2017.01.25 (Wed)
元気な企業はどこが違う?成功企業の戦略とは(第20回)
残業体質からの脱却に挑んだ社長の意識改革
商社マンといえば、高給取りのイメージとともに、長時間労働は当たり前というイメージも強い職種のひとつです。
しかし伊藤忠商事は、朝型勤務へ転換し、さらには20時以降の残業禁止という異例の取り組みを行いました。業績を下げずに仕事量を減らすことなく、どのようにして残業を減らしたのでしょうか。
朝型勤務を定着させるために社長が取った行動とは
2010年、現在も伊藤忠商事の社長を務める岡藤正広氏は、同社を「朝型勤務」へ転換することを提言しました。遅く出社し、遅く帰る習慣が染み付いていた社員からは、「フレックス制や夜型の働き方が染みついているため、今さら朝型に変えるのは難しい」と、否定的な意見があがったそうです。
そこで岡藤社長は、朝型勤務を定着させるため、ふたつの行動を取りました。ひとつ目は、一部の管理職者が、一般的な社員よりも早い午前9時に出社するというものです。上司が先に出社していれば、部下は嫌でも朝から出社せざるをえません。これまでは午前10時以降に出勤していた社員が多かったものの、提言から半年後には、ほぼ全ての社員が午前9時に出社するようになりました。
しかし、これだけでは社員にメリットがなく、朝型勤務は定着しない、と考えた岡藤社長は、ふたつ目の行動に出ます。それがインセンティブの付与です。午前5時~8時の間に出勤した社員には、深夜残業と同じ5割増賃金を支払う新制度をつくり、さらには無料の朝食まで用意。この作戦は見事に効果を発揮し、多くの社員が当初の想定より1時間早い午前8時台に出社するようになりました。
改革を行う際には必ず、トップ、社員とも代償が伴います。この代償を社員に飲んでもらうためには、納得できるだけの見返りが不可欠です。そして、見返りはわかりやすいものほど効果を発揮します。
社内会議に完璧な資料はいらない
もうひとつの課題は、20時以降の残業です。いくら朝型勤務が定着したからといって、早く出社した時間を有効に活用できていなければ、残業時間は減らず、賃金コストが膨らんでしまう恐れがあります。
上層部は、まず会社全体で残業をなくそうという姿勢を示しました。20時が近付くと見回りを行い、帰宅を指示しました。さらに残業常習者には個別に注意を行ってまわることで、社員に「残業はいけないことだ」という意識改革をしていったのです。
残業禁止となれば、作業の無駄を省くことで、仕事の効率を上げるしかありません。そこで岡藤社長は、社員が働き方を自ら見直すよう、具体的な行動を示しました。
それが、会議にかかる時間の短縮です。岡藤社長は、会議のために完璧な資料を作ることを禁じました。資料はメモ1枚にまとめ、口頭で要点を述べる能力を鍛えよと命じたのです。さらに上層部には、会議中は部下に議題と無関係な質問を投げかけるのを禁じました。つまり、話の腰を折るような質問は時間の無駄だと指摘したのです。
こうした取り組みの結果、2010年からの約6年間で、会議時間は50%削減されたといいます。
時間内に仕事を終えるための工夫は、社員レベルでも行われました。同社では従来、会議が夕方から始まることは日常茶飯事でした。しかし夕方に方向性を決定すれば、仕事に取り掛かる時間が遅くなり、残業になってしまいます。改革後は、午前中に会議を行うことが多くなり、仕事に早く取りかかれるようになりました。
また、ある社員はメールの確認や返信を朝の時間帯にまとめて行うようにしたところ、相手からの返信も早くなり、仕事の効率が上がったといいます。
トップダウンよりも社員自らの意識改革が重要
こうした取り組みの結果、会社全体の時間外勤務時間は、前年対比で約3,350時間も減少。早朝勤務をした社員に対して5割増の賃金を支払ってもなお、約7%の時間外勤務手当が削減されたといいます。
伊藤忠商事の取り組みが成功した裏には、トップである岡藤社長が、インセンティブなどを導入することにより、あくまでも社員が自主的に変わるよう働きかけた点にあるでしょう。トップダウンで「残業をなくせ」と指示するのではなく、社長や管理職が自ら具体的な行動を示し、さらには社員にインセンティブまで与えたことで、スタッフ自らが意識を変え、悪しき習慣を変える行動に出たのです。
「今年の目標は残業を30%カット」「毎週月曜日はノー残業デー」などの指針を示している会社もあるでしょうが、それでも効果が出ないのであれば、伊藤忠商事のような取り組みがきっと参考になるでしょう。
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