2025年4月1日利用分より、フレッツ 光ネクスト(一部サービスタイプ)の月額利用料を改定します。詳細はこちら別ウィンドウで開きますをご確認ください。

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2017.06.09 (Fri)

元気な企業はどこが違う?成功企業の戦略とは(第29回)

白い恋人の石屋製菓が不祥事から「再建」した力とは

 「白い恋人」といえば、北海道を代表するお土産の1つ。その白い恋人を製造・販売しているのが、北海道札幌市に本社を置く石屋製菓株式会社です。

 石屋製菓はこれまで、白い恋人を北海道中心にお土産として販売していました。近年は北海道に外国人観光客が増え、白い恋人は彼らにも人気となっています。

 その人気を知った石屋製菓は、北海道外の国内国際空港の免税店でも販売して、業績を伸ばしています。また2017年4月には、東京・銀座にあるGINZA SIX(ギンザシックス)に、北海道外では初となる直営店を出店しました。

 現在、成長を遂げている石屋製菓ですが、実は10年前には大きな経営危機が訪れていました。

甘さと隠蔽が招いた会社存続の「危機」とは

 2007年8月に、石屋製菓はアイスクリームから大腸菌群が検出されたことを発端に、白い恋人の賞味期限が不正表示されていたことや、バウムクーヘンから黄色ブドウ球菌が検出されたことが発覚。衛生・品質管理体制の甘さや、賞味期限の不正表示に関する隠蔽体質が明るみとなり、各メディアで不祥事として大きく報じられました。

 石屋製菓は製品を自主回収しますが、管理体制の甘さや隠蔽体質を重く見た北海道庁は「操業停止」の行政処分を下します。これにより白い恋人などの石屋製菓商品は、北海道の空港やお土産店などから一斉に姿を消します。

 当時は雪印グループやミートホープの牛肉偽装など、北海道の食品メーカーで不祥事が続き、北海道の食に対する信頼は崩壊寸前でした。そのような中で不祥事が明るみとなった石屋製菓を再建させることは、至難の業と考えられていました。

不祥事で失った信頼を回復する姿勢を発信

 石屋製菓のメインバンクであった北洋銀行は不祥事が報じられると、すぐに同社の再建へ動き出しました。操業停止中の運転資金を融資する条件として、創業家の社長が退任し、代わって同行の取締役である島田俊平氏が新社長に就任するという支援を提案します。同行では、北海道のシンボルである石屋製菓を潰してはならないという考えがあっての支援でした。

 島田氏は、社長就任当日に経営陣の大幅な入れ替えを行いました。就任後の記者会見で「一族経営から脱却するために、社外の人材を登用し、甘い企業風土を変えたい」と経営陣を入れ替えた理由と今後の方針を説明します。

 そして着任から1週間で、外部の目で問題点を検証するコンプライアンス確立委員会を設置します。甘い企業風土を変えるために、同委員会が導き出した再建策は「マイナス要素もすべて公表し、その対策を包み隠さず愚直に伝えることで、信頼を取り戻す」というものでした。

 再建方針が決まると、社内にお客様サービス室と広報室が設置されます。顧客からの問い合わせ対応と、対外的な情報発信を正確にできるようするためです。

 不祥事を起こした企業が顧客や社会から信用を取り戻すには、その後の対応が重要です。島田氏は社内の再発防止策に取り組むだけでは、消費者に安心・安全が伝わらないと考え、情報を発信する部署を設置したのです。

社員の意識改革で甘いリスクマネジメントから脱却

 不祥事の発覚前は、衛生・品質管理に関わっている社員は一部のみでした。コンプライアンス委員会が立ち上ると、社員の間に「安心・安全・コンプライアンス」という言葉が共有されます。すると「こんな不祥事は二度と起こしたくない」という強い意識が芽生え、管理体制を全社員で見直すようになったのです。

 衛生・品質管理の体制を再構築するにあたっては内部だけではなく、大手菓子メーカー・森永製菓の支援もありました。森永製菓は、事件直後に石屋製菓へ支援の提案を行います。森永製菓は石屋製菓へチョコレート原料などを供給していたこともあり、合併などの資本提携ではなく、純粋に石屋製菓に再建してもらいたいという考えからでした。石屋製菓は、森永製菓から工場長経験者を派遣してもらい衛生・品質管理向上で支援を仰ぎました。

 石屋製菓の社員が森永製菓の管理体制を見たとき、その違いに驚きを隠せなかったといいます。それだけ大手メーカーの衛生・品質管理は徹底していたのです。それを見習い、石屋製菓は衛生・品質管理の体制を1つずつ整えていきます。

 その体験から現在の同社では、すべての情報を社員に開示して共有することがリスクマネジメントになるという考えに変わり、全社員で品質向上に対する真摯な取り組みが行われるようになりました。

ステークホルダーから信頼される企業とは

 これらの行動を迅速に行った結果、白い恋人は操業停止から3カ月後に販売の再開を保健所から許可されました。しかし一度は信頼が失墜してしまった製品です。白い恋人がまた以前のように消費者に受け入れられるのか、社内には大きな不安が渦巻いていました。

 そこで石屋製菓は、販売再開の告知で、顧客への「約束」を誓った広告を新聞に掲載します。それは、消費者の信頼を取り戻すために、菓子作りの原点にかえって、石屋製菓が行った食の安心・安全への取り組みを具体的に明記したものでした。自らの過ちを反省し、今後の決意を新聞広告で宣誓したのです。

 そして販売再開の日には、店前に白い恋人を求める客が列をなす光景が広がっていました。販売再開の初日は、商品が完売しました。それも1週間分のストックが切れてしまう店もあったほどで、石屋製菓の予想を大きく超えるものでした。

 従来、白い恋人は観光客向けのお土産であり、地元の人が購入することはほとんどありませんでした。新聞広告を読んだ北海道の人が「石屋製菓に頑張ってほしい」と思うようになり、購買へつながったのでしょう。

 銀行、同業他社、地元からの支援、そして社員による改善策で石屋製菓は再建し、その後大きく成長しました。

 再建を果たした島田氏は「信頼を回復するには愚直に取り組むしかないと思っていました。しかし再発防止の仕組みを作るだけでは消費者には伝わらないでしょう。衛生・品質管理に会社が努力していることを訴え、消費者に理解してもらうことが、信頼回復への一番の近道であると考えて行動していました」と振り返っています。

 消費者や社員、地域、社会などのステークホルダーから信頼される企業に必要なものの1つが、自社の努力や方針などをきちんと説明できるコミュニケーション能力であることを、石屋製菓の再建は実証した事例といえるでしょう。

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