航空会社のスカイマークは、2015年3月期に113億円の赤字を出して経営破綻したものの、わずか1年後には15億円の黒字に転換し、V字回復を果たしました。
2013年の円安ドル高、燃料費の高騰などの影響で、業績が下降。対策として新しい航空機のリースをキャンセルしますが、逆に高額な違約金を請求されてしまいます。その影響で経営破綻し、民事再生適用となりました。その後に経営陣が交代。不採算路線からの撤退や搭乗率の向上といった施策により、1年という短期間で回復します。たった数年の経営破綻、そしてわずか1年でのV字回復には、それぞれ3つの要因がありました。
経営破綻の3要因は「無謀な投資」「無借金」「アベノミクス」
1996年に創立したスカイマークは、日本におけるLCC(格安航空会社)の草分け的存在で、1986年から始まった航空輸送業における規制緩和政策による新規参入企業でした。機内サービスを簡素化するなど各種施策により、運賃を大手航空会社の半額以下に抑えたこともあり、同社の平均搭乗率は一時期80%を超えていました。2000年には東証マザーズ、2013年には東証一部に上場します。
しかし大手航空会社も早期予約による割引運賃の導入や、新規参入航空会社が出現したことにより、スカイマークを取り巻く国内航空業界は競争が激化します。
そのような状況でスカイマークは、国際線への本格進出を目指します。2011年には世界最大の旅客機エアバスA380を6機発注しました。日本の航空会社では、はじめてのA380導入ということからニュースにもなりました。しかし、A380の値段は1機あたり300億円以上で、合計すると1,800億円を超える投資となります。さらに、国内線には中型旅客機A330も導入。スカイマークの2011年度の売上は600億円であったことから、身の丈を超える投資だったといえるでしょう。
このような巨額な投資を進めている中、2012年12月に安倍政権が発足。アベノミクスにより円安ドル高政策が打たれます。ドル建てだった機材のリース料や、以前から高騰を続けていた燃料費などの経費がかさみ、2014年には業績が赤字になります。対策として、納入前だったA380については2機を購入延期、4機のキャンセルをエアバス社に申し入れました。
しかしエアバス社は、スカイマークから前払金の約265億円を没収したうえで、700億円以上の違約金を請求します。A330のリース料金に、A380の違約金も加わり、スカイマークのは営業未払金が発生するまでに経営状態が悪化します。
これまでスカイマークは無借金経営を行ってきましたが、これも仇となりました。一般的に経営状況が悪化したときには、まずは貸付金のあるメインバンクが、新たな融資などで資金注入することにより再建を助けることがあります。しかしスカイマークは、貸付金のあるメインバンクが存在しませんでした。そのため、助けの手を差し伸べる銀行がいなかったのです。
2014年末になるとスカイマークは従業員給与などの運転資金を賄うことすら難しくなり、2015年1月に民事再生手続開始申立を行い、3月には東証一部上場も廃止となりました。そして、当時の社長であった西久保氏は退任します。
V字回復の3要因は「機材統一」「路線絞り込み」「サービス向上」
2015年9月に再生計画が決定され、スカイマークはファンド会社のインテグラルとANAホールディングスの支援を受けることになります。
A330も導入からわずか1年で手放します。羽田-福岡間などのプレミアム路線で、赤字を解消しようと導入された機材でしたが、本来は中長距離国際線に使われる旅客機です。国内線としてはオーバースペックなだけではなく、リース料や燃料費も割高でした。
そこで機材は、燃費が良く近距離を効率よく飛べる小型旅客機ボーイングB737に統一。これにより整備や運航乗務員の教育などの平準化ができるようになり、コストの削減が行えました。
併せて、採算が合わない路線からの撤退を決定。競合が多い成田空港と関西国際空港、搭乗率が思わしくなかった宮古、石垣、仙台、米子などの路線から撤退しました。
機材の統一と就航路線の絞り込みによって、2015年1月には55.1%にまで落ち込んでいた搭乗率が、2016年には72.2%にまで回復しました。提供する座席数という分母が減ったこともありますが、乗客の見込める確実な路線へとシフトしたことも回復の要因といえます。
また、創業時にスカイマークでは「クレームは受け付けません」と明言していました。それにより「値段は安いけどサービスが不親切」というイメージがつきまとっていたのです。
しかし破綻後は、サービスの向上にも注力。たとえば、ネスレ日本とコラボして、2016年10月より長距離路線の機内サービスで、ネスカフェやキットカットを提供するなど乗客の満足度を向上させるサービスを展開しました。
さらにCAはこれまで乗客の手荷物収納を手伝いませんでしたが、これを改めます。結果、破綻前は83.4%であった定時運行率が、90%に上昇。これまでの「安かろう悪かろう」というイメージも払拭されました。
これらの改善策に加えて、新しい採掘技術により燃料価格が大きく低下したことも、スカイマークの大きな後押しとなります。
1年で黒字化し、2020年に再上場を目指す
経営破綻して1年後の2016年3月、スカイマークの民事再生手続きの終結が発表されました。2016年には67億円の営業利益を出して黒字に転換し、短期間でV字回復を果たしたのです。
2017年にはB737を3機追加発注し、2018年には平昌オリンピックの関係者を輸送するために6年ぶりの国際チャーター便を運行するなど、スカイマークに明るい話題が戻ってきました。2020年には東証一部への再上場を目指しており、今後の活躍に期待が寄せられています。
新しい機材と国際線への参入という身の丈を超えた事業計画や、低価格と割り切ったサービス内容という姿勢は、事業計画性やお客さまの求めるものを顧みなかったものです。しかし、経営破綻後は機材や就航路線の効率化を図り、顧客満足度を向上させるという堅実な方針へと切り替えたことで、V字回復につながりました。
市場の競争が激化しているときほど、企業はさまざまな施策を考えます。その中で身の丈に合わないことに手を出してしまうと、大きな痛手を被るときがあります。堅実に自分の長所と短所を見直す施策は一見遠回りのように見えますが、着実な実績を積み、次へのステップの足がかりとなるときもあります。スカイマークの拡大路線による経営破綻と、堅実な施策によるV字回復には、経営戦略における、さまざまな教訓を含んでいます。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年3月2日)のものです。
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http://www.skymark.jp/ja/company/press/160328_press.pdf
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