2022.03.04 (Fri)

ICTで製造業はどのように変わるのか(第8回)

2021年6月より義務化! 食品事業者が知っておくべきHACCPの基本と事例を紹介

 HACCP(ハサップ)とは、食品の安全を見直すために、異物混入や食中毒菌汚染などの危害要因を把握し、除去・低減に必要な工程を設定・管理する手法のことです。食品衛生法の改正に伴い、2021年6月よりHACCPに沿った衛生管理を行うことが制度化されたことで、食品業界の衛生基準に大きな変革が訪れました。ここではHACCPの基本情報や事例などを紹介します。

HACCPとは

 HACCPは「Hazard Analysis(危害要因分析)」、「Critical Control Point(重要管理点)」の言葉の頭文字からとったもので、日本語では「危害要因分析重要管理点」ともいいます。

 もともとHACCPは、アメリカの宇宙開発計画であるアポロ計画において、宇宙食の安全性を確保するために誕生したもの。オーストラリアとカナダでは1992年、アメリカでは1997年、EUでは2006年導入された国際的な衛生管理手法です。

 日本では2018年6月に「食品衛生法」の改正法案が可決されて、2021年6月からはHACCPに沿った衛生管理を行うことが制度化されました。

HACCPの2つの基準とは

 HACCPには、「HACCPに基づく衛生管理」「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の2種類の衛生管理の基準があります。

HACCPに基づく衛生管理

 規模の大きな事業者のほか、と畜場(と畜場設置者、と畜場管理者、と畜業者)、食鳥処理場(食鳥処理業者 ※認定小規模食鳥処理業者を除く)など厳格な食品衛生管理が求められる事業者を対象に適応される衛生管理の基準です。以前は基準Aと呼ばれていましたが、食品衛生法の改正により、現在は「HACCPに基づく衛生管理」に名称が変わりました。

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理

 食品などの取り扱いに従事する人数が50人未満の、小規模な製造・加工などの事業者や、製造・加工した食品の全部または大部分を併設された店舗において小売販売する営業者(菓子の製造販売、豆腐の製造販売、食肉の販売、魚介類の販売など)、飲食店など食品の調理を行う営業者(飲食店営業のほか、喫茶店営業、給食施設、そうざい製造業、消費期限が概ね5日程度のパン製造業、調理機能を有する自動販売機など)、容器包装に入れられた食品または包まれた食品のみを貯蔵、運搬または販売する営業者、食品を分割して容器包装に入れまたは包んで小売販売する営業者、食品を分割して容器包装に入れまたは包んで小売販売する営業者(青果店、コーヒーの量り売りなど)を対象に適応される衛生管理の基準です。以前は基準Bと呼ばれていましたが、食品衛生法の改正により、現在は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に名称が変わりました。

 事業者側の負担が大きい「HACCPに基づく衛生管理」(基準A)に対し、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」(基準B)は簡略化されたものとなっています。

従来の衛生検査とHACCPの違い

 これまでの検査は、最終製品の抜き取り検査が主流でした。一方、HACCPは製品の安全性を確保するために、原材料の仕入れから加工・出荷までの各工程で、異物の混入や微生物などによる汚染などの危害を予測し、危害の防止につながる特に重要な工程を連続的・継続的に監視して記録する衛生管理手法となっています。従来の最終製品の抜き取り検査と比較して、問題のある製品の出荷防止が可能となりました。

HACCP事例

 刺身用のつまを製造するS社は、取引先よりHACCPの導入を依頼され、検討を開始。工場の移転・新設を機に導入しました。異物の混入を重要管理点に設定し、金属探知機でモニタリングすることにしました。午前・午後の作業開始前にテストピースを入れたサンプルで動作確認をしてから作業を行うほか、異常が検知された製品は再チェックすることをルール化。また移転・新設に合わせて、工場を密閉構造にしました。結果、苦情が減ったほか、社内全体にHACCPや衛生管理についての意識が高まりました。

 またドレッシング製造業を営むM社は、工場の老朽化に伴い新築を検討。その際、HACCPへの対応に取り組みました。金属探知機による金属異物のチェックや温度記録のほか、洗浄区域と非洗浄区域を分ける「ゾーニング」を実施。清掃道具や靴も色分けするなどの徹底ぶりです。従業員も最初はゾーニングに戸惑ったものの、衛生的に生産できる工場になりました。また、従業員の衛生管理意識も向上しました。

HACCPの課題と解決策

 HACCPを導入してもうまくいかない理由として、以下の2つが挙げられます。

HACCPに関する知識不足

 HACCPを採用する際は、従業員全体がHACCPについての理解を深める必要があります。HACCPに関する社内セミナーを開催したり、外部セミナーに参加してもらったりすることで、理解力の向上が期待できます。

従業員の負担増加

 HACCPでは衛生管理の実施状況を記録し、保存することが必須となります。正しく記録することで、何らかの不備が発生した際に原因究明が行えるためです。このような業務は従業員の負担増加にもつながるので、自動温度管理・記録システムといったような自動化のための仕組みを設け、従業員の負担軽減を図りましょう。

最後に

 HACCPにきちんと対応することで食品の安全性が高まり、食品加工に関わる企業やレストランなどの信頼度向上も期待できます。HACCPは国際的な衛生管理方法なので、海外進出を狙っている食品会社にとっても、義務化は有利に働くことでしょう。

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