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2023.01.30 (Mon)

ICTで製造業はどのように変わるのか(第17回)

製造業のヒヤリハット事例5選 報告書の書き方や対策の進め方

 「ヒヤリハット」とは、あやうく大事故や大災害につながりそうになったものの、幸いそこまで至らずに済んだことを指す言葉です。本記事では、ものづくり工場におけるヒヤリハットにはどのような事例があるのかを具体的に紹介します。さらに、ヒヤリハットを防ぐための重要な取り組みとして、ヒヤリハット報告書作成の方法や、書く際に気を付けたいポイントについても解説します。ものづくりの現場で生産性を向上させ、競争力を高めるためにも、ぜひ参考にしてみてください。

ヒヤリハットの前知識

 「ヒヤリハット」という言葉を耳にしたことがあっても、どのような意味があるのかまでは正確に把握していない方も多いのではないでしょうか。まず、一般的に使われている定義について解説します。

ヒヤリハットとは

 厚生労働省管轄の兵庫労働局によると、そもそも「ヒヤリハット」とは以下のように定義されています。

「危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象のこと」

 一歩間違えれば大変な事態になっていたことで「ヒヤリ」としたり、目前に迫る事故やトラブルに「ハッと」したりすることから、「ヒヤリハット」という言葉が生まれました。こうした危険と隣り合わせの事態は、どの業界の企業であっても常に起きうることです。経営上のリスクとなる大きなトラブルや事故、災害を防ぐためには、「ヒヤリハット」自体が起きないように、できる限り対策を施していく必要があります。

ハインリッヒの法則とは

 ヒヤリハットと同じ話題で取り上げられることの多い言葉に、「ハインリッヒの法則」があります。ハーバード・ウィリアム・ハインリッヒは、アメリカの損害保険会社に勤める中で、計5,000件以上にもわたる労働災害の事故情報を調査し、以下のような法則を見出しました。

 「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。」

 事業における大きな事故や災害は、突然前触れもなく起きるわけではなく、危険を誘発した何らかの要因が多く潜んでいます。つまり、ヒヤリハットをどれだけ早期かつ的確に見つけ出せるかどうかで、大きな事故を予測し回避できるかが決まると言えます。

 こうした考え方は「ハインリッヒの法則」あるいは「1:29:300の法則」とも呼ばれ、今や世界中のさまざまな企業において、災害や事故を予防する安全管理の指針として、重視されています。

ヒヤリハットが発生する主な原因

 ひとたび大事故が起きると、企業経営にも多大なダメージを受けることになります。そうした危険な事態になる可能性を少しでも軽減するためには、日常の業務の中でヒヤリハットがどのような原因で起きやすいのかを知り、発生を抑えられるように適切な対策を講じることが重要です。

 よくある人的要因としては、「疲労」が挙げられます。寝不足や体調不良、長時間労働などで体の調子が万全でなければ、なかなか思ったように動けず、事故につながりやすくなるでしょう。特に、業務に就いて間もないころは知識やスキルが不足していて、危険回避にも慣れていないため、ヒヤリハットが起きやすくなります。長年の経験を積んだベテランであっても、慣れから注意力が緩慢になったり、集中が途切れてしまったりすれば、ミスが起きやすくなるでしょう。

 外部の環境面でよくある要因としては、設備の点検不足などが挙げられます。「いつものことだから」と適当に点検やチェックを済ませていると、重大な事故に発展するリスクも否めません。

 このように、ヒヤリハットを防ぐには、さまざまな要因を的確に取り除くことが必要です。

製造業のヒヤリハット事例と対策

 では、製造業におけるヒヤリハットのよくある事例と、それらを防ぐために必要な対策について解説します。

はさまれ・巻き込まれ

 製造業の現場では、さまざまな設備や機械を使用する場面に、ケガにつながりかねないヒヤリハットが多く潜んでいます。たとえば、製造工程の途中で、製品が詰まって機械が自動停止したことを想定してみましょう。機械の停止ボタンを押さずにそのまま手を差し込み、詰まった製品を取り出そうとすることは危険な行為です。突然動き出した機械に、もう少しで手を巻き込まれそうになったといったことも、ヒヤリハットのよくある一例です。

