牛丼のチェーン店というと、「牛丼御三家」と称される「すき家」、「松屋」、「吉野家」の3つが特に有名です。このうち、最も長い歴史を持ち、多くの人に親しまれてきたのが吉野家(株式会社吉野家ホールディングス)です。
長い歴史を持つ同社は、これまで何度も会社を揺るがすピンチに直面してきましたが、そのたびに乗り越えてきました。
急速な店舗展開の裏で生まれたひずみ
吉野家が誕生したのは1899年のこと。しばらくは創業者である松田栄吉氏の個人商店として営業していましたが、1958年に2代目に当たる松田瑞穂氏が「株式会社吉野家」を設立。当時の店舗は東京・築地の1号店のみでしたが、年商1億円という驚異的な売上を残しました。
吉野家はその後、全国へチェーン展開をしていきます。松田氏はチェーン展開に当たり「人と組織をつくること」を重要視し、従業員の教育への投資を惜しみませんでした。そして、やる気があればアルバイトでも年齢が低くても仕事を任せ、それに従って報酬もアップする方針を取りました。
実は現在の吉野家ホールディングスの会長を務める安部修仁氏も、アルバイトからスタートしたひとり。当時の勢いのある成長力や人づくり・組織づくりは、後々吉野家を率いる人々の財産となりました。
チェーン展開は、8年間で店舗数を5店から266店へ拡大する急速なものでした。しかし、急速な店舗拡大の裏で多くのひずみも生まれました。出店費用が経営を圧迫し、資金繰りが悪化。牛肉の需供バランスも崩れ、材料が不足してしまいます。原料調達とコスト削減のため乾燥肉を使用し、タレを粉末にするなど素材の合理化を行いますが、その結果、味が劣化し、客離れと売上の減少という最悪の結果につながります。
そして1980年、115億円の負債を抱え、吉野家は倒産してしまいました。
倒産、BSE問題を企業の成長に結びつける
吉野家は1983年に会社更生法の適用を受け、セゾングループの一員として再スタートを切りました。これを機に、「成長第一」の経営方針を「安定第一」の経営へと転換。その一方で、「顧客の求める商品・サービスを提供し、喜んでもらうのが役割であり、使命」という創業から続く伝統は維持されました。
その結果、吉野家の売上は一気に回復し、1987年には約100億円にも及ぶ債務をすべて返済。海外にも店舗展開するなど、見事なV字回復を成し遂げました。
ところが2003年、アメリカでBSE(狂牛病)問題が起き、アメリカ産牛肉の輸入が禁止される事態に陥りました。米国産牛肉を使用していた吉野家は、翌2004年に牛丼の販売をストップ。これまで牛丼のみで勝負してきた吉野家が、牛丼を扱えないという緊急事態でした。
しかし、このことが新メニューの開発強化につながります。牛丼が提供されなかった時期に提供された「豚丼」「牛カルビ丼」は、現在も吉野家の定番メニューとして販売されており、そのほかにも「牛鍋丼」「焼鳥つくね丼」など、多彩なメニューが投入され、話題を集めました。最近では「ベジ丼」という、なんと肉を使わない商品まで登場しています。吉野家が商品開発において、老舗らしからぬ“攻め”の姿勢を取る裏には、BSE騒動における危機感がいまだ息づいているのかもしれません。
さらに、2004年には讃岐うどんチェーン「はなまるうどん」の運営会社である株式会社はなまるをグループ化し(2006年に子会社化)、2007年にはステーキレストラン「どん」を運営する株式会社どん(現・株式会社アークミール)を子会社化するなど、牛丼以外の外食産業を取り込むことにも成功しました。牛丼だけでない、多角的な飲食チェーン店へと進化を遂げています。
これまでさまざまな困難に見舞われてきた吉野家ですが、逆境を乗り越えるたびに成長を繰り返してきました。「ピンチはチャンス」とはよく言われることですが、吉野家の歴史を振り返ると、それが決して嘘ではないことがわかります。
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