国内大手のコンタクトレンズメーカー・メニコンは、戦後間もない1951年に創始者である田中恭一氏(現会長)が独学による研究で、日本初の角膜コンタクトレンズの実用化に成功したことがきっかけで創立した企業です。社名の由来は、「目に、コンタクトレンズ」からきています。
コンタクトレンズの実用化に成功すると、1957年にメニコンの前身である日本コンタクトレンズを設立し、コンタクトレンズと用品を製造するメーカーとして成長してきました。
ところが1990年代後半に、新しく参入してきた外資系メーカーの使い捨てコンタクトレンズが台頭し、同社は経営危機に直面します。市場は外資勢が仕掛けた価格戦争で疲弊。同社もこれに引き込まれ、業績が下降しました。
この価格戦争という泥沼から「会員制システム」という施策によって、V字回復を果たしたのです。そして同社は2015年6月に東証1部と名証1部に上場を果たすまでになり、2017年決算では720億円の売り上げを計上しています。同社と日本のコンタクトレンズ市場が、この20年間でどのような変化を遂げてきたのかを紹介します。
外資の使い捨てと価格戦争により市場が激変
メニコンはコンタクトレンズの実用化以来、日本メーカーのパイオニアとして業績を伸ばしていましたが、1990年代後半、外資系メーカーの使い捨てソフトコンタクトレンズが日本市場に登場したことをきっかけに、状況が急変します。
使い捨てが登場する以前、同社の主製品はハードコンタクトレンズであり、使い捨てという発想がそもそもありませんでした。そして、コンタクトレンズは医療機器であり、取り扱いを適切に行うことで安全性が確保できると販売店と利用者へ訴えていました。
ジョンソン・エンド・ジョンソン、クーパービジョン、アルコン、ボシュロムなどの外資が使い捨てソフトレンズを登場させると、日本市場でのシェアを拡大するだけでなく、コンタクトレンズの取り扱いや安全性に関する販売店・利用者の意識も大きく変えてしまったのです。
当時の日本経済はデフレスパイラルにより、さまざまな商品で価格破壊が起きていました。コンタクトレンズ市場では、外資が使い捨てとともに価格破壊も仕掛けてきたのです。
ビジネスモデルを差別化した逆転の発想
外資系による使い捨てと価格破壊によって、販売店では量販店さながらの価格戦争となり、疲弊して倒産するところが増加します。まず価格破壊の余波として、販売店は大量に販売することに終始し、取り扱いの説明をないがしろにするようになり、消費者が目に障害を起こすケースが増加。これが大きな社会問題となります。
さらに販売店倒産の余波は、同社が売掛金を回収できないという事態を引き起こしていました。
このような販売店の現状と、自社の業績に頭を悩ませていた取締役の田中英成氏(現社長)は、代金の回収期間の短縮化についての会議中に、「キャッシュフローを逆にする」という逆転の発想を思い浮かんだそうです。
それが2001年からスタートさせた会員制システムでした。現在のシステムであるメルスプランは、毎月1,800円前後という月額定額制の料金を同社に支払うことで、販売店で商品を受け取れます。
従来のキャッシュフローは、顧客が販売店へ支払って商品を受け取り、そこから同社が代金を徴収する「顧客⇒販売店⇒メニコン」という流れでした。売掛金で商品を販売店に卸しているため、販売店が倒産すると同社は債権が回収できなくなるのです。
しかし、このメルスプランは「顧客⇒メニコン⇒販売店」という流れになります。同社が顧客と直接契約をして料金を受け取る、販売店は商品を契約者に渡すことで、同社から手数料が販売店に支払われます。このように従来のキャッシュの流れを逆にしたものでした。会員制システムによって、同社は販売店の債権回収から開放され、販売店は価格戦争から開放されて、ともに安定した収入を得られるようになります。
顧客の満足と安定した経営基盤を獲得
その後メルスプランは、「レンズが汚れてしまった、度数が変わってしまった、破損してしまった」など、日常利用時のトラブルが起きても、追加料金なしでレンズを交換できるといったサービス向上を行います。これらのサービスによって、さらに消費者から支持されるようになりました。
同社の2016年度決算によると、メルスプランは全売上である約720億円の約50%となる約358億円を占めています。会員数は近年も年平均で約7.5%増加しており、2017年3月時点では122万人となっています。退会者は年数%というレベルなので、顧客の満足が高いことも伺えます。同社はメルスプランの安定した収入により業績が回復し、冒頭の東証・名証1部上場を果たしました。
変えない信念と独創的な視点による経営
同社の現社長となった田中氏は、「世の中の常識は得てして間違っていることがあります。皆がそうだと言うことに対しては、一歩、距離を置きたい」と語っています。つまり、メルスプランを発想したときのように、自身の行動も一歩、距離をおいて、独創的な発想を模索する姿勢です。
一方で商品開発においては「コンタクトレンズのような医療機器は、医療機関と信頼関係を構築せずに参入すると、価格破壊を起こし、安全性が損なわれます。そういった戦略をとる外資企業もありますが、同じ土俵で戦うつもりはなく、技術を生かし、安全性を重視するスタンスは変えません」と話しています。
社長のコメントからも、同社が商品の安全性は守り抜く企業信念とし、一方でキャッシュフローなどのビジネスモデルの間違いを察知する人材を育てようとしていることがわかります。そのような信念と視点があったからこそ、価格競争という泥沼から脱するV字回復を成し遂げたのではないでしょうか。
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アニュアルレポート | コンタクトレンズのメニコン
株式会社メニコン 代表執行役社長 田中英成氏
経営者:編集長インタビュー 田中 英成 メニコン社長
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