「インダストリー4.0」や「スマートファクトリー」などの概念に代表されるように、昨今では製造業においてもICT活用が急激に進んでいます。こうした中で今後特に活躍が期待されているのがAI技術です。
AI(Artificial Intelligence、人工知能)は、これまで人が手作業で行っていた仕事を自動化したり、より高品質な製品を生み出したりするために役立ちます。本記事では工場にAIを導入することで具体的に何ができるのか、そのメリットや注意点、導入の流れなどについてわかりやすく解説します。
工場でAIを活用することで何ができる?
AIは工場においてさまざまな用途に活用できます。
たとえば作業の自動化です。AIは生産ラインや物流など、さまざまな現場の作業を自動化できます。製造業者にとって、作業の自動化は、従業員の手作業を最小限に抑え、運用コストを削減するための重要なソリューションです。危険な作業や負担の大きい作業を機械に代替させれば従業員の負担軽減に役立ちます。
不良品の検品作業も自動化できます。製品や部品に関する大量の画像データを学習させると、AIは正常な製品と不良品の差異を自分で識別できるようになります。高性能なカメラと組み合わせたAIは人の視覚以上の精度で画像を認識できるので、肉眼では捉えきれない微細な欠け、へこみ、歪みなどの異常も検知可能です。
現在の在庫状況をデジタル上で管理し、AIに過去のデータを学習させることで、在庫管理や需要予測も可能です。何の製品や原料がいつどれくらい必要になるのか正確な需要予測ができれば、在庫管理を最適化し、サプライチェーン全体の効率を高めるのに役立ちます。
さらにAIはメンテナンス記録を参照したり、IoTセンサーと連携したりすることで、生産設備の故障や不調の兆候を予測・検知できます。これによって、適正なタイミングでメンテナンスを行えるようになるため、計画外のダウンタイムの発生確率を抑えることが可能です。予知保全は製造現場における重大な事故を防ぐために重要です。
工場にAIを導入するメリット
工場にAIを導入することで、以下のような4つのメリットが期待できます。
在庫管理の自動化・生産性アップ
企業にとって、必要なときに在庫が不足したり、逆に過剰に在庫が余ったりすることはできるだけ避けたいことです。在庫がなければ顧客は競合他社へ逃げてしまうかもしれませんし、在庫が余ればその分だけコストに無駄が発生します。食品メーカーであれば、大量のフードロスの発生はSDGsの観点からも好ましくない問題です。
在庫管理を最適化するには市場需要の変化やサプライチェーンの状況、自社の生産能力など、非常に多くの要素が関係してくるため、人が常に正しく対応できるとは限りません。しかし、高度な情報処理能力を持ったAIならば高い精度で可能になります。
AIを在庫管理に活用することで、企業は的確に将来の需要予測を行い、在庫レベルを適切に維持できます。これによって企業は欠品ロスを防ぎ、在庫の管理コストを抑え、効率的に生産活動を行えます。
不良品の確認漏れ防止・品質の統一
AIを不良品検査に活用することで、不良品の見逃しを防止し、品質を統一できます。人が不良品の検査を行う場合、作業員の経験や能力によって検査精度には個人差が生じます。同じ作業員に限定しても、その日のコンディションや疲労によって、バラつきが出る可能性は避けがたいでしょう。
その点、AIを検査に活用すれば、検査精度のバラつきを心配する必要がないため、品質の統一を図れます。AIは、人の視覚能力では見落としてしまうような微細な傷なども識別し、検査の高精度化やスピードアップも期待できます。さらに、AIはデータが充実すればするほど機械学習によって性能を向上させられるので、検査を行えば行うほど検査品質を上げることが可能です。
作業中の事故防止
AIの活用は作業中の事故防止にも役立ちます。たとえばAIに予知保全を任せれば、各種のセンサーなどと連携してリアルタイムに生産設備の状態を監視し、整備不良などによって生じる事故を抑制できます。
これまで従業員が行っていた作業をAIが代行することで、作業の安全度を高め、万一事故が起きたときでも従業員が傷ついたりするリスクを抑えられます。危険度の高い仕事、作業負荷の大きい仕事は従業員にとっても避けたいものなので、これを自動化することは従業員満足度の向上にもつながります。したがって、AIの自動化を進める際には、危険度が高い作業などから優先的に着手していくのがおすすめです。
