2023.01.30 (Mon)
ICTで製造業はどのように変わるのか(第31回)
生産管理とは? 目的や内容からシステムの選び方までわかりやすく解説
製造業において、欠かせない業務のひとつが「生産管理」です。生産管理は、製品の品質を確保したり、顧客満足度を向上させたりする上で重要な役割を担っています。
この記事では、生産管理の業務内容に触れながら、生産管理のポイントや業務効率化に適した生産管理システムの選び方を紹介します。生産管理についてより理解を深めたい方はぜひ参考にしてください。
生産管理とは
製造業における生産管理とは、生産の計画や工程、業務などの全体図を把握しコントロールすることです。「工程管理」と似たような意味で使われることもありますが、両者は異なります。工程管理はひとつの工程を隅々まで把握し、その中の細かい領域を管理するのに対し、生産管理は受注から納品までを俯瞰し、全体を管理します。
生産管理は、品質を確保しつつ、計画通りに製品を製造できるよう円滑に業務を進める役割があります。自社と取引先をつなぐ調整役としての役割も求められるため、工場などで行われる生産工程だけでなく、部門間の連携や取引先とのやり取りなど、納品までの全ての工程を理解する必要があります。
生産管理の目的
生産管理の目的はQCDを最適化することです。QCDとは、品質(Quality)、原価(Cost)、納期(Delivery)の3つの要素を指します。
QCDが最適化されている企業は、品質のよい製品を、コストを抑えつつ最短納期で販売できます。品質にばらつきがあったり、納期が遅れたりする企業は、数ある製造業の会社中から取引先として選ばれにくくなります。生産管理を徹底することは、自社にとってコスト削減や業務効率化などのメリットがあるだけでなく、顧客満足度や市場における競争力を高める効果も期待できます。
生産管理の内容
生産管理の具体的な内容について、以下で7つの業務を解説します。
需要予測
需要予測とは、さまざまなデータを元に市場での自社製品の需要を予測し、適切な生産量を判断することです。受注生産ではない企業の場合、需要を超える量を製造してしまうと、無駄な在庫を抱えるリスクがあります。一方、製造量が少なすぎると欠品が続き、企業の信頼を損ねる結果になりかねません。過剰在庫や機会損失のリスクを最小限に抑えるためにも、季節や社会情勢、トレンドの移り変わりなどに応じて需要を見極めることが大切です。
需要予測の際に参考にするデータは、過去の販売実績や競合他社の状況、景気情報、季節的要因などが挙げられます。精度の高い予測を立てるためにも、日頃から調査を行い必要なデータを収集しておくことが大切です。
生産計画
生産計画とは、製品の量や生産期間などの計画を決めることです。生産管理を進めていく上で重要な指標となり、需要予測で得られた知見を踏まえながら「いつまでに、何を、どれくらい製造するのか」といった具体的な数値やスケジュールを決めていきます。生産ラインの現場配置や必要な人材など、現場のリソースも考慮しながら実現可能な計画を立てることが大切です。最初に1カ月あたりの大まかな計画を立て、1週間あたり、1日あたりと徐々に細かい計画を立てていくと、計画精度が向上するでしょう。
調達・購買計画
調達・購買計画とは、生産計画通りに製品を製造できるように、「いつ、何を、どこから、どれくらい仕入れるか」を決めることです。調達を過不足なく行うのはもちろんのこと、なるべくコストを抑えられるように、過去の仕入れデータや現在の価格状況などを参照しながら適切な仕入れ先を見極めることが大切です。
計画段階では、「求める量を安定的に確保できるか」「品質は良いか」「スケジュール通りに納品されるか」などを見極めた上で、仕入れ先を複数社ピックアップしておくとよいでしょう。状況によっては価格が変わったり、在庫切れで必要な数量が仕入れられなかったりするリスクがあるからです。
工程管理
