「imma」というバーチャルモデルをご存じでしょうか。Instagramのフォロワー数は35万人を超え(2022年3月時点)、Burberryなどの有名ブランドともコラボレーション企画を実施し、PorscheやIKEAなどの広告にも起用されているバーチャルモデルです。
バーチャルモデルという言葉からもわかる通り、immaは実在の人物ではなく、CGで構成されたモデルです。
immaに代表されるように、人と同じような外観や表情を持つバーチャルモデルをCGで作成してさまざまな分野で活用する「デジタルヒューマン」は近年急速な広がりを見せており、ビジネスシーンへの導入も見られるようになりました。
今後、デジタルヒューマンの普及が進めば、小売業に代表されるような1対1のコミュニケーションが必要とされる業界において、デジタルヒューマンを活用したDX化が進んでいくのではないかと予想されています。
デジタルヒューマンとは何か
デジタルヒューマンとは、CG技術を用いて作成され、人間らしい表情や動きを行うことができる3Dアバターのことです。映画業界などでは、現実の俳優ではなくCGで作成されたモデルを用いて撮影を行うケースが増えてきていますが、技術的には似ています。
現在は、チャットボットなどに用いられているAI(人工知能)による会話技術を組み合わせて、まるで本物の人のように顧客からの問い合わせに受け答えでき、双方向のやり取りが可能なデジタルヒューマンの開発が進められています。
デジタルヒューマンの特徴と導入のメリット
顧客とのコミュニケーションをAIに代替させるという意味では、「チャットボット」と呼ばれるカスタマーからの問い合わせなどに自動的に応対できるチャットシステムの導入が普及しています。
ただし、チャットボットに可能なのは文字によるチャット対応に限定されます。文字ベースのやりとりでは、細かいニュアンスを伝えることが難しいという問題があります。人同士のコミュニケーションでは、ジェスチャーなどの外見上の動きや表情、声のトーンや抑揚といった要素なども駆使して情報を伝えています。
さらに、顧客満足度を上げるためには、妥当な返答を行うだけではなく、感情レベルのつながりを築くことも重要です。外観やしぐさ、表情などを交えてコミュニケーションができるデジタルヒューマンは、伝えられる情報量を増やし、より顧客が満足する経験を提供できるため、今後はチャットボットの機能を補完し、代替していく可能性も考えられます。
またデジタルヒューマンは同じAIを用いるため複数人を対象とした教育を行う必要がなく、個人間の知識のばらつきなども防げます。また24時間対応可能なことも、デジタルヒューマンならではの特徴です。
デジタルヒューマンの活用が期待されるシーン
オーストラリアの銀行であるUBankは、カスタマーサポートとしてデジタルヒューマンを導入しています。ニュージーランドの大手家電量販店Noel Leemingは、顧客の商品選びのアシスタントとしてデジタルヒューマンが導入されています。このように、小売店の店頭に配備して問い合わせへの対応を行うなどといったことも可能です。デジタルヒューマンを多言語対応できるよう設定すれば、各言語の知識を持つ店員が複数必要になるような状況でも、デジタルヒューマンだけで対応可能、というメリットが考えられます。
デジタルヒューマンの別の活用法としては、著名人や多忙なビジネスパーソンをモデルにしたデジタルヒューマンを作成し、不在時に本人に代わって対応を行わせる、ということも可能です。
実際、スイスの大手銀行UBSは、チーフエコノミストのダニエル・カルト氏のデジタルヒューマンを導入し、対応可能なクライアントを増やすことができました。
デジタルヒューマンの課題と今後
従来の3Dモデリング技術の課題となっていたのが「不気味の谷」と呼ばれる現象です。不気味の谷とは、人に似過ぎた存在を見ると嫌悪感が生じる現象のことです。人ではない存在の外見を少しずつ人に近づけていくと親近感がわいてきますが、一定のレベルになると、「実際の人に近い見た目をしているが、人ではない存在」に嫌悪感が生じるというものです。
この不気味の谷は、外見をさらに人に近づけることで超えることができ、外見が人と見分けが付かなくなると再び親近感が生じるとされています。
デジタルヒューマンの開発において、現在注力されているのが「コミュニケーションの双方向化」です。定型的な会話のやりとりだけではなく、生体認証やこれまでの会話からのAI学習などを通して、相手の特性に応じて会話内容を最適化する方向への進歩が模索されています。
まとめ
デジタルヒューマンを導入している企業は、まだ限定されています。今後、技術の発展に伴って顧客とのコミュニケーションの多くが、デジタルヒューマンによって行われる時代がやってくるかもしれません。もしデジタルヒューマンが今後、人間らしい表情や動作を見せるだけではなく、顧客の表情やしぐさを読み取り、会話に反映することができるようになれば、活躍の場はさらに広がるでしょう。
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