 この場合、理由は何であれ、「機械に手を入れるときには停止ボタンで確実に止めなければならない」ことの認識が甘いと言わざるを得ません。先に機械の停止ボタンを押し、機械が動き出さないことを確認した上で、詰まった製品を取り出せば、手が巻き込まれそうになって冷や汗をかくことはないでしょう。

転倒

 工場内において、二人がかりで重い鉄板を運搬中、足がもつれて転倒しそうになったという事例もよくありがちです。鉄板はサイズが大きく重量も相当あるため、慎重に運んでいても足下が見えにくくなります。自分のことだけで必死になり、後ろ向きで運んでいる作業員に対して、目配りや声かけが不足することもあるでしょう。もし足がもつれて転倒し、手に持っていた鉄板が落下して体に接触すれば、大変危険であることは言うまでもありません。足下が見えないほど大きなものを運搬する際には、複数の作業員が互いに注意して声を掛け合うこと、あるいは手で運ぶのではなく、台車などを使うことなどが、ヒヤリハット対策として有効です。

墜落・転落

 ヒヤリハットの中でも、墜落や転落は命に関わることも多いと考えられます。製造業では穀物や肥料、土砂など粒状の製品原料を運搬するためにフレキシブルコンテナバッグ(袋状の梱包(こんぽう)包材、フレコンバッグとも呼ばれる)がよく使われています。トラックからフレコンバッグを荷下ろしする際に、揺り返しが起きて体に当たり、乗っていた荷台から転落しそうになる、といったこともよくある事例です。

 この場合、クレーンを操作する作業員が、荷台に乗って作業している人の立ち位置を把握できていないことが原因として考えられるでしょう。クレーンで吊り上げる際は、クレーンの延長線上でフレコンバッグをフックに掛けてワイヤーを真っすぐにするなどの対策も併せて行えば、転落事故の可能性を少しでも下げられるはずです。

切れ・こすれ

 木材を加工する工場で電動丸のこを使うときも、ヒヤリハットが起きやすくなるシーンのひとつです。本来、補助の木片を使って木材を押すべきところを、うっかり手で木材を押してしまうことで、手や指を丸のこで切断しそうになることが考えられます。作業員の体調が思わしくなく、身体的に疲労していたり、集中力に欠いていると、わずかな油断によって大事故が発生しかねません。体に危険な影響を及ぼしうる機械や設備を扱う際には、体調管理を万全にすることや、チェックを怠らずに確認を重ね、ミスが起きないように細心の注意を払うことなどが求められます。

崩壊・倒壊

 製造業の倉庫では、多くの荷物が高く積み上げ保管されてます。フレコンバッグを積み重ねる場合、多くの工場では倒れないように倉庫の壁面に向かって傾斜を付けて配置(はい付け)するルールを設けています。しかし、ルールが守られなかったり、非常に高い位置まで積み重ねていたりすることで、突然倒壊するリスクは高まります。倒壊する危険を予見し、どのように積めば倒壊リスクが回避できるのかを作業手順書としてマニュアル化し、作業員に徹底させることがひとつの方法として考えられるでしょう。組織内でリスクアセスメントを行うことも一案です。配置する高さを当初から制限していくことでも、リスクを減らせるようになります。

製造業におけるヒヤリハット活動のポイント

 

 製造業において、万一ヒヤリハットと考えられる事態が起きた際、どのような活動をすべきでしょうか。大きな事故に発展することを防ぐポイントについて、3点紹介します。

速やかに「ヒヤリハット報告書」を作成する

 ヒヤリハット自体が起きないように対策をとっていたとしても、万一起きてしまった場合には、見逃すことなく、早急に報告書を作成することが大切です。客観的な視点で、いわゆる5W1H(誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どうした)を意識し、誰が読んでもわかりやすく作ることがポイントです。報告書の作成に法的な義務はないものの、原因を明確化し、同じヒヤリハットを二度と起こさないようにするための重要な役割を担っています。ヒヤリハットを経験した作業員みずからの記憶が曖昧にならないうちに、早めに着手して完成させておくと、正確かつスピーディーに周囲へ共有でき、今後の改善につなげられるでしょう。報告書作成をより効率化させるためには、あらかじめフォーマットを用意しておくのも一案です。

