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2017.04.10 (Mon)

元気な企業はどこが違う?成功企業の戦略とは(第25回)

日産をV字回復させた、ゴーン氏の「現場主義」とは

posted by 高槻 雫

 日産自動車はバブル崩壊後の1990年以降、販売不振による経営危機に陥りました。1999年には6,844億円の赤字を計上。上場企業としては当時のワーストの赤字額であり、世間の注目を集めました。

 同年、フランスの自動車メーカー、ルノーの副社長であったカルロス・ゴーン氏が、同社に最高経営責任者として就任。ゴーン氏は就任から短期間でV字回復を成し遂げます。その評判は世界にも発信され、2003年にはアメリカのビジネス誌「フォーチュン」にて、「アメリカ国外にいる10人の最強の事業家の1人」として取り上げられたほどでした。

 なぜ日産はこのような劇的な業績の改善ができたのか。その鍵となったゴーン氏の経営戦略に迫ります。

ゴーン氏は日産の危機に対し、まず何から取り組んだのか

 1990年代は日産だけでなく、他の企業も含めて自動車業界全体が低迷していた時代でした。特に1999年は、軽自動車の躍進があったものの、軽自動車以外の新車登録台数は399万台となり、14年ぶりに400万台を下回りました。加えて、携帯電話などIT機器の普及が重なり、消費者の支出が自動車業界から離れる流れができていました。

 そんな中で、日産は2兆円という高額の有利子負債を抱えており、いつ倒産してもおかしくない経営危機を迎えていたのです。

 同社はこの危機の打開策として、フランスの自動車メーカー、ルノーと資本提携を結びます。それにより、同社がルノーの傘下に入ると同時に、当時ルノーの副社長であったゴーン氏が最高執行責任者(COO)に就任します。

 ゴーン氏は同社に就任した直後、「日産リバイバルプラン」を発表します。その中には、3年間で20%のコスト削減、そして最適生産効率と最適コストの達成が掲げられました。この目標を達成するためゴーン氏は、新商品の開発と販売、グループ人員の削減を実施。さらに下請企業の整理を行い、部品の一括購買によるコストの最適化を実施しました。

 結果、この「日産リバイバルプラン」は、短期間で目標を達成することに成功しましたが、ゴーン氏はさらなる目標として、

2002年4月に新たな計画「日産180」を発表します。その内容は、3年間でグローバルでの販売台数を百万台まで増やすこと、8%の連結売上高営業利益率を達成すること、そして負債を無くすことでした。これも、2004年度達成しています。

 ゴーン氏は明確な数値目標を掲げ、それを短期に達成し続けることで、同社を復活へと導いたのです。

社員それぞれに目的意識を持たせた、ゴーン氏の現場主義とは

 同社がV字回復できた要因のひとつに、ゴーン氏の「現場主義」があります。

 1990年代の日産は、決して明るい状況ではありませんでした。バブル崩壊の影響で売り上げが低迷。部品調達コストの削減にも度々失敗し、さらにデザイン部門もリストラを断行したことで、新車開発能力が弱体化していました。

 しかしその状況は、ゴーン氏の就任により一変します。

 ゴーン氏は人材や資産の大規模な再編、下請け企業の整理を断行する判断材料として、社員との対話を重視しました。社員との対話から、各部署の問題点をまとめあげ、明確な数値目標を設定したのです。そしてその目標を、管理職だけではなく、全社員に徹底して周知しました。数値目標によって社員1人ひとりが明確な目的意識を持つことができ、社内は団結して1つの方向を向くことになったのです。

 ゴーン氏はさらに、こうした目標を周知するだけではなく、自ら生産・開発の現場に何度も足を運び、スタッフの声に耳を傾けました。このような現場主義により、末端の社員にも目的意識が生まれ、改革が進んだのです。

 さらにもう一点、ゴーン氏の取り組みとして参考にすべきことがあります。それは自社製品への愛着です。ゴーン氏は愛車を日産車として、私生活でも自社製品への愛着を忘れることはありませんでした。また各メディアにも積極的に露出して同社への思いを語ることで、顧客や従業員からの信頼を獲得していきました。

V字回復のヒントは現場にある

 どれだけ優れた経営手法も、机上の空論では意味がありません。組織を根本的に立て直すには、全社員が一丸となることが重要となります。ゴーン氏は組織を一丸とするため現場に赴き、日産への愛を語りつつ、そして現場で得た意見や着想を活用することで、V字回復へとつなげていきました。

 2017年2月、日産はゴーン氏が社長兼CEOから退任し、引き続き会長職を務めることを発表しました。すでにルノー・三菱自動車の会長も務めているゴーン氏ですが、この役員体制の変更によって、3社のアライアンスの拡大と経営に集中する狙いがあるといいます。

 この3月で63歳となったゴーン氏はいま、かつて瀕死の状態だった日産を含む、販売台数で世界第4位の自動車グループを、トップ3に押し上げるという大仕事に臨もうとしています。

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高槻 雫

高槻 雫

フリーライター。2014年より執筆活動を開始。人材派遣会社の営業担当として様々な採用現場に携わった経験を元に、ビジネス心理学や採用に関するコラムを執筆している。

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