労働力不足の補助・コストダウン
AI活用は人手不足の解消や全体的なコストの軽減に寄与します。多くの製造業者は人手不足を課題としていますが、今後も少子化が進行することを想定すると、この状況が劇的に好転することは期待できません。かといって、既存の従業員を酷使すれば、余計に人材は離れていくばかりです。
AIによる作業の自動化や効率化は、こうした人手不足を改善するための助けになります。AIに仕事を任せることで、従業員はその分の空いた時間を、人ならではの創造性が求められる仕事に使うことが可能です。
さらに、AIは人の従業員と違って人件費が不要です。人件費などのコスト削減で、企業の収益性を大きく上げることに寄与します。
工場にAIを導入する注意点
AIの導入は製造業に数々のメリットをもたらしますが、導入や管理運用にあたってはいくつかの点に注意が必要です。以下では、工場にAIを導入する際の注意点を3つ解説します。
AI導入時のコスト
AIの導入において最初にネックになるのが、初期投資が必要になることです。長期的に見れば、AIを導入することで、人件費やその他のコストの削減が期待できますが、導入初期はむしろコストが増大します。
業務の中にAIを取り込むと既存の業務プロセスにも大きな変化が生じ、従業員の負担が一時的に増えることも考えられるでしょう。AIを導入する際には、こうした一時的な負担増も考慮に入れ、段階的にAI活用を進めていくように計画を練ることが必要です。
雇用の減少・専門知識を有する人材の確保
AIを効果的に活用するためには、専門知識を有したICT人材が不可欠です。とはいえ、デジタル化の需要が増している今日において、ICT人材を欲しがっている企業は多いので、その人材獲得競争を勝ち抜くには相応の好条件が必要です。高いスキルを持ったICT人材を獲得するには、それなりの人件費が必要になることも覚悟したほうがいいでしょう。
専門人材の雇用が必要となる一方で懸念されるのが、これまで単純作業に従事していた労働者の雇用減です。AIの導入によってこれまで人が行っていた単純作業が自動化されれば、その作業を行っていた人は仕事を失うことになります。
これを機会に人件費をカットするというのもひとつの考え方ではありますが、日本では賃金カットや解雇などに関して法律上の制約が多く、そう簡単にはいかないでしょう。そのため、これまで単純作業を担当していた人には新たな役割を与えることが必要です。長期的な観点から見れば、既存の人材を社内で教育して、将来のICT人材へと育てていくことも一考の価値があるでしょう。
情報漏えいの恐れ・リスクマネジメントの高度化
情報セキュリティの強化もしなくてはいけません。AIを導入するにあたっては、自社の機密情報を含む数々のデータにAIがネットワークを介してアクセスできるようにすることが必要です。しかし、機密情報をネットワーク上に置くことは、サイバー攻撃のリスク増大にもつながります。
さらに、AIの活用を推進するということは、別の言い方をすると、AIへの依存度を深めていくということでもあります。そのため、万一AIに問題が生じた場合に起きるトラブルに備えるためにも、AIの導入をする際にはセキュリティの強化やリスクマネジメントの徹底を行い、限定的な導入による試運転から始めることをおすすめします。
工場へのAI導入事例を紹介
続いては、AI活用の参考例として、実際に工場にAIを導入して成果を挙げた具体例を3つ紹介します。
品質検査にAIを導入
ある大手自動車メーカーは、プレス工場における板金の品質検査に自社開発のAIを導入しました。このメーカーは板金に生じる微細な異常も検知できるように、数百万枚ものテスト画像を機械学習させることで、AIが正常な板金と異常な板金の違いを識別できるように訓練しました。その結果、AIはわずか数秒のスキャンで微細な異常が検出できるようになり、同社は品質検査の高精度化・省力化・迅速化を実現しました。
外観検査にAIを導入
