長崎ちゃんぽんのチェーン店で知られる「株式会社リンガーハット」を、ご存知の方も多いでしょう。同社の売上高は、2014年度は381億円、2015年度は411億円と増えており、2016年度は6期連続の増収を見込んでいます。
しかし同社は、2004年頃から不振にあえいでおり、2009年度には過去最大の24億円の赤字を計上するなど、危機的状況に陥っていました。
なぜ同社は赤字から抜け出し、連続増収へと転換することができたのでしょうか。復活の裏に隠された戦略を紹介します。
顧客が求めているのは「安さ」ではなかった
同社が赤字に転落した原因は、大きく分けてふたつあります。ひとつは、集客のために価格競争へ参入したこと。ふたつ目は、値下げによって同社の要である商品力の低下を招いたことです。
赤字転落の背景には、2004年頃から続く景気状況がありました。当時はデフレなどの影響を受け、外食産業全体に値下げムードが蔓延していました。
同時期に客数の減少に悩んでいた同社は、その原因として「客が来ない理由は商品価格が高いからではないか」「自分たちの顧客は、ラーメン屋や他の外食チェーン店へ流れているのではないか」と予想。他社との競争を意識し、顧客を取り戻すために値下げに踏み切りました。
しかし、この決断はさらなる客離れを招きます。値下げのために食材のコストカットを行ったため、味の低下を引き起こしたのです。値下げをしたにもかかわらず客離れを招いたことで、顧客がリンガーハットに求めているのが価格ではないということが明らかになりました。
あえて値上げに踏み切った理由とは
それからしばらく経った2009年、同社は社長の交代をきっかけに、使用する野菜を全て国産に切り替えました。翌年には、麺や餃子の皮に使われる小麦粉も、全て国産としました。
国産食材への切り替えは、コストがかかるため、当然値上げにつながります。実際、主力メニューのちゃんぽんの価格は、国産への切り替えによって、従来から40~100円値上がりしました。
ところが、今度は客離れが起きず、それどころか、客足が戻りはじめました。2009年の同社の売上高は毎月前年割れが続いていたものの、値上げを行った10月から2カ月後の12月には、前年を上回る売上を記録しています。
なぜ、値上げしたにも関わらず、客離れが起きなかったのでしょうか。そこに、同社を赤字脱却へと導いたヒントが隠されています。
リンガーハットのメインメニューの「ちゃんぽん」には、おいしさのほかにも「ヘルシー感」や「野菜がたっぷり摂れる」といった、他の外食チェーン店では得られないメリットがありました。それならば、顧客のニーズのひとつ上をいくおいしさ、そしてメリットを提供できれば必ず客は戻ってくる、と当時の経営陣は判断しました。その答えが、値上げを伴う材料の国内調達への切り替えと、国産野菜にこだわった「おいしく安心・安全でヘルシー」という新たなコンセプトでした。
売上を回復した同社は、新たなメニューを展開します。たとえば、ヘルシー志向の顧客のニーズに応えるために、ちゃんぽん麺を抜いたスープと野菜のみのメニュー「野菜たっぷり食べるスープ」も提供。さらに、「ちょい飲み」の需要に応えるべく、アルコールとちゃんぽんを提供する新店舗も展開していきます。
こうした取り組みにより、リンガーハットは冒頭で挙げたような好調な売り上げを記録。見事、V字回復を成し遂げました。
ピンチに陥った時は、原点に立ち戻って挑戦することが重要
同社の復活劇から見えてくることは、ピンチに陥ったときに原点に立ち戻ることの重要性です。リンガーハットの場合は、他のチェーン店にはあまり見られない、野菜が豊富でヘルシーなメニューを提供していることが原点でした。
赤字に陥った際、値下げをすることもたしかにひとつの経営戦略です。しかし安易に値引きをすると、品質の低下にもつながり、今まで積み重ねてきた顧客からの信頼も失うことになります。ピンチの時こそ、顧客が自分たちに何を求め、何を信頼しているのかに気づく必要があります。
もうひとつ重要なポイントは、原点回帰だけなく、「発展」も見据えていた点です。業績が悪いと、企業として攻めに出ることに対して消極的になってしまいがちですが、同社は前述したような健康志向やちょい飲み需要など、時代のニーズを意識したアプローチも仕掛けています。原点に戻りつつ、時代に適応させるための挑戦に出たことが、成功につながりました。
顧客が求めているのは、決して安さだけではありません。リンガーハットのように、時には値上げをし、新たな挑戦に出ることも、ビジネスで成功するための選択肢のひとつと言えるでしょう。
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