工程管理とは、作成した計画通りに製品を製造できるように、それぞれの工程をコントロールすることです。ミスが少なく効率的に業務が行えるように、細やかな指示書や図面などを作成し、実際にその通りに業務が進んでいるかを管理します。それぞれの工程を最適化することはもちろんのこと、リードタイムの設定や進捗管理などを行い、生産全体の効率化を意識することも大切です。
原価管理
原価管理とは、あらかじめ算出・設定した原価と、実際にかかった原価を比較し、分析することです。仕入れにかかった材料費だけでなく、労務費や経費などの製造にかかった全てのコストが対象となります。それらの費用を全て計算し原価を割り出すことで、利益改善の対策を立てることにつながります。
品質管理
品質管理とは、適切な手順で製品が製造されたのかを確認しつつ、完成品の品質を検査することです。「正しい材料が使われているか・材料に不備はないか」「手順は適正か」「完成品が想定していた品質に達しているか」などの確認を行い、万が一、不良品が発生した場合は原因を究明します。
出荷後にクレームや問い合わせがあった場合も、それらの原因を調査します。製造日や使用した機器、作業していた従業員などさまざまなデータを確認し、状況によっては製造のストップや同一ロットの回収などを検討する場合もあります。
在庫管理
在庫管理とは、いつでもすぐに適正な数を出荷できるように、在庫数をコントロールすることです。在庫が多すぎると、廃棄ロスや売れ残りにつながり、せっかく製造したコストや労力が無駄になってしまいます。一方で在庫が少なすぎると、何らかの理由で需要が急に高まった場合、販売機会を逃してしまいます。在庫は多すぎても少なすぎてもならないため、常に在庫数を把握し、生産量を調節することが大切です。
生産管理のポイント
生産管理はさまざまな項目があるため、多くの製品を製造する場合や、多くの部門と連携が必要な場合などはミスが発生しやすくなります。ここでは、生産管理の水準を高めるためのポイントを6つ紹介します。
生産方式を考慮する
生産方式は、ライン生産方式やセル生産方式など複数あります。ライン生産方式とは、直線型のベルトコンベアに製品を流し、定位置に着いた従業員がそれらの組み立てなどを行う生産方式です。セル生産方式とは、U字やL字型に生産ラインを設置し、少人数のチームで業務を行う生産方式です。ライン生産方式は低価格で大量の製品を製造するのに適しており、セル生産はさまざまな種類の製品を少量製造するのに適しています。
生産方式によって、適切な製造量やコスト、管理の方法は異なります。も生産方式に適した計画を立てることが大切です。
予期せぬ事態を想定する
たとえ精度の高い生産計画を立てたとしても、100%計画通りに業務が進むとは限りません。従業員の欠勤や作業ミス、仕入れの納期遅延などが発生し、計画が大幅にずれ込む可能性も十分に考えられます。期日に余裕を持って材料を仕入れたり、人材を確保したりと、予期せぬ事態が起こることを想定しておくと良いでしょう。万が一、トラブルが起きた場合は、現場の状況を把握した上でそれぞれの部門と連携を取り、スケジュール調整や取引先の対応などを行います。
トレーサビリティを確保する
製造業におけるトレーサビリティとは、材料の調達から完成までの工程で携わった製造者や仕入れ先、販売元などを記録し、履歴を追跡できる状態にしておくことです。万が一、不良品などのトラブルが発生した場合は、原因を究明するためにトレーサビリティの確保が欠かせません。特に、工程によって複数の工場などを移動する場合は「いつ、どこで、誰が」製造に関わったのかを把握しづらくなります。適切なツールなどを導入し、製品を製造する過程を追跡できる状態にしておきましょう。
部門間で連携する
生産計画がずれ込んだり作業ミスが起こったりとトラブルが発生した場合、それぞれの部門と連携を取ってリカバリーしなければなりません。部門が違うと従業員同士が顔を合わせたり、会話をしたりする機会があまりないため、コミュニケーションを取りづらい人もいるでしょう。しかし、影響を最小限に抑えるためには迅速な対応が求められるため、あらかじめ部門を超えたコミュニケーションが円滑になる体制を構築しておく必要があります。
