2015年、家電量販店のヤマダ電機は、大幅な減収減益を記録しました。業績回復のためには、従来とは違った方針を打ち出さなければなりません。そこでヤマダ電機は、経営面での構造改革に加え、ただの家電量販店ではなく「IoT企業として成長していく」という方針転換を図りました。
今回はヤマダ電機の変遷をたどりながら、なぜ業績回復に至ったかを紐解いていきます。
2015年の低迷の理由
ヤマダ電機は2016年より、グループのビジョンに「IoT企業」を掲げ、構造改革を行っています。
IoTとは、「Internet of Things」の略で、あらゆるものがインターネットにつながる「モノのインターネット」を表す言葉です。しかし、一見しただけでは、「IoT企業」が何を指すのかいまいちピンときません。この言葉を理解するためには、ヤマダ電機の業績が低迷した2014~2015年の状況から振り返る必要があります。
それまでのヤマダ電機は、「最低価格保証」による競合店と一円単位の価格競争を行いながら、人口の少ない地域にも郊外型の大型店舗をいくつも出店するという拡大路線で売り上げを伸ばし、業界最大手の家電量販店として名を馳せてきました。
しかし、ネット通販の台頭による価格割れや、拡大し過ぎたゆえの自社競合による共食い状態など、価格競争にも限界がきていました。さらに、エコポイント制度や地デジ化、増税前の買い替え需要の先食いなどの反動による長期的な業界全体の不振が、ヤマダ電機に陰りをもたらします。
都市型店舗を中心とする量販店とは違い、郊外店舗を多く構える同社は、中国人旅行客による爆買いの恩恵もあまり受けられませんでした。
こうした要因により、ヤマダ電機は2015年3月期において、売上高12.1%減、純利益50.0%減(いずれも対前年同期比)という大幅な減益を迎えてしまいました。
ヤマダ電機が下した「一斉閉店」という決断
ここでヤマダ電機は大きな決断を下します。それが2015年5月~6月に行われた「一斉閉店」です。それまで大幅な閉店を行って来なかったヤマダ電機が、2ヶ月間で約60店舗の不採算店を一気に閉店させたのです。
この決断が意味するのは、拡大路線の転換です。これまでのような安売りと規模の拡大ではなく、経営パフォーマンスの向上を目指した「量より質」の経営へと舵を切り出しました。
もちろん、売上高が緩やかな下降線をだどる中で、一斉閉店などの拡大路線の中止だけでは、経費削減はできても、企業としての直接的な成長という意味では不十分です。そこでヤマダ電機は「IoT企業」という考え方を打ち出します。
この結果、2016年3月期の決算は、売上高こそわずかに下がっているものの、純利益においては前年度の93億 4,000万円の3倍以上にあたる303億9,500万円という、驚異的な業績回復を実現します。
「IoT企業」が本当に意味していることとは?
「IoT企業」という言葉だけを見るとIoTに関連した製品の販売に力を入れる企業のように見えますが、実態は少し異なります。
たしかにヤマダ電機は、スマートフォンで家電などの操作もできるスマートハウスというエコ住宅に力を入れており、店舗と展示場を併設させたり、日本光電と提携し、活動量計なども用いた高齢者向けの見守りサービスを手掛けたりと、IoTを用いたサービスにも力を入れ出しています。
しかし、それと同時に、新たな取り組みもスタートしています。たとえば、自社ECサイトで購入された商品の実店舗での受け取りを可能にし、ウェブサイトから購入した顧客にも店舗と同様のサポートを行うといったウェブと実店舗のシームレス化を実施しました。さらに、使用済みの家電の買取サービス・リユース販売なども新たにスタートしています。
これらのことに共通しているのは、家電量販店としての「モノ」の販売だけではなく、より便利で付加価値を持つ「コト」をプラスしているという点です。ヤマダ電機はこれまでのような家電販売だけではない、多様なサービスを行う企業となることで、先細りが予想される家電業界の中で成長を目指していくという方針に切り替えたわけです。
「モノ」から「コト」へという考え方へ転換し、最悪の事態を抜け出したヤマダ電機は、これから「IoT企業」として、どのように成長していくのでしょうか。
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