工場の生産性を向上させる手段のひとつが省人化です。作業工程における人員の削減に取り組むことでさまざまなメリットを得られる一方、注意点もあります。省人化を進める際は、正しい手順や方法で取り組まなくてはなりません。本記事は、工場が省人化に取り組むことで得られるメリットや注意点のほか、実現するための具体的な方法などについて解説します。
工場の省人化とは何か?
工場の生産性を高めるには、省人化への取り組みが欠かせません。新たなテクノロジーや機械を採用して省人化に取り組むことで生産性の向上が期待でき、さらに人手不足の解消にもつながります。ここでは、省人化の基本や省力化との違いを解説します。
省人化とは何か?
省人化とは、無駄な工程の排除や見直し、改善などを図ることにより従業員を少なくする取り組みのことです。「従業員が普段当たり前だと思って取り組んでいる作業が、見直してみると必要なかった」というケースは少なくありません。
機械を導入して作業効率を高める、ICTシステムを運用して業務を自動化する、といった取り組みも省人化に有効です。さらに業務の標準化に取り組むことも、省人化を行うポイントとなります。
省人化と省力化の違い
前述の通り、省人化は従業員を少なくするための取り組みです。一方、省力化は作業に従事している従業員の負担を軽減する取り組みを示します。双方の違いは、ひとつの作業工程から従業員を削減できるかどうかです。
省力化は、作業の無駄を排除し、進め方や手順の改善に取り組みます。機械やシステムの導入で効率化を図るのも、省力化の一例です。省力化は従業員の作業負担軽減につながりますが、人員を減らすとは限りません。
たとえば、効率化を図りAさんが担当する作業の9割を排除できたとしましょう。このケースでは、Aさんの作業負担は大幅に軽減されていますが、1割分の作業は残ったままです。Aさんの負担は軽くなりましたが、人員の削減にはつながっていないため、一定の人件費が発生し続けます。
一方、省人化は人員を確実に削減するための取り組みであるため、人件費の削減や生産性の向上につながります。ここが大きな違いです。
工場で省人化するメリットと注意点
工場が省人化に取り組むメリットとして、収益の向上や作業の標準化、品質の安定化、人手不足の解消などが挙げられます。一方、システムや機械の導入コストが発生する、システムの運用に必要な知識・スキルを有する人材が必要、といったデメリットがあることを覚えておきましょう。
省人化することのメリット
省人化に取り組むメリットのひとつとして、収益の向上が挙げられます。たとえば、ひとつのラインから人員を削減できれば、そのラインのコストを減らしたうえで人員をほかの作業に回せます。リソースを有効活用でき、収益の向上につながります。
省力化への取り組みにより、作業の標準化を実現できるのもメリットです。これまでの工程を見直すことで作業を標準化すれば、誰もが同じ手順、方法で仕事に取り組めます。作業のムラがなくなるため品質が安定し、不良品やクレームの発生を抑制する効果が期待できます。作業の標準化を進めるにあたりマニュアルを整備すれば、トラブル時の対応もスムーズに行えるでしょう。
人手不足の解消につながるのも、メリットのひとつです。少子化にともなう生産年齢人口の減少などを背景に、慢性的な人手不足に頭を悩ませている工場は少なくありません。省人化への取り組みを進めれば、少ない人員でこれまで通りの生産性を維持できます。
省人化する際の注意点
省人化を進める際の注意点として、コストの発生が挙げられます。さまざまな取り組み方がありますが、AIやロボットなどのテクノロジーを導入するケースが多く見受けられます。導入した場合は相応のコストが発生するため、注意が必要です。
優れたシステムを導入しても、適切に運用ができなければ成果は期待できません。適切な運用管理を行うには、システムに精通した人材が求められます。自社にそのような人材がいなければ新たに採用する必要があり、採用コストが発生します。
もちろん、自社で社内教育するのもひとつの手です。ただ、教育するにしても指導できる人材が必要となり、また担当となった従業員の負担も増加します。結果、従業員の不満が噴出したり、本来業務に支障をきたすおそれがあります。
省人化の一環でシステムの導入を任された担当者が、現場へのヒアリングなどを行わずに導入し、使い勝手が悪いと従業員から不満の声が出る可能性があります。省人化だけを考えるのではなく、従業員の作業効率も十分考慮したうえで必要なシステムを選定しましょう。
省人化を進める方法
省人化を進めるには、まず目的を明確にすることが不可欠です。その後、製造工程を細かく洗い出し、作業方法の標準化、作業工程の見直し、システムの導入などを進めます。
目的を明確にし、社内に共有する
まず最初に、省人化の目的を明確にします。省人化によって何を実現したいのか、どのような課題を解決したいのかが明確になっていないと、工程から人員を削減しただけで達成したかのように勘違いする可能性があります。
目的は明確化するだけでなく、組織内で共有することも大切です。目的の明確化と共有によって、取り組みの成果が現れているのか、どの程度の効果が出たのかを測定できます。
