2023.01.30 (Mon)
ICTで製造業はどのように変わるのか(第35回)
製造業におけるコスト削減のポイントとは? 具体例や今後の動向を解説
製造業に携わる企業が利益の最大化を図るうえで、「コスト削減」は避けて通れません。しかし、コスト削減を進めたいと考えているものの、具体的に何をすればよいのか、何から着手すべきかわからないという企業は多いかもしれません。そこで本記事では、コスト削減において大切なポイントや注意点、具体例、今後の動向について解説します。
製造業のコスト削減とは
製造業を営むうえでは、原料の仕入れや設備機器のメンテナンス、人件費など、さまざまなコストが発生します。企業活動で発生する、こうしたさまざまな費用のなかから、無駄なものを削減するための取り組みが「コスト削減」です。
コスト削減の目的
製造業におけるコスト削減の目的は、利益の最大化です。たとえ優れた製品を数多く生産・販売しても、無駄なコストが多く発生すると、売上は伸びているにもかかわらず、利益が出ないという事態に陥りかねません。
このような事態を回避し、企業の手元に残る利益を増やすためにも、コスト削減の取り組みが必要です。
とはいえ、いたずらに経費を削減するのは危険です。本来は必要な経費をカットすることで製品のクオリティが下がったり、納期に遅延が発生する恐れが生じます。
製造業におけるコスト
製造業におけるコストは、「固定費」と「変動費」に分類できます。固定費は毎月、もしくは毎年発生する一定額の費用のことで、変動費は成果に応じて変化する費用のことです。
代表的な固定費としては、従業員への給与や賞与、手当といった人件費(労務費)が挙げられます。人件費が固定費に占める割合は大きいため、圧縮できれば大幅なコスト削減が実現できます。ただし、安易な人件費削減は従業員のモチベーションダウンや離職を招く恐れがあるため、簡単にはカットできません。
固定費としてはほかにも、福利厚生費や交通費、水道光熱費、通信費、広告宣伝費、研究開発費などが挙げられます。もし土地やオフィスを借りているのであれば、その賃料も固定費となります。
変動費は、製品の生産に必要な材料費や部品費、機械設備を稼動するための燃料費などが該当します。変動費は商品の製造数が多くなると増加し、少ないと少額となります。
減らしやすいコストと減らしづらいコストとは
コストのなかには、減らしやすいものと、減らしづらいものがあります。前者は水道光熱費や消耗品費、通信費など、後者は仕入れ費用や人件費、研究開発費などが該当します。コスト削減を考える際は、減らしやすいコストから手をつけるのが基本です。
減らしやすいコストとは
たとえば光熱費や消耗品費、通信費は、工夫次第で削減できます。
電気や水道などの光熱費は、プランを見直すだけでもコスト削減につながる可能性があります。また、従業員に節約を訴えるのもコスト削減に役立ちます。作業をしないときは手元の照明を消す、休憩に入る前に冷風機や暖房器具の電源を切る、水道の水を出しっぱなしにしない、といったことが徹底できれれば、コスト削減につながります。
消耗品も減らしやすいコストです。たとえば、ボールペンを無くさないよう紐をつけてバインダーに結ぶ、印刷した用紙の裏面も使うようにする、そもそも印刷せずにペーパーレス化するといった対策が考えられるでしょう。ペーパーレスを実現できれば、用紙やインクといった印刷コストも削減できます。
通信費も、光熱費同様にプランの見直しが有効です。従業員に貸与しているスマートフォンやタブレットが、法人用の割引プランで利用できる可能性もあります。
減らしづらいコストとは
減らしづらいコストとして、仕入れにかかる費用が挙げられます。
製造に要する原料や部品などの仕入れ費用を削減するには、協力会社との交渉が必要です。もちろん協力会社にも都合があるため、簡単に値引きに応じるわけはありません。もっと安く仕入れられる協力会社に乗り換える手もありますが、協力会社の選定には相応の時間が必要になります。
従業員への給料や手当、賞与といった人件費も、削減は難しいです。人件費は固定費のなかでも大きなウエイトを占めますが、カットすることで従業員のエンゲージメントやモチベーションの低下を招き、最悪の場合、従業員が離職し、ビジネスが円滑に進まなくなる恐れがあります。
研究開発費のカットも避けるべきでしょう。新たな製品の開発や研究は、企業の継続的な発展と成長に欠かせません。研究開発費をカットしたことで魅力的な製品を生み出せなくなり、企業価値の低下につながります。
