機械の組立作業などに使われる特殊な工具を製造・販売している、ダイヤ精機。ミクロン単位の精度が必要とされるその工具は、国内でも限られた企業しか製造できないため、中小企業にも関わらず自動車メーカーなど大手企業を中心に取引実績を築き上げてきました。
そんなダイヤ精機も、1993年のバブル崩壊により売上高の右肩下がりが続きます。さらに2004年には創業者が急逝するなど、未曽有の危機に直面しました。その中で2代目社長として就任したのが、創業者の実娘である諏訪貴子氏です。当時32歳、しかも経営者としての経験がほとんどない諏訪氏は、どのようにしてダイヤ精機を立て直したのでしょうか。
ダイヤ精機を立て直すための3年計画
当時は女性社長が珍しかった時代、さらに経営経験も浅かった諏訪氏に対する風当たりは強く、メインバンクからは他社との合併も勧められたほど。その中で諏訪氏は、当面の資金難を解決すべく、リストラを敢行します。長年勤めていた幹部社員からは強い反発を受けました。しかし諏訪氏は、経営者としての試練と考え強行したのです。結果的に月200万円ほどの人件費を削減し、当面の経営難を回避することに成功。さらに経営の長期安定化を図るべく、「3年の改革」と題した改革に取り組みます。
まず最初の年は「意識改革の年」とし、社員教育に注力しました。これまでOJTによる教育が中心だったダイヤ精機に座学研修を取り入れたのです。挨拶の仕方といった初歩的なことから、製造業の基本となる5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)などを、諏訪氏みずから指導。当初、社員は半信半疑で5Sに取り組んでいたものの、実際に作業効率の向上が見えてくると、次第に社長の言葉へ耳を傾けるようになりました。また、若手社員を集めて会社の悪口を発言させる「悪口会議」も実施。諏訪氏は悪口会議で浮かび上がったダイヤ精機の問題点を真摯に受け止め、対応したのです。これらの実施により、社員全員に「自分たちがダイヤ精機を変えていく」という意識が芽生えました。
新しいことへ取り組むことの大切さ
幸運にも、取引先のグローバル展開に伴う需要拡大により売上高のV字回復を実現したダイヤ精機。このチャンスを生かすべく、諏訪氏は2年目のテーマを「チャレンジ」とし、新しいものを積極的に取り入れることにしました。これまでベテラン社員の経験頼りだった製造現場に、コンピュータを使って自動制御が行える機器を導入。簡単な製造作業は機器に任せ、みずからは機器では行えない複雑な製造作業に専念できることからベテラン社員に受け入れられました。また、若手社員にも機器を操作させることにより、製造現場で活躍の機会を与えることに成功したのです。
諏訪氏はさらに、生産管理システムの刷新にも着手しました。誰でも容易に扱える新しい生産管理システムを導入することで管理者の負担が減少し、製造の現場に専念できるようになりました。また急な製造依頼や設計変更などにも柔軟に対応できるようになったり、コスト計算が簡単に行えるようになったことで、社長就任後と比べて営業利益率が約5ポイントも向上します。
ダイヤ精機が末永く成長していくために
3年改革の最終年は「維持・継続・発展」をテーマにし、就任から2年間でつくりあげた仕事の仕組みの整理整頓に取り組みました。具体的には、受注から納品までの基本的な業務の進め方や材料購入の手順など、これまで統一化されていなかったものをフォーマット化したのです。その際に不都合を見つけた場合は修正を行うなど、1年がかりで実施。結果、新入社員に対して効率的に作業を行えると好評を博しました。
論理的な判断と真摯な対応で、社員の信頼を得る
諏訪氏が取り組んできた3年改革は社外からも高く評価され、日経ウーマン主催の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」を受賞しました。
諏訪氏は、社長に就任してから論理的に物事を考えてきたといいます。なぜ売上が伸びないのか、なぜ利益が出ないのかを徹底的に考え、判断を下してきたのです。これにより、ダイヤ精機の立て直しに対して信念をもって取り組めたのでしょう。そしてもうひとつ、諏訪氏の取り組みで忘れてはならないのが、社員への真摯な姿勢。トップダウンではなく論理的にまとめ、かつ社員が納得できるまで時間をかけてじっくりプレゼンテーションしたことが、社員の信頼を得る要因になっています。このような姿勢も、受賞の大きな要因となっていると言えるでしょう。
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