2022.03.04 (Fri)

ICTで製造業はどのように変わるのか(第2回)

製造業における機械学習の事例および活用可能な機械学習技術について解説

 日本の製造業では多くのデータが蓄積されており、複雑なデータ処理や分析方法が不可欠となりつつあります。その中で近年、製造業で注目を集めているのが「機械学習」です。

 機械学習を活用できれば、従業員の負担を軽減できるだけではなく、作業の効率化や生産性向上なども期待できます。

 今回は機械学習の基本的な情報、製造業で活用可能な機械学習技術、製造業×機械学習の事例などについて紹介します。

機械学習とは?なぜ製造業×AIか?

 機械学習とは、AIを支える技術のひとつで、コンピューターがさまざまなデータを分析し、データに潜む特徴を学習する作業を指します。

 学習した結果を活用することで、たとえば今まで大量のデータを手作業で構築していた業務も、全て自動化できるようになるのです。

 機械学習のほかにも、「深層学習」(ディープラーニング)というものがあります。機械学習の場合は特徴の正誤を人間が判断しますが、深層学習はAIがみずから学習します。深層学習は、製造業の中でも食品など大量の製品を生産する企業などで活用されています。

なぜ製造業×AIが求められるのか

 製造業でAIが求められる理由には、以下が考えられます。

・人手不足
・品質向上
・機械トラブル防止

 それぞれ解説していきます。

人手不足

 日本では少子高齢化が影響し、人手不足や継承者不足などが各業界で深刻な問題となっています。

 経済産業省が2018年に公開したレポート「製造業における人手不足の現状および外国人材の活用について」では、製造業の94%以上の企業で人手不足が顕在化しているという調査結果が出ていたりと、製造業の人手不足も例外ではありません。

 そのような中、製造業の企業は、人手不足を解決する手段としてAIなどの機械学習に注目しています。

 特に製造業は職人のノウハウや経験が重要となる作業が多く、ゼロから人材を育成するよりも、AIを通じて職人のノウハウや経験を伝承することにより、人材不足の問題を軽減することが可能と言われています。

品質向上

 製造業において、製品の品質向上・維持は重要な課題です。機械学習を活用すれば、不良品検出や品質チェックなど品質管理に関する問題やトラブルを防ぐことも期待できます。

 企業の業績を向上させるうえでも、機械学習の活用による品質向上は非常に重要といえるでしょう。

機械トラブルを未然に防ぐ

 製造業ではさまざまな機械を用いて作業をしますが、当然ながら機械が故障してしまうと、業務に支障が出るのはもちろん、賠償金や信用力低下など大きな損害を被る可能性があります。故障を防ぐためにも、毎日の点検作業や機械のメンテナンスなどを行う必要がありますが、点検コストに頭を悩ませる人も多いのではないでしょうか。

 AIなどの機械学習を活用すれば、予知保全が期待できます。予知保全とは、機械が故障する兆候を検知したらメンテナンスを行うことで、製造ラインを極力ストップしないように稼動させる仕組みです。

 予知保全では画像データやセンサーデータ、過去の故障履歴などをAIが分析・学習し、機械が故障してしまうであろうトラブルや問題が起きる前に対応できる能力が期待できます。

製造業で活用可能な機械学習技術

 続いて、製造業で活用可能な機械学習技術について紹介します。製造業で活用可能な機械学習技術は以下になります。

・不良品検知
・AI官能検査
・在庫の自動的な判断

それぞれ解説していきます。

不良品検知

 製造業の製造ラインでは、より効率良く製品を生成することで、コスト削減が実現できます。機械学習による不良品検知は、工場の生産状況やスペックなどを学習して検査を行うため、品質結果において不良品である可能性が高いものを検知することが可能です。さらに、機械学習を行ったAIで不良品が出ないようにするプロセスなどを構築することもできます。

AI官能検査

 機械学習を使ったAI官能検査も活用できます。人間の五感で良品か不良品かを判別する必要がある製造ラインでは、職人に十分なノウハウがあったとしても、検査結果にバラつきが出てしまうことは少なくありません。人間が検査している以上、必ず起きてしまうことです。しかしAI官能検査であれば、例えば製造ラインにおける正常な音と異常な音を判別するパターンをAIに機械学習させることにより、高い精度で検知できるようになります。

在庫の自動的な判断

 製造業では、おもに従業員の感性やデータの分析などによって在庫が管理されています。余分な在庫を抱えると在庫コストが発生し、企業にとっても大きなマイナスになってしまいます。

 AIなどの機械学習を活用したAIで、過去の出荷データや現在の稼働状況などを機械学習させたAIを活用すれば、在庫の最適化が可能になります。また、AIに在庫管理をさせることによって、人的コストの削減や生産性向上も期待できます。

製造業で機械学習を活用する流れ

 続いて、製造業で機械学習を活用する流れについて紹介します。製造業で機械学習を活用する場合は、以下のような流れになります。

・どの業務に機械学習を活用するかを検討
・必要なデータの収集・分析

どの業務に機械学習を活用するかを検討

 AIなどの機械学習を活用する場合、まずは自社工場の製造ラインや各業務におけるデータ収集・分析を行い、どの業務に機械学習を活用するかを決めます。

 業務によっては機械学習を活用しなくても良い場合や、最優先で機械学習を活用することで業務効率化、生産性向上に期待ができる業務もあるため、事前にどの業務に機械学習を活用するかを検討することは大切です。

