JAL(日本航空)の2016年3月期の営業利益は2,091億円で、前期比16.4%の増加。2010年には会社更生法を適用するほど経営は厳しいものでしたが、わずか6年でV字回復を成し遂げました。
経営再建の裏には、「経営の神様」稲盛和夫氏の存在が大きいでしょう。稲盛氏は2009年末、JAL再建のため政府と企業再生支援機構から会長就任を要請されました。京セラ、KDDIを創業し大企業へと育てた稲盛氏ですが、当時は航空業界の知識はほとんどなく、再建の自信もなかったといいます。
しかし稲盛氏は、役員報酬なしで会長に就任。従業員の意識を改革し、見事にJALを再建しました。
従業員が幸せでないと、顧客を幸せにできない
稲盛氏が会長に就任した頃のJALは、2次破綻(事業の再生を試みるも再度失敗すること)の恐れもありました。それにもかかわらず、社内には危機感がなく、まるで会社更生法が適用されていないような雰囲気だったといいます。
当時のJALは、一握りの経営幹部が指示を出し、組織がそれを守り実行するという、“官僚”的な組織でした。そこで稲森会長は、旧経営陣のメンバーを一新。さらに、JALグループの企業理念からロゴマークまで、企業の根本となる部分を変更しました。
新たに掲げられたJALグループの企業理念には「全社員の物心両面の幸福を追求」という言葉が追加されました。これは稲盛氏の「社員が幸せでなくては、お客様を幸せにはできない」という考えを反映したものです。
そこで、全社員がいきいきと働ける会社にするために、入社10年目までの従業員を対象に、モチベーションとコミュニケーション力を高める研修を実施しています。研修のキーワードは「I will be OK!」「I like me!」「I like you!」で、これは「自分にもできる」という感覚や、自分を肯定する気持ち、仲間が好きだという気持ちを持つことで、従業員自身が幸福感を意識できるようにするための。
稲盛氏はさらに、従業員全員が持つべき意識、価値観、考え方として、「JALフィロソフィ」も掲げました。これは稲盛氏の考え方、判断基準、価値観を共有できるように、人間としての考え方をまとめたものです。現在のJALフィロソフィには、「人間として何が正しいのかで判断する」「お客様視点を貫く」「売上を最大に経費は最小に」といったような従業員の根本的な姿勢が描かれており、従業員は皆、このフィロソフィに沿って行動しています。
従業員が意欲的にサービス改善に取り組む
稲盛氏の経営スタイルとして、「アメーバ経営」というものがよく知られています。アメーバ経営とは、小集団で採算を管理する経営方法のことで、彼はこれをJALにも採用。従業員が数字を意識し主体的に経営に関わるよう、会社を細かい小集団に分けました。そして、ひとつひとつの集団がそれぞれ利益を上げるように意識させます。
1便ごとに収支を管理し、コストが可視化されるようになると、従業員に変化が表れ、個々の小集団は無駄な経費を削るよう、自分たちで業務を改善するようになりました。
やがて、全ての従業員が経営を意識し、利益を追求するようになると、各スタッフが連携して取り組むようになります。
たとえば便の予約が早く埋まっていれば、使用する飛行機を大きな機材に変更し、逆に搭乗率が悪くなりそうであれば、機材を小さなものに変更するといったことも、従業員の間で自然と行われるようになりました。機材の変更は、パイロットやスタッフも変更に合わせて調整する必要があるため、従業員の負担につながります。しかし、利益が出なくては会社が存続できなくなるという危機感が従業員に生まれたことで、こうした変更にも柔軟に対応できるようになりました。
従業員が意欲的に働かず、“やらされている感”が蔓延している企業では、このような柔軟な対応はできないでしょう。JALが短期間で復活できた裏には、従業員が一丸となり利益を追求する姿勢を、稲盛氏が植え付けたことにあったのです。
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