SCM(サプライチェーンマネジメント)とは、商品の原料や部品の調達から、顧客の手元に届くまでの全体の流れを包括的に管理し、部分ごとではなく全体の最適化をめざす手法です。
パソコンメーカーDELLの受注生産を中心とした販売方法「デル・モデル」に代表されるように、SCMの考え方は以前から存在します。SCMはそれほど目新しい考え方ではありませんが、企業のグローバル化が進み、技術発展により情報の集約が容易になったことから、再び脚光を浴びています。さらに近年では「インテリジェンスSCM」と呼ばれる、人工知能によるデータ解析を活用したSCMの利用も進みつつあります。
SCMとは
SCMとは、サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management)の略で、中小企業庁が公開している「中小企業のための物流効率化の進め方」によれば、「メーカーにおける原材料の調達から、生産、物流、販売、さらに卸売や小売など、消費者に商品を提供するために関わるすべての部門・企業をシステムとして統合し、全体として効率化を図るもの」と紹介しています。なお、SCMは日本語で「供給連鎖管理」と訳される場合もあります。
サプライチェーンには部品の供給を行う部品メーカー、製品の組み立てを行う完成品メーカー、卸売企業、小売店、顧客などが含まれますが、各段階において、それぞれの関係性を別個に最適化するのではなく、全体のルートを考慮したうえで最適化しようというのが、SCMのアプローチなのです。
SCMが注目を集めている理由
企業のグローバル化
SCMが再び注目を集めている理由はいくつかありますが、その中で最も代表的なのが企業のグローバル化です。企業のグローバル化が進行するにつれて、サプライチェーンも国境をまたいで複数拠点を経由するなど、より複雑になるケースが増えています。サプライチェーンが複雑になれば、最適化のメリットも大きくなります。グローバルな競争相手に対して後れを取らないためにも、SCMが重要性を増してきています。
配送まで含めたビジネスモデルの登場
近年は、Amazonや楽天に代表されるEC(電子商取引)の普及が進んでいます。さらに、Uber Eatsのように販売と配送を一体化したビジネスモデルも登場しています。これは、メーカーにとって商品の販売は「販売店まで商品を届けて完了」というわけではなく、顧客に製品を届ける配送の段階も含めた全体のプロセスを再考する余地が生まれたことを意味しています。
技術の発展
従来拠点ごとに管理されることが多かった企業の業務データは、通信技術が発展し、かつ企業活動のさまざまな場面でシステム化が進んだことにより、集約して管理することが比較的簡単になりました。いわゆるビッグデータと呼ばれる、顧客や商品に関する膨大なデータを活用する動きが進んでおり、これはサプライチェーンマネジメントにも活かせます。
労働環境の変化
現代の労働環境は数十年前と比較して大きく変化しており、これに伴って企業が労働力・人材不足といった問題を考慮する必要性も増加しています。サプライチェーンの流れを最適化することで、不要な配達や拠点などを減らし、労働力をより必要な場所に回すことができるという点も注目を集めている遠因の一つです。
SCMの4つの構成要素
サプライチェーンマネジメントを実現させるために必要となる要素を紹介します。
計画
在庫過多にも在庫不足にも陥らない量の商品を、必要なタイミングで必要な場所に届けるための仕入れや生産の計画を立案します。適切な計画を立てられるかどうかは商品需要の予測精度に大きく左右されます。
実行
商品の生産や輸送などを計画通りに実行します。品質を保つのはもちろん、いかに迅速に行えるかも重要です。
評価
計画を実行したのち、評価を行います。計画の精度、欠品率や安全在庫数などをもとに評価し、次回以降に活かします。
物流
「計画」「実行」に関連し、SCMの土台ともいえるのが物流です。拠点の配置や輸送の方法、輸送の経路などの最適化がサプライチェーンマネジメントにとって重要となります。
SCMの成功事例
花王株式会社
大手消費財メーカーの同社は、1500以上の製品を日本国内だけで年間約21億個販売しています。同社では、専門エンジニアで構成されるロジスティクス部門を設け、これらの商品の原料の調達、生産、物流、販売という一連のプロセスを一括で管理するサプライチェーンマネジメントを行い、成功しています。花王の製品は、工場から自社の物流拠点を経由し、卸売企業を介さずに小売りの販売店へ直接届けられます。
商品の需要予測システムを独自で開発している点も同社のSCMの特長です。これにより、受注から24時間以内に納品することが可能となっています。このように最適化が進んでいる同社のサプライチェーンですが、近年はさらなる目的として「環境への配慮のために輸送の効率化を行い、炭酸ガス排出量を削減する」観点も追加。他社に先駆けて取り組むことで、2005年にエコレールマーク(環境負荷の少ない鉄道輸送を一定以上利用している商品に対する認定制度)の認定を受けました。
コニカミノルタ株式会社
電子機器メーカーの同社は、現在の売り上げの半分以上が日本国外となっています。そのため、グローバル規模での利益の最大化のために新型のSCMシステムを導入しました。結果、サプライチェーンマネジメントの販売計画と需要予測が強化され、さらにPSI(生産・販売・在庫)計画の設定を週単位から日単位に変更することで、市場の動きに迅速に対応できるようになりました。
まとめ
技術の発展や企業のグローバル化に伴って、再び注目を集めているSCM(サプライチェーンマネージメント)について解説しました。SCMは、適切に行えれば、在庫管理の最適化やリードタイムの短縮、人員配置の効率化などを通して経営への好影響が見込めます。
パートナー企業間の利害調整やシステムの導入コスト、扱うことができる人材など、いくつか解決しなければならない課題はありますが、サプライチェーンが複雑で多岐にわたる企業であれば、得られるメリットも大きくなるはずです。成功事例を参考にしながら、全体像を見据えてサプライチェーンを見直し、最適化を考慮してみてはいかがでしょうか。
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