必要なデータの収集・分析

 機械学習を活用し、業務効率化をめざす場合は、必要なデータの収集と分析を行うことが重要です。

 たとえば、在庫管理業務で機械学習を活用したい場合は、現在の在庫数、1日で生産する個数、需要、在庫管理方法などのデータをあらかじめ収集したのち、機械学習させる必要があります。収集したデータに間違いがある場合は、せっかく機械学習を活用しても、業務効率化や生産性向上に期待ができなくなる可能性があるため、注意が必要です。

製造業×機械学習の事例

 ここからは、製造業における機械学習の事例についていくつか紹介します。

製造業における主な活用事例

 まずは製造業で活用されている事例をみていきましょう。

マーケティング活用

 機械学習を用いたAIにより、自社製品のニーズを把握してマーケティング活用することは、よくある事例のひとつです。

 たとえば、自社サイトを閲覧しているユーザー層や行動パターンなどを機械学習してAIで分析することにより、どのユーザー層がどの商品・サービスに興味があるのかなどが把握できます。

不具合の処理判断の自動化

 製造ラインなどで不具合などが起きると、従来は基本的に従業員の目視で確認していました。しかし機械学習を用いたAIを活用することで、故障・不具合が起きた際、その要因に合わせた対処をすることができるようになります。

単純作業を置き換え

 製品梱包といった単純作業は、機械学習を用いたAIに置き換えることができます。従業員が単純作業に携わることがなく自動化できるため、自動化による人件費の削減はもちろん、AIでは処理できない複雑な業務を従業員に行わせることで、生産性の向上も期待できます。

製造業にAIを取り入れた企業の事例

株式会社東芝

 東芝では、機械学習を活用することでこれまで困難だった欠陥値を含む製造データを高速かつ高精度に解析することが可能となり、作業時間の短縮と推定誤差約41%まで削減することに成功しています。

Audi

 Audiは機械学習を用いたAIを活用することで、プレス工場における品質管理の自動化に成功しています。これまでの品質管理業務は従業員が目視で行っていましたが、AIを活用することで、数百万枚に及ぶテスト画像を用いた検査も正確に行うことができました。

株式会社ファーストリテイリング

 ファーストリテイリングは、機械学習を用いたAI画像認識の導入で業務の自動化に成功しています。従来は従業員が一つひとつ管理していた倉庫内の在庫管理業務に、高精度のピッキング作業をこなす産業用AIロボットを採用。人員を90%削減することに成功しています。

アイリスオーヤマ株式会社

 アイリスオーヤマは機械学習を用いたAIの活用により、LED照明の生産ラインの無人化に成功しました。基盤の製造工程から製品の梱包までの全作業を一貫してAIが代替することで、高品質な製品の安定供給を実現しています。

製造業にAIを導入する際の注意点

 最後に、製造業でAIを導入する際の注意点についていくつか紹介します。おもな注意点は、以下になります。

・経営者の強い意志が重要
・全ての現象を学習できるわけではない
・自社にあったシステムを構築する必要がある

それぞれ詳しくみていきましょう。

経営者の強い意志が重要

 製造業でAIを導入する場合、経営者の強い意志が大切です。 AIを活用する目的を明確にして、状況によっては外部の専門家からの助言を受けるのもよいでしょう。

 各業務で機械学習を用いたAIを活用する場合、経営側と現場側で認識の差が出てしまい、現場の従業員から不満が生じる可能性もあります。AIを活用する場合は、経営側と現場側の合意形成が不可欠です。

全ての現象を学習できるわけではない

 過去に発生した問題やトラブルなどは機械学習を活用できますが、これから起きるかもしれない問題やトラブルなどを機械学習することは難しいです。

 また、新しい現象が発生すると、機械学習で構築した従来の予測モデルでは対応できなくなる可能性もあるため、新しい現象が発生するたびに再学習が必要になることもあります。

自社にあったシステムを構築する必要がある

 AIを取り込むツールは数多く提供されていますが、製造業に特化したツールはあまりありません。

 ひと口に製造業といっても取り扱い製品や生産数は多岐に渡るため、他の企業で成功した事例をもとにAIを導入したとしても、うまく活用できない可能性は十分に考えられます。

まとめ

 今回は機械学習の基本的な情報のほか、製造業で活用可能な機械学習技術、製造業×機械学習の事例などについて紹介しました。

 機械学習を活用することによって、生産性向上や業務効率化などのさまざまな利点があるため、今回紹介した事例などを参考に、機械学習の活用の検討をしてみてはいかがでしょうか。

段階的にステップアップできる製造業向けのAI活用

AIなどの高度な技術を自社に導入したいと考えても、はじめの一方を踏み出すのは簡単ではありません。そこでNTT東日本では業務に新たな技術を取り入れる支援として「NTT東日本スマートイノベーションラボの活用」を提案しています。通信ビルを活用したエッジコンピューティング環境でAI/IoTを活用したビジネス検証、本番環境の構築を支援しています。


資料ダウンロード

連載記事一覧

メルマガ登録


NTT EAST DX SOLUTION


ミライeまち.com


「ビジネスの最適解」をお届けします 無料ダウンロード資料


イベント・セミナー情報

ページトップへ

ページ上部へ戻る