ヒューマンエラーを回避する
生産管理でよく見られるのは、データ入力発注における入力間違いです。何回も数値をチェックしたり、複数人が確認する体制をつくったりとトラブル防止に努めていたとしても、人為的なミスを完全に防ぐのは難しいでしょう。製造業では小さな入力ミスが顧客満足度や製品の品質に影響を及ぼす可能性もあるため、手入力そのものをなるべく減らす対策が必要です。
対策の例として、ICタグやバーコードを利用した製品管理、入力作業を代替できるAIソリューションの導入などが挙げられます。これらは業務効率を向上したり、必要なデータを蓄積したりするメリットもあります。
生産管理システムを導入する
生産管理はさまざまな工程や部門を包括的に把握しなければならず、担当者の負担が大きくなりがちです。より効率的に精度の高い生産管理を行うために、専用のシステムを導入する方法もあります。
生産管理システムの中には、受注から納品までに必要なデータを一元的に管理できる機能や、必要な情報をスムーズに共有できる機能、工程管理や在庫管理、需要予測に必要なデータ分析機能などを備えたものもあります。担当者の負担を軽減するだけでなく、現場の状況や製品の状態などがひと目で把握しやすくなるメリットも期待できます。
生産管理システムの選び方
生産管理システムはメーカーによってさまざまな機能があるため、自社に合ったサービスを選ぶのは簡単ではありません。ここでは、最適なシステムを選ぶときのポイントを3つ紹介します。
適性で選ぶ
生産管理システムは、業種や業態によって適切な機能が異なります。自社に合っていないシステムを選んでしまうと、かえって業務が複雑になったり、足りない機能を補うためにほかのツールに頼る必要があったりと、不具合が生じてしまいます。同じ業種・業態の他社の導入事例を参考にしながら、自社に必要な機能を見極めるとよいでしょう。
必要な機能を備えたシステムを複数選定したら、自社の生産方式やシステムの導入目的、解決したい課題などを考慮し、より自社にふさわしいものを検討します。特に「見込み生産・受注生産」「多品種少量生産・少品種大量生産」など、自社の生産タイプに合ったものを選択することが大切です。
サポート体制で選ぶ
導入後のサポート体制が整っているシステムなら、万が一トラブルが発生した時や、使い方がわからない時なども安心して使用できます。納期が差し迫っている時などに不具合が生じると、顧客に迷惑をかける可能性があるため、サポートの有無や内容は重要です。自社に合ったシステムを選ぶことはもちろんですが、複数のシステムで迷っている時などは、導入後のサポート体制にも注目するとよいでしょう。
導入形態で選ぶ
生産管理システムの導入形態は、主に「オンプレミス型」「クラウド型」の2種類があります。オンプレミス型とは、社内に管理サーバーを設置する導入形態のことです。機能を自由にカスタマイズしやすい一方で、社外でシステムを利用できない、初期コストの負担が大きいという特徴があります。
「クラウド型」はインターネットを通じて共通システムを利用する導入形態のことです。ネット環境がある場所であればどこでもシステムにアクセスできるため、現場の状況をリアルタイムで共有可能です。初期コストが少なく済み、スピーディーに導入できる点もメリットでしょう。一方、カスタマイズ性はオンプレミス型より低くなります。
導入形態によってカスタマイズ性やコスト面、そのほかの特徴などが変わってくるため、自社の状況に応じて適切なものを選択することが大切です。
まとめ
製造業の生産管理とは、受注から納品までの工程を俯瞰し、それらを最適化するためにコントロールすることです。需要予測や生産計画、調達・購買計画、工程管理などさまざまな内容を含むため、製品を納品するまでの全ての工程を理解する必要があります。企業によっては担当者の負担が大きくなりやすく効率的にこなすのが難しい業務でもあるため、自社の状況に合った適切なシステムを導入することが重要です。
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