2023.01.30 (Mon)
ICTで製造業はどのように変わるのか(第16回)
製造業を取り巻く現状と考えられる課題とは? その対策についても解説
日本では少子高齢化の勢いが止まらず、各企業は人手不足などさまざまな課題に悩まされています。本記事では製造業にフォーカスを当て、どのような課題が生じているかについて詳しく解説します。課題をクリアにし、ものづくりの現場で作業員が生き生きと働けるようになるには、広い視点で思い切った変革を進めることが大切です。DXを中心とした生産性向上の施策例も紹介しますので、参考にしてください。
製造業を取り巻く現状
時代の流れとともに、製造業ではさまざまな変化が訪れています。市場で生き残るためには変化に対し、早期かつ適切に対応することが重要です。ここでは製造業に訪れている具体的な変化について解説します。
グローバル化
「グローバル化」は、企業に求められる取り組みのひとつです。内閣府が公表した「平成16年度年次経済財政報告」によると、グローバル化は以下のように定義されています。
「資本や労働力の国境を越えた移動が活発化するとともに、貿易を通じた商品・サービスの取引や、海外への投資が増大することによって世界における経済的な結びつきが深まること」
膨大な数のモノやデータが世界中でやり取りされている昨今、国内での生産や販売に限定する閉じた戦略では、市場での優位性が確保できず、経営が立ち行かなくなる可能性が高まります。そのような中、人件費や運送費などコストの安い他国で生産ラインを設け、主要な部品は別の国から調達するなどの工夫をしている企業があります。国内市場に限界を感じ、販路拡大の一環として海外に拠点を設ける企業も少なくありません。
このように、自社の立ち位置を強固に築くために、従来のサプライチェーンを見直し、国境を越えて再構築する動きが加速しています。
労働力人口の減少
日本は少子高齢化に歯止めがかからず、労働力人口も今後ますます減少すると指摘されています。総務省統計局が2022年2月に公表した「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果」によると、2021年平均の就業者数は6,667万人と、前年に比べ9万人減少しています。特に労働力の中核となる15歳から64歳の就業者数の減少幅が大きく、2021年平均で5,755万人と、前年度を16万人も下回っています。
この傾向は製造業でも見られ、2021年度の就業者数は対前年マイナス0.8%です。これまで通りの採用活動を実施したとしても、人口減少の影響を受け、必要な労働力を確保しにくくなっています。
デジタル化の推進
必要な労働力を確保できなければ、人的なリソースに頼れない状況が生まれます。そこで、IoTやAIといったICT技術を活用してデジタル化を推進する動きが高まっています。今や企業のみならず、各自治体においてもデジタル化を進めることで、ビジネスモデルの変革が求められているといっても過言ではありません。
一方で、日本企業ではビジネスモデルの変革に踏み出せなかったり、レガシーシステムから脱却できなかったりする事例も散見され、近い将来、経済的な損失が発生する可能性があります。
製造業で考えられる課題
多くの製造業が悩まされている、4つの課題について解説します。
人材の確保
業務を進めるために必要な人材を確保できなければ、計画や目標を達成できなくなる可能性があります。少ない人数で業務を回すことにより従業員には大きな負担がかかり、モチベーションの低下を招くことも考えられます。企業の経営にも、深刻な影響を与えかねません。
競争力の強化
グローバル化により競争が激化する中で、自社の弱みをカバーしつつ強みを生かすことが急務です。そのためには、業務の見直しを行い、競争力を強化する必要があります。
技術の承継
企業はノウハウや独自技術を積み重ね、それらを活かすことで競合他社との差別化を図ります。こうした営みを継続するためには、自社の技術に習熟したベテラン従業員が次世代の後輩を育てることが必要です。しかし、育成する若手従業員が不足しており、技術承継が難しいと悩む企業は少なくありません。
非常時の対応
昨今は新型コロナウイルス感染症や大規模な自然災害、他国との軋轢や紛争など、いつ何が起きるか想定できないことが多くなっています。このような将来を見通しにくい不確実な状況は「VUCA(ブーカ)」という言葉で表されます。企業は、事業継続が困難になるような非常時の影響を最小限に食い止めることが求められます。
製造業における課題への対策
製造業に携わる企業は、さまざまな課題に対してどのように対策を講じればよいのでしょうか。ポイントを5つ解説します。
働き方の改革
近年、政府主導で働き方改革が進められ、ワークライフバランスが重視されるようになりました。人手不足解消のためには、従業員が働きやすい労働環境の整備に目を向け、推進していくことが重要です。たとえば時短勤務や、柔軟に勤務時間を選択できる制度などが導入されれば、育児や介護などで時間に制約のある人も長く働き続けやすくなるでしょう。長時間労働が抑制され、公平な待遇が確保されている職場も働きやすいと感じてもらえるはずです。
価値観が多様化している現代において、労働環境を改善するための取り組みを進めることで、これまで製造業は働きにくいとして敬遠していた人にも魅力的に映る可能性があります。結果、入社希望者が増え、定着率の向上も期待できます。
業務の見直し
