長く低迷していたウィスキーですが、ハイボール人気もあり再び注目されています。なかでもニッカウヰスキーの売り上げが好調です。朝ドラ効果で注目された国内市場と、輸出量を大幅に伸ばしている海外市場。それぞれの背景とともに、ウィスキー固有の将来を見据えた戦略を取り上げます。
ニッカウヰスキー好調の秘密は「マッサン」効果!?
2014年9月からNHK朝の連続小説で、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴正孝をモデルにした「マッサン」が放映され、ウィスキーへの注目が高まりました。中でも「竹鶴」は大人気で、前年比300%を超えるほどの売れ行きだったとのこと(参考:AERA2014年11月10日号)。その他のブランドも好調で、ドラマ放映時は前年比150%アップの売り上げでした。
放映後もウィスキー人気は落ちることがなく、翌年はさらに売り上げが伸びたそうです。どうやらドラマによる一過性の人気ではなく、ドラマをきっかけにウィスキーを手にした人がコアユーザーに変わったようです。
海外は国内以上の盛り上がり
そのうえ、海外市場では国内以上に盛り上がっているとのこと。2006年のニッカウヰスキーの輸出量はわずか1,800箱でしたが、2013年は7万6,000箱の輸出と、42倍の伸び(参考:https://www.asahibeer.co.jp/news/2011/1222.html)。その後も輸出量を増やしています。なぜ、これほど飛躍することができたのでしょうか。
海外でヒットした要因
輸出量を大幅に伸ばすことができた背景には、国際的なウィスキーコンクールで高い評価を受けたことがありました。国際的な賞を受けた回数は「竹鶴」の19回をはじめ、この他のブランドも数多く受賞しており、海外でニッカウヰスキーが広く認知されるようになったのです(参考:http://www.nikka.com/products/wwa/2014/)。
ウィスキーファンへのアピール法
実はウィスキーは購入ターゲットが限られており、ビールのようにテレビCMなどで多くの人にアピールして販売する方法は効率が悪いとのこと。
ウィスキーファンへ効果的にアピールするには、展示会などを利用する方法がよいそうです。国内外でさまざまな展示会が開かれており、新しいウィスキーや美味しいウィスキーの情報を求めて、ファンが集まって来ます。高価な入場料の展示会もありますが、ファンにとっては新たなウィスキーとの大切な出会いの場となっているのです。
需要があっても全てを売ることはできない理由
しかしウィスキーは、売れるからといって全てを売り切ってしまうことはできません。ウィスキーは、作り始めてから出荷するまでに10年以上かかることもある商品です。時間をかけた熟成が必要で「竹鶴17年」なら発酵、蒸留、貯蔵に17年も時間をかけています。
今、ウィスキーを販売することができるのは、10年、20年前の社員が良い状態でウィスキーを残してくれたおかげと言えるでしょう。そのため常に倉庫には、将来のウィスキーのための原料を残しておく必要があり、今がウィスキーブームだからといって一掃してしまうわけにはいかないのです。
将来を見据えた販売戦略
ウィスキー事業に携わる人は、駅伝選手のようだといいます。できるだけ良い状態で次世代にたすきを繋げるように、将来を見据えた在庫管理が必要です。売れる時に大量に作って、どんどん販売する他の商品とは大きく異なる商品なのです。
とはいえ、販売地域の拡大や輸出量の増加も図っているとのこと。原酒の量を考えつつ、現在と将来の成長を考えた戦略を立てています。数年後には世界各地で日本のウィスキーが飲めるようになり、数十年後は味わったことのない素晴らしいウィスキーが誕生するかもしれません。
連載記事一覧
- 第1回 ニッカウヰスキーが国内外で好調の理由 2016.05.13 (Fri)
- 第2回 経験者ゼロ、データで作る農業が成功したNKアグリ 2016.05.26 (Thu)
- 第4回 100箱大人買いも!UAEで大人気のヨックモック 2016.06.24 (Fri)
- 第5回 カップ麺の常識を変えるエースコック 2016.07.20 (Wed)
- 第7回 売上の9割がリピート客!再春館製薬所の独特な戦略 2016.08.24 (Wed)
- 第8回 フマキラーの海外進出を成功に導いた“地道な活動” 2016.08.30 (Tue)
- 第9回 無印良品 どん底からの復活 2016.09.05 (Mon)
- 第10回 セ・リーグ優勝!広島カープに見る“経営戦略” 2016.09.13 (Tue)
- 第11回 “昔ながらの喫茶店”コメダ珈琲が人気の理由 2016.09.20 (Tue)
- 第12回 倒産にBSE問題、度重なる逆境を糧に成長した吉野家 2016.10.04 (Tue)
- 第13回 「ウイダーinゼリー」不測の事態を挽回した決断力 2016.10.21 (Fri)