明確な原因を見つける

 ヒヤリハット報告書は、作成すれば終わりではありません。本来の目的は、ヒヤリハットを減らし、最終的に品質や生産性を上げることにあるからです。そのため、発生した当時の状況について、より深掘りすることが肝心です。まず、ヒヤリハットの事実についてあくまで客観的に把握します。なぜヒヤリハットが起きてしまったのかをさまざまな角度から分析し、根本的な原因が何であったのかを解明します。人的な要因によるもの、外部環境の要因によるもの、あるいは、さまざまな要因が複合的に絡み合っていることも十分ありえます。安易に要因を想定するだけではなく、「なぜ」を繰り返し、より深い真の原因について探ることで、より的確で効果的なヒヤリハット対策を打てるようになるでしょう。

社内で情報共有する

 ヒヤリハット報告書は、経験した作業員が作成して残しておくだけでは、組織として再び同じ事象が起きかねません。作成したヒヤリハット報告書は、社内のメンバーで共有できるような体制づくりが重要です。「放置していると、後々大きな事故やトラブルにつながる可能性がある」事例を交えながら注意喚起を促せれば、ヒヤリハット自体の件数も減っていくと期待できるはずです。報告書を社内で共有する際に備えて、できるだけ専門用語は避け、客観的なデータも組み込めれば説得力がより増し、ヒヤリハットの再発防止に役立つでしょう。

ヒヤリハット報告書の書き方

 ヒヤリハット報告書は、今後の再発防止に役立つツールとして非常に重要です。そこで、ヒヤリハット報告書にはどのような項目を盛り込むべきなのか、基本的な内容について解説します。詳細な項目は各企業の事業内容によって異なるものの、必要な項目内容を書き込めるようにフォーマットを用意しておけば、作業員には枠組みに沿って記入してもらえるため負担が減り、業務効率性の向上が期待できるでしょう。

 ヒヤリハット報告書に必須となる項目としては、5W1Hをベースにイメージするのがおすすめです。作業者名(報告者名)や発生した日時、場所、発生した際に作業していた内容やそのときの状況を盛り込むことが必要です。さらに、すでに起きてしまったヒヤリハットを客観的に振り返り、考えられる原因や、検討した改善策などが具体的に書かれていると、今後の再発防止につながりやすくなります。

 報告書の作成時に気を付けたい基本的なポイントとして、以下の3つが挙げられます。

 最初に、必要な事柄を可能な限り箇条書きすることです。読むのに時間がかからないよう、シンプルかつ簡潔にまとめるようにします。

 ふたつめは、誰が読んでも理解しやすいよう、難解な言い回しを避けることです。つい使ってしまいがちな業界用語なども気を付けるようにしましょう。

 最後は、客観的な視点でヒヤリハットの事象を捉えることです。納得性が増すことで関連部署の協力をより仰ぎやすくなり、改善に向けたスムーズなアプローチが期待できます。

 大きな事故や災害の前にはヒヤリハットが潜んでいる場合も多くあります。万一起きてしまった場合には見逃すことなく、速やかに適切な報告書を作成することが大切です。

まとめ

 ヒヤリハットは、大きな事故や災害に至りそうになった重大な事象を示します。製造業の現場においても、慣れや疲労、点検不足などさまざまな要因から誘発され、新人、ベテランにかかわらず起きる可能性があります。ヒヤリハットをいかに防ぐかが重要であるものの、起きてしまった場合には、速やかに報告書を作成し、真の要因を深掘りし、再発防止に向けて共有すれば、生産性向上にも役立つでしょう。

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