少ない人員で業務を回すためには、それぞれの業務を効率化する必要があります。まず、今ある全てのタスクについて棚卸しを行い、無駄な業務はないかを分析します。「前の担当者から引き継いだから」など、惰性で行っている業務があるかもしれません。真に必要な業務を厳選し、リソースを集中させられると生産性の向上が期待できます。従業員の負担も減り、エンゲージメントが上がる可能性も高まるでしょう。
従業員の満足度が上がることで企業イメージがよくなり、新たな人材を確保しやすくなります。人手不足の解消にも期待できます。
BCPの策定
VUCA時代となったいま、自社にとってのリスクとは何かを見極め、損害を抑えつつ事業を早期に復旧させるための「BCP(事業継続計画)」を策定することが重要です。たとえば従業員の安全確保や緊急時の連絡体制、代替設備や部品調達先などについて計画を策定します。
こうした取り組みを確実に行うことで、万一のリスクを最小限に抑え、事業を存続させられる可能性が高まります。
ビジネスモデルの変革
自社のビジネスモデルが陳腐化していないか、確認することは必要不可欠です。消費者や社会からのニーズに適していなければ、市場でのシェアは確保できず、経営にマイナスの影響が出かねません。生産性を向上させたり、競争力を高めるために、今のビジネスモデルを根底から変革することも必要になってくるでしょう。一例として、製品そのものではなく、サポートやアフターサービスなどを通じて新たな付加価値を提供する「サービタイゼーション」というビジネスモデルが挙げられます。サービタイゼーションは、「モノ消費」から「コト消費」に移りつつある現代に対応するためのビジネスモデルのひとつです。
こうした取り組みを成功させるには、一朝一夕では困難です。ICT技術を活用し、後述するDX化を進めることが重要です。
DXの推進
DXとは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称です。経済産業省が2022年9月に改訂した「デジタルガバナンス・コード2.0」において、以下のように定義付けられています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
各企業が「デジタル化を推進したい」「技術やスキルを若手従業員に承継させたい」「ビジネスモデルを変革したい」といったさまざまな課題を想定し、DXの取り組みを進めています。
製造業DXのひとつに「スマートファクトリー化」が挙げられます。IoTやAIなどのテクノロジーを活かし、生産プロセスを最適化する工場として、注目を集めています。コスト削減やヒューマンエラー防止も期待できることから、製造業DXの中核的な取り組みとして今後ますます導入が進むでしょう。
製造業DXの重要なポイント
製造業DXを推進するためにどのようなポイントに気を付ければよいのか、4つのポイントを解説します。
段階的に推進する
DXを進めるのであれば、全社で大々的に取り組みたくなるかもしれません。しかし、DXは既存のビジネスモデルを根底から変革する可能性のある取り組みであることから、最初はスモールスタートで、段階的に広げていくことが成功への近道です。突然、全てのシステムが変更になってしてしまうと、現場が混乱して業務に支障をきたす可能性があるでしょう。小さな規模の業務効率化から始める、一部の部署だけで始めるといった方法があります。PDCAサイクルを回し、着実に結果を出しながら規模を広げましょう。
経営陣が関与する
スムーズにDXを推進するには、経営陣の理解が欠かせません。経営陣が明確なビジョンを発信し、従業員と認識を共有することが大切です。DXは最終的に全社横断的と連携し、取り組むべきことだからです。経営陣も含めて各組織が一体となって、経営戦略のひとつとして進めていく必要があります。
推進体制を整備する
社内体制づくりも大切なポイントです。ICTに長けた人材、各部門の連携を促進できる人材、業務に精通した人材などを集めて推進チームを構成するなど、DXが推進しやすい体制を築きます。人材確保が困難な場合は、アウトソーシングなど社外のリソースを活用することも一案です。
現場を理解する
DXの具体的な内容については、机上の空論にならないよう、現場で何が課題となっているのかをヒアリングし、実現のイメージを共有することから始めます。DXはあくまでも手段であり、本来の目的は、現場の課題をクリアして組織やビジネスモデルを変革することです。現場の課題が見えたら、優先順位を付けながら徐々にDXを進めます。
製造業を取り巻く現状は刻々と変化しています。その中でも人手不足や生産性向上といった課題に対しては、DX化を進めることで解消できる可能性があるため、できることから実践するとよいでしょう。
まとめ
政府が主導する働き方改革やDX推進などの取り組みは、今や多くの企業で採り入れられるようになってきました。製造業の現場では、DXの一環としてスマートファクトリーの導入も続々と進められています。DXが成功すれば、従業員の負担が軽減し、モチベーションや定着率、生産性の向上などさまざまなメリットを享受できます。
NTT東日本では、デジタル技術を用いて工場のスマートファクトリー化を支援し、生産性向上をサポートしています。ご興味のある方は、資料をぜひダウンロードしてみてください。
製造業のスマートファクトリー化をデジタル技術から支援
日本の製造業は人材不足や老朽化した生産設備の維持、技能継承など、さまざまな問題を抱えており、これらに対応するため、生産性の向上が喫緊の課題となっています。NTT東日本は、「デジタル技術」と「セキュアなインフラ環境」によって、工場のデジタル化(スマートファクトリー化)をご支援。製造業の生産性向上をサポートします。
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