ニトリは、「お、ねだん以上。」のキャッチフレーズを掲げ、家具・インテリア業界で原料仕入、製造、流通、小売までを一貫で行うことによって低価格を実現。33期連続の増収増益を記録し、今では海外に店舗を展開するまでの企業に成長しています。
ニトリのような低価格を実現して市場シェアの拡大を図る販売戦略を、コスト・リーダーシップ戦略と呼びます。アメリカの経営学者であるマイケル・ポーターが提唱したものです。しかし安易に価格を下げると利益を圧迫するため、市場シェアと売上が高い企業でないと実践は難しいともポーターは述べています。
しかしニトリは、市場シェアを伸ばす前からコスト・リーダーシップ戦略を実践してきた企業だったのです。
コスト・リーダーシップ戦略の前提とは
コスト・リーダーシップ戦略では、市場に製品を投入する際にかかるコストは企業間で差がないことが前提です。コストは人件費や減価償却などの固定費と、原材料費や販売手数料などの変動費に分けられます。売上に比例して増減するものが変動費、売上に関わらずかかる費用が固定費と分類しています。
企業間でコストが同じならば、市場シェアの高い企業のほうが1商品あたりのコストを削減できます。また多く生産することでノウハウが蓄積され、効率化も期待できます。つまり売上が増えれば固定費の割合は下がり、ライバルより値下げを行っても利益を確保できるという理論が、コスト・リーダーシップ戦略なのです。
その中でもニトリが市場シェアの低い時代からコスト・リーダーシップ戦略を可能としたのは、コストに差がないという前提を覆したからでした。
ニトリは、商品の企画、原材料の仕入れ、生産体制、輸入、販売、商品搬送まで自社で手掛けています。もちろん、物流センターや配送拠点も自社で保有。サプライチェーンの全てを自社で握り、人件費や減価償却などの固定費から、仕入の直接買い付けなど変動費までの削減を行うことにより、競合よりもコストを下げました。
ニトリが実践している製造から小売までを、1つの企業が一貫して行うことは、家具・インテリア用品の世界では稀でした。これによりニトリはライバル以上の低価格と利益率を確保し、コスト・リーダーシップ戦略で市場シェアを伸ばしてきたのです。
「コスト削減」の常識を打ち破るには
顧客のニーズが低価格で良質ということは、どの企業も簡単につかめる情報です。それならば、低価格のために他社よりコストを下げようと考えるのは自然な発想です。
しかし常識に染まった思考では、コスト・リーダーシップ戦略の前提から抜け出すことができません。原料の買い付け業者や流通卸などにかかる手数料は削減できない、もしくは限界があるという常識を疑わずにいると、大量に商品を仕入れて捌くことできるメーカーしかコスト・リーダーシップ戦略を実践できないという理論に絡め取られます。
ニトリは前述の製造から小売までの一貫を実行するために、原材料の調達、生産拠点を全て海外で行うことを考えました。
ニトリは1980年代から小売業にも関わらず、海外生産拠点の構築を始めました。海外で生産拠点を構築するには、専門商社や製造業などの知見が必要です。今でこそ珍しくありませんが、ニトリはベトナム、カンボジア、マレーシア、タイなどで生産拠点の準備を行います。家具・インテリア用品小売業の競合他社が追随しなかったのは、それらの国々でのビジネス習慣や行政などに明るくないので、生産拠点構築は失敗すると判断していたからです。
しかしニトリは前提を覆すために海外進出を遂行しました。専門商社や製造業のような知見がない状態で、現地バイヤーや企業、行政などと交渉をすることになります。さらに製造拠点や物流センターの構築となれば、現地の人を雇用することになり、社員教育の苦労もあります。それらの苦労を経て1989年にはシンガポールに現地法人を設立し、ニトリは一貫体制の海外基盤を確立させました。
ニトリの創業者、会長である似鳥昭雄氏も「この時期が一番大変だった。」と語っております。しかし、同時に「そのおかげでニトリは他社に10年先行することができた。競合他社が今からニトリの真似をしたとしても、10年は追いつけない。我々はこれからもどんどん先行する。だから当面は追随がないと考えている」と雑誌インタビューでも語っています。
業界の常識へ疑問を感じることが原点だった
資本やシェアが少ない弱者である企業が競合に打ち勝つには、前提を見直すことが重要です。教科書に載っているような戦略は競合他社も知っています。常識や前提に従って勝負を挑んでも、逆転劇の可能性は薄いでしょう。ニトリは低価格でも利益を確保できるように、自社で一貫して行うことでコスト削減のシナリオを考えました。それを実現するため、小売業にも関わらず製造を含めた一貫体制の構築へ挑んだのです。
会長の似鳥氏は、家具販売店を創業して数年後に、業界の常識に対し疑問を感じます。それは当時の家具・インテリア用品業界では、価格設定が業界のコストによって決められていた点でした。それならユーザーの納得する低価格を実現すれば、という逆転劇の考えに至ったそうです。常識を見直すことは、さまざまなビジネスチャンスの気づきになることを、ニトリのコスト・リーダーシップ戦略は気づかせてくれる事例といえます。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年6月18日)のものです。
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