2017.04.28 (Fri)

元気な企業はどこが違う?成功企業の戦略とは(第26回)

大手銀行を凌ぐ業績、西武信用金庫を変えた意識改革

posted by 山田雄一朗

 「西武信用金庫」という金融機関をご存知でしょうか。決して母体は大きくないものの、この数年間で業績を大きく伸ばしており、話題となっています。

 西武信用金庫の営業エリアは、さほど広いとはいえません。東京都を中心に店舗展開しており、そのほかは埼玉県の所沢市・入間市、神奈川県の相模原市に数店舗ある程度です。

 そんな西武信用金庫が、なぜ数年で業績を大きく伸ばすことができたのでしょうか?

大手銀行に引けを取らない信用金庫がある

 西武信用金庫の業績は、ほかの信用金庫だけでなく、大手金融機関にも引けを取りません。預貸率(預金に対する融資の比率)は76.05%と、信用金庫業界の平均47%を大きく上回るのはもちろん、大手銀行9行の平均値である65.05% よりも上回っています(数値は2016年3月期、以下同じ)。さらに、金融機関における健全性の指標のひとつである不良債権比率は1.74%と、業界の中ではかなり低いのも特徴です。

 業績はここ数年増益を続けており、2015年6月には日本格付研究所より、「A+」という、信用金庫では極めて高い評価を受けています。新卒学生の志願者も増加しており、競争倍率は一説によれば100倍を超えるとも言われています。

 しかしそんな西武信用金庫も、2010年頃までは特に良い業績を残していたわけではありません。2010年3月における不良債権比率は3.64%と高めで、また同時期の融資額も前年と同程度かそれを下回る数値で推移していました。

 そんな折、現在も理事長を務める落合寛司氏が、西武信用金庫の意識改革に着手します。

50代職員のミスと定年職員の「まだ働ける」をどう解決する?

 落合氏が取り組んだ改革の1つ目が、「人材戦略」です。

 落合氏はかねてから、60歳で定年になった職員の「まだまだ自分は働ける」という想いに触れるたびに、歯がゆさを感じていました。一方で、50代になり定年が見えてきた職員の、業務中のミスが多くなる傾向にも不満を抱いていました。

 そこで落合氏は、定年制を廃止し、60歳を過ぎても、これまで通りに働くことを可能としました。

 定年制を撤廃したことで、50代の職員の仕事ぶりが大きく変化。働く姿勢が以前より前向きになり、ミスも激減したといいます。さらに、定年がなくなったことで、ベテラン職員の長年の経験によるノウハウが、下の世代に確実に継承できるようになったといいます。

 これに加えて、若手・中堅職員にとっても「ここで長く働ける」という意識を持つようになり、帰属意識の向上にもつながったといいます。

若手もベテランもチャレンジできる制度を採用

 落合氏はさらに、給与・人事体系も変更しました。

 給与面では、成果を出した従業員に対しインセンティブ(報奨金)を付与する体制に変えました。一方で人事面では、自分の過去の業務経験や成果を踏まえて、自らの意思で他部署へ異動できる「フリーエージェント制度」を導入しました。さらに、支店長に従業員自らが立候補できる制度も採用しています。つまり、若手でもベテランでも、成果を出せば給与がアップし、新たなキャリアにチャレンジができる仕組みを築いたのです。

 さらに、徹底した「オートメーション化」も図ります。たとえば、かつて手作業で行っていた報告書集計業務をシステム化することで、業務を簡素化。各支店の報告書の提出状況がリアルタイムで把握でき、業務効率を大幅に改善することで、残業時間の削減に成功したといいます。

若い頃の苦い経験から生まれた積極的な融資姿勢

 顧客に対しても、新たな取り組みを行いました。その1つが、融資先を「徹底的に」支援する方針を提示することです。

 これは、落合氏の苦い経験が元になっています。落合氏がまだ駆け出しの頃、担当していた企業に対し融資を断ったところ、その企業は倒産。従業員だけでなく、その家族も苦しい思いをすることになり、落合氏は「二度とこのようなことにはしたくない」と強い決心を持ったといいます。

 単に融資するだけではなく、顧客へのコンサルティングや相談などの支援を行う「お客様支援センター」も設立します。このお客様支援センターは、顧客に対して職員がアドバイスをするだけでなく、外部のコンサルタントや中小企業診断士、大学なども連携して、顧客を支援するというものです。

 銀行が企業にお金を貸し出すだけでなく、融資先の財政の健全化までコンサルティングすることで、多くの企業の業績を改善することに成功。融資も返済され、かつ好調な企業がさらに投資を促進するため融資金額が増加するという、好循環を生みだしているのです。

組織の体制を整えることも「本業重視の経営」のひとつ

 ここまで見てきたとおり、西武信用金庫は、内向けの戦略と外向けの戦略の両輪を回し、業績を大きく伸ばしました。

 内向けには、定年制の廃止や成果主義の導入で、企業の「要」である人材を機能するように改革しました。そして外に向けては、顧客のビジネスをより支えるような体制とし、より融資を提供できるような仕組みに変えました。内部だけ、外部だけに偏った改革をするのではなく、バランスが取れた“両輪の改革”を実行し、結果を出したのです。

 落合氏は自身が行った改革を「本業重視の経営」と称しています。信用金庫は、地域の企業にお金を貸し、地域を活性化することも本業のひとつ。落合氏はその本業をより良いものとするため、組織の制度を変えたのです。

 西武信用金庫の事例からは、ビジネスを大きく変える場合には、内と外の両輪で改革を進めることが重要といえそうです。

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山田雄一朗

山田雄一朗

筑波大学大学院で経営工学の修士号を取得した後、IT企業で営業として5年の職歴を経験。リサーチ力を強みとしたライターとして活動中。

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