まとめると、コスト削減は、減らしづらいコストのカットはなるべく避け、減らしやすいコストから進めていくのが良いといえるでしょう。
製造業でできるコスト削減の具体例
製造業は、特にコストが減らしづらいポイントが存在します。
そのひとつが、空調に使用しているフィルターのクリーニングです。空調のフィルターが汚れて目詰まりしてしまうと、稼動効率が低下し、余計な電気代が発生します。特に微細な粉塵が舞う工場の場合、フィルターの目詰まりが発生する頻度が上がります。
環境省が公表しているデータによると、2週間に一度の頻度でフィルターのクリーニングを実施すれば、冷房時の消費電力を約4%削減できるとのことです。暖房時にいたっては、約6%の削減が可能です。フィルターのクリーニングを行なうことで、高い節電効果が期待できます。
照明をLEDに変えるのも、コスト削減に有効です。環境省の資料では、白熱電球をLEDに変えるだけで消費電力を約85%抑えられるとしています。LEDは白熱電球と比べて寿命も長いため、頻繁に交換する手間も省けます。
製造業では、IoTやAIといった技術を導入することも、長い目で見ればコスト削減が期待できます。たとえば工場内の製造機械にIoTやAIを導入することで、機械の故障発生を予知し、未然に防ぐことが可能になります。製造機械が故障し、操業が停止すれば、そもそも売上は見込めません。IoTやAIが機械の安定稼動を見守ることで、修理のコストも発生せず、安定した工場運営が可能になります。
コスト削減のためにすべきこと
コスト削減を進めるためのポイントとしては、「(1)コストの分析を行い、優先順位を決めて全体に共有する」「(2)ムダを解消することで作業効率を向上する」の2点が挙げられます。
(1)コストの分析を行い、優先順位を決めて全体に共有する
そもそも、現状でどのようなコストが発生しているのかを把握できていなければ、削減の取り組みも進められません。発生しているコストの抽出と分析を行い、無駄なものから削減を進めていくことが重要です。
そのためには、原価計算を正確に行うことが必要です。仕入れに要した費用や人件費、製造にかかる経費を正確に計算することで、まずはどこから手をつければ良いのかがわかります。
効果的にコスト削減を実現できるよう、組織一丸となって取り組むことも求められます。経営層がコスト削減に熱心であっても、目的や意図、情熱などが現場の従業員に届いていなければ、コスト削減の取り組みは進みません。何のために取り組みをするのか、コスト削減を行なうことで現場にどのようなメリットがあるのかを組織のリーダーが発信し、コスト削減に関する研修を実施するなど、組織全体で共通の認識をもってコスト削減に取り組む必要があります。
(2)無駄を解消することで作業効率を向上する
作業効率を向上する取り組みもコストダウンに有効です。というのも、製造現場ではさまざまな無駄や無理が発生し、それらが作業効率の低下につながり、生産性の低下につながる恐れがあります。
無理や無駄が存在することは、作業効率の低下を生むだけでなく、従業員のケガにつながるリスクも孕んでいます。改善に取り組むことで作業効率がアップできるうえ、従業員が安全に働ける環境を構築できます。
作業効率を向上するには、従業員が意識的に無理や無駄に目を向ける必要があります。従業員が現場で発見した無理や無駄を上司に報告し、積極的に改善へ取り組むことで、作業効率の向上、生産性の向上につながり、結果的にコストの削減にもつながるでしょう。
製造業におけるコスト削減の今後の動向
少子高齢化に伴う労働人口の減少は続いており、今後は多くの企業が人手不足に陥るおそれがあります。製造業において人材はもっとも重要なリソースであり、人材確保が難しくなれば、大幅な利益の低下にもつながりかねません。
このような状況に陥らないためにも、製造業は積極的にコスト削減へ取り組む必要があります。コスト削減に取り組むことで業務効率が向上し、生産性も高まり、職場環境が整うことで人材を採用しやすくなります。
まとめ
いくら売上が伸長したところで、無駄なコストが発生すると、そのぶん利益は減少します。利益の最大化を図るため、積極的なコスト削減への取り組みが必要です。
製造業でコストを削減するのであれば、工場のスマートファクトリー化もひとつの手段となります。生産性の向上につながるほか、人手不足への対策にも効果的です。この機会に検討してみてはいかがでしょうか。
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