パソコンなどの製造を手掛ける大手電子機器メーカーは、AIの画像認識機能を製品の異常検知に役立てています。同社は品質安定化と人手不足への対策として、製造ラインにおける外観検査をAIによって自動化しました。その結果、プリント基板の検査工数を25%も削減することに成功しています。同社ではこの異常検知AIを自社工場内で使用するだけでなく、他社にもソリューションとして展開することで自社の事業拡大へつなげています。
金型製造にAIを導入
ある大手電気機器メーカーは、金型製造にAIを導入しました。その目的は、熟練工による属人的なものづくりをデジタル技術で再現可能にすることです。そのために同社では、職人たちが培ってきたスキルを見える化し、データ活用によってその繊細な仕事を再現できるように取り組みました。その結果、属人的な金型製造から脱却し、加工時間の40%削減、工具の摩耗量20%削減などの成果を挙げています。
工場にAIを導入する流れ
工場にAIを導入する最初のステップは、自社の課題を整理し、AIを導入する目的を明確にすることです。工場におけるAIのユースケースはさまざまなため、どのような用途にAIを使いたいのかを最初に明確化することが欠かせません。これにより、導入・開発すべきAIソリューションの機能要件なども具体的になってきます。
次のステップは概念実証(PoC)です。この段階では、実際にAIを使用して、上記で明確化された目的を達成できるかを検証します。運用上の課題などを洗い出すのもこの作業の大きな狙いです。
PoCの次は、AIに機械学習・深層学習を実施し、AIが必要な機能を果たせるように訓練していきます。AIの性能や効果は学習によって大きく左右されるので、このプロセスは非常に重要です。
工場へのAI導入で失敗するケースとは?
せっかくAIを導入しても、期待した成果を挙げられないケースもあります。こうした失敗を避けるために、以下ではAI導入で失敗してしまう3つの原因について解説します。
AI導入目的の途中変更
AIに学習させるために必要なデータは導入目的によってさまざまです。AI導入の目的が途中で変わってしまうと、そこで必要なデータも変わってきてしまい、AIはその機能を果たせなくなってしまいます。AIを導入する際には最初に明確な目標を立てることが重要です。
現場検証の不足
現場検証を十分にせずにAI導入を急いでしまうと、失敗の可能性が高まります。現場から見える効果と数値から見える効果は必ずしも一致するとは限りません。短期的なKPIを見て問題ないと判断して導入しても、実際に運用していく中で想定していたよりも現場の業務に浸透しない場合があります。AI導入は長期的な視野で判断していくことも大切です。
スタッフの協力の有無
スタッフがAI導入に協力的か否かもAI導入の成功を左右します。AIを活用するためには、データの収集や整備が必要です。先に紹介した金型製造の例のように、現場の作業員からデータを取得する場合もあるでしょう。
こうしたデータ収集をするときにスタッフが非協力的だと、導入計画を予定通り進めることが難しくなり、その分のコストも膨らみます。したがって、AI導入をする際には、関連するスタッフにAI導入の意義を説明し、その理解を深めることが大切です。加えて、AIの適用範囲が広すぎると収集すべきデータも増えてしまうので、適用範囲を正確に見極めることもポイントになります。
まとめ
工場においてAIはさまざまな用途で活用できます。AIの導入はその用途に応じて、人手不足の改善や業務の属人化の解消、製品の品質向上など多くのメリットが期待できます。
NTT東日本は、デジタル技術による製造業のスマートファクトリー化を支援しています。AIをはじめとするデジタル技術を活用した製造業DXに関心のある方は、NTT東日本のデジタル支援サービスをご検討ください。
段階的にステップアップできる製造業向けのAI活用
AIなどの高度な技術を自社に導入したいと考えても、はじめの一方を踏み出すのは簡単ではありません。そこでNTT東日本では業務に新たな技術を取り入れる支援として「NTT東日本スマートイノベーションラボの活用」を提案しています。通信ビルを活用したエッジコンピューティング環境でAI/IoTを活用したビジネス検証、本番環境の構築を支援しています。
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