製造業で大切な要素として、「QCD」がよく知られています。QCDの改善によって、高品質な商品を低コストかつ短納期で顧客に届けられ、顧客満足度や利益の向上が可能です。本記事では、QCDを構成する要素や派生形、改善によって企業が得られるメリット、具体的な取り組み方、生産管理の考え方などについて解説します。
QCDの概要
製造業に携わる企業が常に意識すべき3つの要素が、QCDです。生産管理を行ううえで欠かせない要素であり、改善への取り組みによって企業はさまざまなメリットを得られます。
QCDとは?
QCDとは、「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」の3要素を指します。製造企業が生産管理を行ううえで重要な要素であり、3つの要素をバランスよく改善することで利益や顧客満足度、企業価値の向上を狙えます。
自社の製品を顧客に選んでもらい、満足してもらうには「品質」が重要です。製造期間が短く、スピーディーに市場へ投入できたとしても、品質そのものが低ければ購入してもらえません。購入につながったとしても、低品質であれば満足してもらえず、クレームの発生にもつながります。
製品の生産に要する「コスト」も意識しなくてはなりません。どれほど魅力的で素晴らしい製品であっても、生産にコストをかけすぎると利益を圧迫するおそれがあります。生産コストが高ければ販売時の金額も高くなり、顧客離れを招くかもしれません。
QCDを構成する最後の要素、「納期」も重視する必要があります。魅力的な製品であっても、顧客のもとへ届くまでに時間がかかりすぎるのは問題です。品質を高めようと生産に時間をかけすぎた結果、納期が遅れたとなると目も当てられません。
このように、QCDは三すくみの関係にあります。特定の要素だけを突出させようとすると、ほかの部分にしわ寄せがいくため注意が必要です。品質を高めようとすればコストが上がり納期が遅くなる、コストを抑えすぎると品質が低下する、納期を早めようとするとコストが高くなり品質も下がる、といった具合に3つの要素が関わり合っています。
優先順位が高いのは「品質」と言われている
生産管理で重要な3要素のうち、もっとも重視すべきは品質です。製品そのものの品質は、顧客の満足度に大きく関わる要素であるため、品質を高めることに注力しなくてはなりません。
低コストで生産に成功し安く販売できても、低品質では顧客の不興を買うおそれがあります。同様に、入手できるまでの時間がどれほど短くても、品質が低いとなると満足してもらえません。
このような理由から、もっとも優先すべきは品質であるものの、そこばかりに注力しすぎるのも問題です。ビジネスである以上、取引先企業の意向も気にする必要があります。納期を早めてほしいという要望を無視して品質を追求し、納品が遅くなるようなことがあると、今後の取引に影響を及ぼしかねません。
そのため、基本的には品質を最優先としたうえで、顧客ニーズも考慮しつつ、その時々の状況に応じた優先順位を考える必要があります。
QCDを意識した生産管理の考え方
QCDを意識した生産管理においてはまず、品質を維持するための明確な基準が必要です。加えて、余裕がある予算設定と、納期までの工数や時間などを考慮した全体のスケジュール作成も大切です。
基準を設けて品質を維持する
品質を維持するうえで大切なのは、明確な基準の設定です。どうなっていれば合格なのか、どのような状態が不合格なのかという基準を明確にしていないと、品質の低い製品を出荷してしまいます。このようなリスクを避け、一定の品質を維持するために、明確な基準を設ける必要があります。
もちろん基準を設けるだけでなく、運用を徹底することも大切です。基準をクリアできない製品は廃棄する、差し戻すなど適切な対処が求められます。
基準の設定と運用によって品質を維持できる確率は高まるものの、確実ではありません。人の目や手で検品を行っているケースでは、ヒューマンエラーなどで不良品を市場に流してしまうリスクが常につきまといます。万が一、不良品を弾けずにそのまま出荷してしまった場合は、状況を確認したうえで返品や交換などの対処を、速やかかつ適切に行います。
余裕のある予算を設定する
予算を設定する際には、余裕をもたせることが大切です。余裕のない予算を設定してしまうと、生産に十分なリソースを割けず、品質の低下を招きます。納品までの期間がいたずらに長引いてしまうおそれもあるため、余裕のある予算を設定しましょう。
予算設定時には、予定している納期に間に合うか、品質を維持できるかを考慮しなくてはなりません。生産過程においては予算の枠内に収まっているか、オーバーしていないかも確認します。
必要に応じて、予算の調整も行います。急に原材料の価格が高騰した、人材を追加したことで人件費がアップしたなど、コストが変動するケースは多々あり、速やかな調整が求められます。
納期までの工数・時間を設定してスケジューリングする
生産のスケジュールを組む際には、納期までの工数や時間を算出したうえで組み立てます。スケジュール通りに生産が進まないケースも考えられるため、そのようなときは適宜調整が必要です。
生産の進行状況は常にモニタリングが必要になります。予定通りに作業が進んでいるか、問題が発生していないかなどを逐一チェックし、万一遅れが見られるようなときはフレキシブルに対応します。たとえば、遅れが顕著な工程にリソースを追加する、生産数の見直しを図る、といったことが考えられます。
なお、納期に遅れるのは厳禁であるものの、早すぎるのも問題です。あまりにも早く納品できてしまうと、生産に手を抜いたのではないか、と勘繰られてしまうかもしれません。顧客に余計な不信感を抱かせかねないため注意が必要です。生産が速すぎると出荷が追いつかず、一時的な保管スペースを圧迫してしまう問題も発生します。
納期に遅れないよう速やかに生産を進めるのは大切ですが、速すぎるのも上記のようなリスクを招くため、当初組み立てたスケジュールに沿って生産を行いましょう。
QCDを改善するメリット
QCDを改善する取り組みによって、品質や利益率が高まり、顧客満足度の向上にもつながります。生産プロセス全体の最適化につながるほか、他社との差別化を図れるのもメリットです。以下に3点のメリットを紹介します。