目標を数値化するのも大切なポイントです。目標が数値化されていないと、効果を正確に調べることができません。目標は数値で設定し、そのうえで継続的かつ定期的な効果測定を繰り返すことで、省人化の取り組みを効果的に進められます。
製造工程を細かく洗い出す
製造工程で発生する作業を細分化し、無駄が発生していないかチェックしましょう。普段当たり前のように取り組んでいる作業であっても、実際にチェックすると不要な作業であるかもしれません。必要のない作業に取り組むのは時間と手間の無駄なので、排除する方向で考えます。
さらに、各工程の負荷チェックも必要となります。負荷が大きいと従業員への負担が増加しているおそれがあり、生産性の低下を招きかねません。並行して自動化できる作業がないか確認するのもよいでしょう。従業員が行っていた作業を、機械やシステムで自動化できれば大幅な効率化につながります。
これらの観点で製造工程を細かく抽出し、可視化したら、その情報をもとにどう改善を進めたらよいのかを考えます。
作業方法や道具の使い方を標準化する
作業方法や道具の使い方などの標準化を進めることで、業務効率化や属人化の回避、作業品質の均一化などを図れます。作業員がそれぞれ思い思いに作業している状況では、どうしても生産スピードや品質にばらつきが生じます。特定の従業員に大きな負荷が生じる、といったことも起こりかねません。
標準化を進めるには、それぞれの作業における標準を定める必要があります。作業の流れや取り組み方なども統一し、担当する従業員に周知することも大切です。
標準化に有効な方法はマニュアルの作成です。作業の流れや取り組み方を分かりやすく解説したマニュアルを整備し、従業員に配布し標準化を進めましょう。
動画や静止画を用いたマニュアルの作成、共有が簡単にできるツールを活用してみるのもよいでしょう。なかにはステップ・バイ・ステップでわかりやすいマニュアルを作成できるものもあります。
こうしたマニュアルは、実際に活用しなければ意味がありません。マニュアルを活用した教育体制も整えましょう。
作業量を均等にし、作業工程を見直す
作業量が特定の従業員に偏っている状況は、業務の停滞やコストの高騰、業務のブラックボックス化などさまざまなリスクを招きます。省人化を進めるにあたっては作業量を均等にし、平準化を図らなくてはなりません。
平準化を進めるために大切なのは、業務の可視化です。作業量を均一にしたくても、そもそもそれぞれの従業員にどれくらいの負荷が発生しているかが分からなければ、対処のしようがありません。時間あたりにどれくらいの量を生産しているのか、特定の作業にどの程度の時間を費やしているのかなど、数値で可視化したうえで平準化を進めましょう。
併せて、作業工程の見直しも進めます。たとえば、ラインのレイアウトを変更するだけで、作業効率が向上する可能性があります。移動の距離が短くなるよう設備の配置を変える、生産に必要な素材の置き場所を変更するなど、わずかな工夫でも効率化が期待できます。
自動化できる部分へシステムを導入する
作業の自動化も、省人化に有効です。特定の作業を機械やシステムに代行させれば、それまで作業を担っていた従業員は別の仕事に取り組むことができます。自動化できる作業を洗い出し、システムの導入を検討しましょう。
近年では、IoTやAIなどのテクノロジーを導入する工場が増えてきました。たとえば、工場によってはAIを活かした外観検査を実施しています。AIが人の目に代わって外観を検査してくれるため、従来のように作業員が目視で検査する必要がなくなります。
IoTやAIなどを活かしたシステムを導入する場合は、費用対効果を考えましょう。高額なシステムを導入しても、期待する成果が得られるとは限りません。コストがかさむだけで得られる成果は小さい、といったことも考えられるため、注意が必要です。
システムを導入した際は、管理者やオペレーターなどへの教育にも注力しなくてはなりません。優れたシステムを導入しても、管理者が適切に運用できなければ成果は期待できません。パフォーマンスを最大限発揮するためにも、十分な教育体制を整えましょう。
省人化の取り組みにおける今後の動向について
工場の省人化に対する取り組みは、すでに大手自動車メーカーをはじめ多くの工場が力を入れており、今後は規模にかかわらず多くの工場が省人化に注力することになるでしょう。その理由として、多くの工場が頭を悩ませる労働力不足の解消につながることが挙げられます。
テクノロジーの進歩は著しく、今後、自動化できる作業範囲はさらに拡大していくでしょう。自動化できる範囲が広がれば、これまでよりも少ない人員で今までと同じ、もしくはそれ以上の成果が期待できます。
まとめ
省人化によって、収益向上や作業品質の均一化、人手不足の解消などさまざまなメリットが期待できます。一方で、コストが発生する、専門人材が必要といった注意点も覚えておきましょう。省人化を進める際には目的を明確にし、そのうえで作業工程の抽出や標準化、平準化などが求められます。
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