- 第14回 セブン銀行が「当たり前」の存在になった背景 2016.11.07 (Mon)
- 第15回 JALをV字回復させた稲盛和夫の「意識改革」 2016.11.21 (Mon)
- 第16回 40年ぶりに増収した北海道の「奇跡の黄色いバス」 2016.12.20 (Tue)
- 第17回 オリオンビールのブランド戦略の裏にあるもの 2016.12.21 (Wed)
- 第18回 「低スペック」は武器になる、弱小温泉の非常識改革 2017.01.20 (Fri)
- 第19回 「雪印」ブランド、その転落と復活の物語 2017.01.24 (Tue)
- 第20回 残業体質からの脱却に挑んだ社長の意識改革 2017.01.25 (Wed)
- 第21回 ヤマダ電機の「一斉閉店」による逆転劇 2017.02.02 (Thu)
- 第22回 「値上げ」でV字回復!?リンガーハット成功の秘密 2017.02.21 (Tue)
- 第23回 低迷市場でも人気、プレミアム・モルツのブランド力 2017.03.10 (Fri)
- 第25回 日産をV字回復させた、ゴーン氏の「現場主義」とは 2017.04.10 (Mon)
- 第26回 大手銀行を凌ぐ業績、西武信用金庫を変えた意識改革 2017.04.28 (Fri)
- 第27回 経営危機のダイヤ精機がV字回復に至った3つの改革 2017.05.12 (Fri)
- 第28回 金鳥が独自展開する、インパクト重視の宣伝戦略とは 2017.05.18 (Thu)
- 第29回 白い恋人の石屋製菓が不祥事から「再建」した力とは 2017.06.09 (Fri)
- 第30回 小さな航空会社だからできる接客の技で、赤字脱却 2017.06.21 (Wed)
- 第31回 離職率ほぼゼロ!人材流出を防ぐ日本レーザーの理念 2017.07.05 (Wed)
- 第32回 ニトリの「お、ねだん以上。」は常識の破壊だった 2017.07.13 (Thu)
- 第33回 スズキが無謀と言われたインド進出で成功した理由 2017.07.21 (Fri)
- 第34回 老舗酒造がまったく未経験の海外進出で成功した理由 2017.08.16 (Wed)
- 第35回 レッドブルが差別化と優位性を実現したマーケ戦略 2017.08.25 (Fri)
- 第36回 “脱”孫請けを実現した中小企業から学ぶ成功の秘訣 2017.08.30 (Wed)
- 第37回 ユニクロを成功に導いた、独特の接客・販売手法とは 2017.09.15 (Fri)
- 第38回 トヨタも一目置いたマツダならではの「モノづくり」 2017.09.27 (Wed)
- 第39回 ジャパネットたかたは地デジで天国と地獄を味わった 2017.10.13 (Fri)
- 第40回 なぜ書道メーカー呉竹の新商品が海外で絶賛されたか 2017.10.23 (Mon)
- 第41回 赤字78億円の施設を即再興!HISのV字回復術 2017.10.27 (Fri)
- 第42回 USJは値上げをしても来場者数が3年連続アップ!? 2017.11.10 (Fri)
- 第43回 信用失墜したマクドナルドの、起死回生の地道な手段 2017.11.17 (Fri)
- 第44回 OKB45結成!? 大垣共立銀行、攻めの発想力と顧客目線 2017.11.24 (Fri)
- 第46回 離島、後継者無し…なぜ苦境の民宿は再興できたのか 2017.12.08 (Fri)
- 第47回 異物混入画像がSNSで拡散!窮地のぺヤングを救った行動 2017.12.15 (Fri)
- 第48回 価格競争の泥沼から脱したメニコンの秘策 2017.12.22 (Fri)
- 第50回 会議資料を廃止した、ミスターミニットの大胆改革 2018.01.05 (Fri)
- 第51回 脱ブラックでV字回復のすき家が行った、意外な試み 2018.01.19 (Fri)
- 第52回 機会損失をYouTubeで回避!別府温泉のユニーク戦略 2018.01.26 (Fri)
- 第54回 パナソニックを2度の低迷からV字回復に導いた経営眼 2018.02.16 (Fri)
- 第55回 ひらかたパークは、USJと真逆のプロモでV字回復 2018.02.21 (Wed)
- 第56回 社宅住まいのシャープ新社長は、社員目線でV字回復 2018.02.26 (Mon)
- 第57回 全社員に「自分が責任を取る」精神で日立はV字回復 2018.03.02 (Fri)
- 第58回 スカイマークがたった数年で経営破綻した3つの理由 2018.03.09 (Fri)
- 第59回 新日本プロレスは「埋もれた魅力」の再発見で低迷脱却 2018.03.16 (Fri)
- 第60回 数千億円の赤字から1年で蘇ったヤマハ発動機の改革 2018.04.20 (Fri)