばしばあります。

 Excelは、汎用性があって便利なツールですが、生産管理のように要件が常に変わり、膨大なデータの組織的な管理が求められる作業には適していません。というのも、Excelにはリアルタイム性がなく、工程の可視化やデータの共有などが難しいためです。

 優れたスキルを持ったExcelユーザーならば、それでも自分なら可能だと主張するかもしれません。しかし、複雑に作成されたExcel表の全体的構造を把握し、適切に編集するのは、作成者以外には困難です。個人の突出したスキルに頼った運用は、むしろ属人化を助長するおそれがあります。

 その点では、「生産管理システム」や「ERP」などを導入するのが、属人化からの脱却のためには適しています。ただし、こうしたシステムを導入しても、マニュアルなどが整備されておらず、そのシステムを利用できるのが一人だけという状態では、やはり問題の解決にはなりません。

従業員が業務内容を共有しない

 職場での「自分にだけできる仕事」の存在は一種のスペシャリティ(特長)になります。中には、これを手放すことで職場における自分の評価が相対的に下がることをおそれて、他者とノウハウや知見を共有しない人もいるでしょう。

 これは個人の考え方だけではなく、会社の評価体制に起因するケースもあります。つまり、目に見える利益に直接結びつかないマニュアル作成や後進の育成といった仕事を人事評価であまり重視していなければ、従業員はそうした考えを持ちやすくなるわけです。このような場合は、人事評価の基準に一部修正を加えることをおすすめします。

業務を共有する余裕がない

 目の前に処理すべき仕事が山積みになっていたら、どうしても情報共有や後進の育成などは後回しになりがちです。そうして業務を処理していくうちに、その人にしか進められない仕事が次々と増えていき、属人化が深刻になってしまうというパターンもあります。

 こうした場合は、そもそも職場全体で人手が足りていない可能性も考えられます。自分の仕事に手いっぱいになった結果、他の従業員がどういった仕事を進めているかに無関心となってしまっている職場も存在することでしょう。人手不足が生じがちな中小企業は、特に警戒すべき問題です。

生産管理を標準化するメリット

 続いては、生産管理を誰にでも行えるようにすることで得られるメリットを3点に分けて解説します。

成果物のバラつきがなくなる

 標準化されれば、担当者以外でも成果物の品質をチェックできるようになります。担当者が複数いる場合も、業務の進め方を全員で統一すれば、個人差は生じにくくなります。その結果、業務品質が全体的に改善および均一化され、製品やサービスのレベルに安定感が出ます。顧客満足度の向上にも結びつくでしょう。

従業員の負担軽減につながる

 特定の個人にしかできない仕事をなくしていくことにより、他の従業員と分担しての作業が可能になります。業務負担が均一化されれば、安心して休みを取れるようになるでしょう。業務中に何か問題が発生した場合も、一人で頭を抱える必要はありません。他の人も仕事内容は知っているので、すぐに共通認識をつくって共に問題の解決へ取り組むことが可能です。

生産性アップやリードタイム短縮につながる

 

 標準化を実現する際には、業務フローの明確化やマニュアルの整備などを通して、誰もが同じ成果を出せるように訓練を行います。これにより「誰が、いつ、どのような作業をしていて、いつ終わるのか」といった状況を皆が把握でき、スケジューリングやマネジメントが容易になるでしょう。

 チームメンバーの仕事内容や進捗がわかれば、「今あの人がやっている工程は大変だから手伝おう」など、全員が協力して目標に向き合いやすくなります。このように社員が均一化された高度なパフォーマンスを駆使してチームワークを深めていくことで、生産性の向上やリードタイムの短縮を実現可能です。

生産管理の属人化を解消するポイント

 では、生産管理の属人化を解消するにはどうしたらいいのでしょうか?解消のために重要な3つのポイントを解説します。

業務内容を洗い出して標準化できる業務を選定する

 最初に着手すべきは、自社の業務内容を洗い出し、標準化できる対象業務を明らかにすることです。

 まずは各業務の工数や発生頻度、難易度などを数値化し、各業務の重要性を整理します。その過程では各業務の担当者も確認すると共に、これまで属人化していた業務やスキル、ノウハウを可視化することが必要です。

 属人化していた業務が特定できたら、上記で数値化した重要性を考慮しながら、属人化が自社に与えるリスクを明確化します。基本的には、このリスクの大きさが、標準化すべき対象の優先順位に対応する形です。

 とはいえ、スムーズに変革を進めるためには、「標準化のしやすさ」や「成果の出しやすさ」も重要になります。早期に大幅な業務改善ができれば、その後に従業員の協力を得やすくなるでしょう。

マニュアルを作成する・システムを導入する

 標準化に役立つ最も一般的な手段はマニュアルの整備です。これを整備することで、業務の進め方や求められる品質を統一し、誰がやっても同じ成果を出しやすくなります。

 マニュアルの作成にあたっては、最初から詳細を詰め過ぎないようにすべきです。あらゆる事態を想定して細かくルールを作ろうとすると、負担が大きすぎて途中で頓挫しかねません。それゆえ、最初は大まかな骨子をつくり、そこから徐々に細部を詰めていくのがおすすめです。

 生産管理の属人化を解消するには、「生産管理システム」や「ERP」といったICTツールの導入が有効です。こうしたシステムを導入することで、データの入力や管理業務を効率化できます。データへのアクセス性が高まり、情報共有するにも便利でしょう。

 システムを選定する際には、特に機能要件と使いやすさに気をつけなければなりません。自社の業務に必要な機能が備わっていないシステムは、そもそも導入する意味などないからです。

 同時に、いくら機能が充実していても、特定の従業員にしか使いこなせないシステムでは、本命の目的である属人化の解消が達成できなくなります。システムの選定にあたっては、自社の業務内容や従業員のICTスキルを考慮に入れて、誰もが使えるものを優先させることが重要です。

定期的に見直し改善を続ける

 標準化を定着させるには、PDCAサイクルを回して継続的に改善していくことが必要です。

 一度標準化をしても、いつのまにか属人化が再び発生していることは起こり得ることです。これは悪いことばかりではなく、属人化していた業務が多くの従業員に共有される中で、新たなナレッジが生まれてくる可能性も意味します。

 したがって、定期的にどこかで属人化が復活していないか、共有されていない新たなナレッジが生まれていないか見直し、必要に応じて業務プロセスを更新する取り組みが重要です。たとえば社内wikiなどを使って、フィードバックやコメントを残せる仕組みにしておくと、ナレッジを蓄積してマニュアルを更新しやすくなるでしょう。

まとめ

 業務の属人化を解消し、標準化を推進することで、特定の従業員の存在に依存した不安定さから脱却し、業務効率化や従業員の負担軽減などのメリットを得られます。

 生産管理の標準化を実現するには、生産管理システムやERPの導入など、ICTツールの活用が有効です。NTT東日本では、製造業のデジタル活用を支援しています。属人化から脱却し、製造業DXを実現するためにぜひご利用ください。

製造業のスマートファクトリー化をデジタル技術から支援

日本の製造業は人材不足や老朽化した生産設備の維持、技能継承など、さまざまな問題を抱えており、これらに対応するため、生産性の向上が喫緊の課題となっています。NTT東日本は、「デジタル技術」と「セキュアなインフラ環境」によって、工場のデジタル化(スマートファクトリー化)をご支援。製造業の生産性向上をサポートします。

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