品質や利益率、顧客満足度の向上につながる
QCDを改善する目的は、なるべくコストをかけずに高品質な品を生産し、できるだけ短い期間での納品を実現することです。取り組みによってバランスよくQCDを改善できれば、低コストで高品質な品を生産でき、短納期で顧客のもとへ届けられます。
改善への取り組みによって品質が高まれば、顧客満足度も向上します。今までの価格と変わらず高品質な品を手に入れられるようになり、満足度を高めた顧客がリピーターになってくれる可能性が上がるのもメリットです。企業や商品に愛着を抱いてもらえれば、SNSや口コミの投稿にもつながり、ブランディングの強化にもつながります。
さらに、利益率が高まるのもメリットです。予算を正しくコントロールできれば、余計なコストの発生を防げるため、結果的に利益が増えます。短納期で納品できるようになれば、キャッシュフローの改善も望めるでしょう。
生産プロセスを最適化できる
QCDの改善に取り組むことで、生産プロセス全体の最適化につながります。QCDを改善するには、生産から出荷にいたるまでの一連の流れをトータルで見直していかなければなりません。たとえば、マニュアルを整備して作業の標準化を図る、仕入れ先を変更する、AIやIoTなど先端技術を導入するなどすれば、生産プロセスの最適化につながり、QCDも改善できます。
生産プロセス全体が最適化されれば、今まで以上に効率よく業務を遂行できる環境が整います。少ないリソースでこれまで以上の生産が行えるようになり、業務時間も短縮されるなど、生産性向上を実現できる点がメリットです。
生産性が高まればコストを下げられるため、結果的に商品を安く顧客に提供できます。効率よく作業を進められるため短納期にも対応できるようになり、顧客のもとへいち早く商品を届けられます。
他社との差別化につながる
QCD改善への取り組み方によっては、他社との差別化が可能です。顧客によって、QCDの何をもっとも重視するかは異なります。品質が第一と考える方もいれば、とにかく早く商品を手に入れたい、なるべく安く入手したいといった方もいます。
自社がターゲットとしている顧客のニーズを正確に把握できれば、QCDの何を改善すべきかが見えてくるため、そこへ注力することで他社との差別化が可能です。たとえば、自社の顧客が短納期を重視しているのであれば、納期の短縮につながる施策に注力することで、競合他社よりもスピーディーに商品を届けられます。あるいは、とにかく安く商品を手に入れたいと考える顧客が多いのなら、コストダウンを徹底して売り値をどこよりも安くできれば、明確に他社との差別化が可能です。
他社と差別化できるポイントが見つかれば、それを自社の強みとして積極的にアピールできます。どこよりも安い、どこよりも早いとアピールすることで注目を集められ、更なる集客につながるという好循環が生まれる可能性があります。
QCDを改善する方法
QCDを改善するために、まずすべきは現状把握です。QCDの改善は生産プロセス全体を見直すことでもあるため、現状における課題を正確に抽出することから始めます。現状を把握するには、現場で実際に作業している方からのヒアリングが有効です。
次に、具体的な改善案を考えます。たとえば、検品に時間がかかりすぎている場合は「AI技術を用いた外観検査システムを導入する」、作業の属人化が発生している場合は「マニュアルを整備して標準化を図る」といったことが考えられます。
具体的な改善案が決まれば、計画を立てて実施しましょう。「実施しておしまい」ではなく、継続的な効果検証を行うことも大切です。効果検証を行わなければ、施策の効果が現れているのかどうか判断できません。
望んでいたほどの効果が現れていないのなら、何かしら問題があるのかもしれません。このようなケースでは、何が問題なのかを確認したうえで再度施策を実行します。このように、効果検証をしつつPDCAサイクルを回すことで改善効果が高まります。
QCDプラスアルファの考え方
QCDに別の要素を加えた造語がいくつか存在します。たとえばEQCDは、「環境」を意味する「Environment」の頭文字Eを加えた、製造において環境をもっとも重視しようとする考えです。製造過程において地球環境にダメージを与えないよう配慮しつつ、QCDも意識します。
QCDSという造語もあります。Sは「Safety」で、意味は「安全性」です。業界によっては、業務中に従業員がけがのリスクを負うこともあります。たとえば、高所での作業や機械工具の使用が多い建設業では、従業員にけがのリスクがつきまとうため、安全性を意識すべきといった考えです。
Sを「サポート」や「サービス」とする考えもあります。顧客に対するサポートやサービスに力を入れなくてはいけないといった考えです。商品やサービスを直接顧客に販売する企業では、Sをこのような位置付けにするケースが少なくありません。
「Flexibility(柔軟性)」の意味を加えた、QCDFなる造語も存在します。これは、状況に応じた柔軟な対応が重要である、といった考えです。製造業においても、フレキシブルな対応が求められるケースは多いでしょう。
そのほか、QCDSMというものあります。QCDはそのままで、「安全」を意味する「Safety」と「やる気」を指す「Moral」の2要素を加えた造語です。QCDを意識するのはもちろん、安全性ややる気も重視しようといった考えです。製造業で使われるというよりは、経営管理の手法として採用されるケースが多く見受けられます。
このように、さまざまな派生形があるものの、基本はやはりQCDです。それを踏まえたうえで、SafetyやEnvironmentなど、自社にマッチした要素を加えて取り組みを進めるとよいでしょう。
まとめ
製造に携わる企業が継続的な発展を目指し、利益を最大化させていくためには、QCDを意識した生産が求められます。もっとも優先度が高いのは品質であるものの、自社のターゲット層や顧客のニーズを踏まえて優先順位を変えることも大切です。
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