2022.03.25 (Fri)

小売業で広がるICT活用(第21回)

デジタル化した棚札、「電子棚札」とは

 最近、小売店で「電子棚札」と呼ばれる技術を見かける機会が増えています。電子棚札は、店頭に置いている商品の価格表示をデジタル化する技術です。従来の値札による価格表示よりも作業効率が良いとされており、小売業界の注目を集めています。ここでは電子棚札とはどのような技術なのか、導入するとどのようなメリット、デメリットがあるのか、実際どのように活用されているのかなどを紹介します。

電子棚札とはどのような技術なのか

電子棚札とは

 電子棚札は英語で「Electric Shelf Label」となり、頭文字を取って「ESL」と呼ばれることもあります。これまでは、商品の価格情報などの表示に紙の値札が使われてきましたが、電子棚札はこれに代わる技術として注目を集めています。

 電子棚札のハードウエアは液晶ディスプレイ型がメインでしたが、近年は電子ペーパー(紙のような薄い素材で作られた表示装置)が多く使われています。電子ペーパーが採用されている理由として、消費電力が少ないことが挙げられます。

電子棚札の仕組み

 電子棚札はネットワークを介して基幹システムやPOSシステムとつながっています。よく使われるのは、天井などの高所に専用のアンテナを設置し、基幹システム・POSシステムからアンテナまでが有線ネットワーク、アンテナから各電子棚札までは無線ネットワークでつながる形式です。電子棚札の表示は、基幹システムまたはPOSシステムを通じて遠隔で変更することが可能です。

電子棚札の種類

 近年、表示装置として多く使われている電子ペーパーのシステムによって、電子棚札は大きく3つの種類に分けることができます。

セグメント型

 E Ink電子ペーパー技術を利用した最もシンプルなタイプ。低予算で導入できるのも特徴。表示はモノクロ。

モノクロアクティブマトリクス型

 E Ink Aurora電子インクフィルムを利用してセグメント型よりも高解像度の表示が可能なタイプ。

カラーアクティブマトリクス型

 さらに進化したE Ink Spectra 3色インクフィルムを利用したタイプ。カラー表示が可能。

電子棚札を導入することで生まれるメリット

作業効率の向上

 電子棚札を導入することで生まれる最大のメリットは、作業効率の向上です。これまでは棚札の印刷、裁断、仕分け、貼り替えといった商品の価格変更に関する作業の多くは、手作業で行われていました。この作業は同じ商品に対して1日で5、6回行ったり、深夜や早朝といった閉店時間に店員総出で行うこともあり、大きな負担がかかっていました。

 しかし電子棚札はネットワークでつながっており、簡単に表示される情報を変更・更新できるため、これまで手作業で行っていた作業を簡略化できます。店員の負担を大きく減らすことにつながると同時に、接客に力を割いたり、人件費の削減などにつながる可能も考えられます。

ヒューマンエラーをなくすことによるトラブルの防止

 商品の価格変更に関する作業を手作業で行うと、商品の値段の貼り間違いや、変更漏れのようなヒューマンエラーが起きる可能性があります。電子棚札はネットワークを介して情報を変更・更新できるため、ヒューマンエラーの余地を減らすことができます。

リアルタイムでの価格変更に対応できる

 電子棚札はネットワークを介して、一斉に値段表示を変更できます。そのため、需要や状況によって価格変更を行うシステムである、「ダイナミックプライシング」との相性が良いのも特徴です。

 「ダイナミックプライシング」は需要の少ない商品を値下げしたり、逆に需要の多い商品を値上げするなど、購買状況に応じてリアルタイムで商品の値段を変更するマーケティング手法です。スーパーで、消費期限が近くなった生鮮食品を値下げするのもダイナミックプライシングです。ダイナミックプライシングの実施には、棚札の情報を随時変更する必要が生まれますが、このときに電子棚札を導入していれば、即座に対応できるメリットが生まれます。

スマートフォンとの連携が可能

 電子棚札の中には、NFC機能が搭載されているものもあります。NFC機能はスマートフォンなどの端末をかざすだけで通信ができる技術のことで、スマートフォンを電子棚札にかざすと、商品の情報を詳しく見ることができます。

 さらに、NFC機能で得た情報を店内のカメラの映像情報などと連携することで、店舗側は「どのような人がどのような商品を手にしているのか」がわかります。電子棚札は、顧客の行動分析に活用することもできるのです。

電子棚札を導入する際の課題

 電子棚札の価格はおおよそ数千円です。もちろん、メーカーやサイズ、搭載されている機能によって価格は異なりますが、紙の棚札と比べると単価が高いことは確かです。また、電子棚札を管理するネットワークの構築やソフトウエアの導入にも費用がかかります。

 電子棚札を導入するにあたっては、導入コストを回収できるだけの利益を出せるか、人件費などほかの部分でコストを削減できるのかをしっかり検討する必要があります。商品数が少なく棚札の管理が容易である場合や、価格変更を頻繁に行わない場合は導入を見送るのも選択肢のひとつです。また、電子棚札のレンタルを行っている企業も存在するため、導入コストが課題になる場合は、レンタルを選択肢に入れても良いでしょう。

電子棚札の導入事例

凸版印刷株式会社

 印刷事業全般、および印刷技術をベースにした商品パッケージやデジタルデバイスなどの開発を行っている同社は、イオン九州株式会社の福岡県2店舗と長崎県1店舗において電子棚札を導入し、店舗における作業負荷の削減の効果検証を行いました。

 この検証では、顧客が理解しやすいデザインのテンプレートを作成し、タイムセールやイベントなどの特売情報と売価変更イベント情報が基幹システムから自動反映される「トッパン電子棚札システム」を展開・導入しました。

 トッパン電子棚札システムの特徴は、同社が培ってきた長年の印刷技術と電子ペーパー事業での知見を活かし、日本語の文字処理に特化したレイアウトや、見やすいフォント・デザインでの表示を実現したことです。データ配信・管理機能・スマートデバイス操作を、日本の店舗オペレーションに合わせた形で提供しているのも特徴です。

まとめ

 電子棚札は、コスト面など検討しなければならないもありますが、導入することで多くのメリットがあるのも事実です。今後も導入事例が増えていくことが予想されますので、それらをチェックし、メリットと課題を精査することで検討を進めてはいかがでしょうか。

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