新型コロナウイルスで対面接客の機会が減った影響により、「オンライン接客」を導入する企業・店舗を見かけるようになりました。コロナ禍をきっかけにECサイトを利用する人は増加しましたが、今後は新しい価値体験としてオンライン接客の需要のさらなる高まりが考えられます。本記事では、小売業でオンライン接客を導入するメリットや接客の種類、オンライン接客の市場規模が拡大している理由などを解説します。
オンライン接客とは、インターネット上で行われる接客活動
オンライン接客は、ビデオ会議やチャットなどのツールを使って行われる接客サービスです。実店舗で顔を合わせる対面接客と違い、オンラインで顧客とコミュニケーションを取ります。
オンライン接客の方法にもさまざまな形態があります。最も一般的なのが、自宅にいる顧客がビデオ会議ツールを使って、スタッフに相談しながら買い物を楽しむオンライン接客です。アパレルでの活用例では、専門アドバイザーにコーディネートの相談をしたり、アドバイスが受けられるサービスがあります。
顧客が店舗に訪れ、スタッフが遠隔対応するという逆のパターンもあります。この場合、遠隔地スタッフがオンライン上で商品ごとの違いを説明したり、顧客の悩みを解消する商品を案内するといった接客を行います。
これ以外にも以外にも、チャットボットを使って顧客の質問に自動応答するオンライン接客もあります。
オンライン接客の主な種類
ここからは、オンライン接客でよく使用されるツールと接客方法を紹介します。
ZoomやSkypeなどの「Web会議・ビデオ通話サービス」
Web会議・ビデオ通話サービスを利用したオンライン接客では、映像や画像、音声を使って顧客とのコミュニケーションを取ります。映像を利用すれば、顧客の顔を見ながら接客することが可能です。
映像でリアルタイムに顧客の反応を見ながら、商品を紹介できるため、実店舗での対面接客に近い対応が可能です。オンライン接客でもきめ細やかな対応を行いたい場合に適しています。
オンライン接客が盛り上がれば、そのままECサイトに流入したり、商品を購入する可能性もあります。オンライン接客でも、顧客に人気の高いスタッフが売上増加に貢献する点は、対面接客と変わりません。
Web会議・ビデオ通話サービスには、ZoomやSkype、Microsoft Teams、Google Meet、Slack、Chatworkなどがよく使われています。
いずれのサービスも、ビデオ会議ツールとして名が知られていますが、企業と顧客の双方にツールを導入する手間がかかるのが難点です。もし顧客がICTに詳しくない場合は、インストールや使い方の理解に手間取るため、手軽さに欠ける側面があります。
TwitterやInstagramなどの「SNS」
TwitterやLINEなどのSNSでアカウントを開設し、オンライン接客を行う方法もあります。自社商品に興味を抱きそうな潜在的な顧客や、すでに商品の購入経験がある顧客(フォロワー)に向けて情報を発信できます。これらのSNSの中には、フォロワーと音声や動画で直接やり取りできる機能を備えているものもあります。
LINEのLIVE機能、インスタライブなどの動画配信機能を接客に活用すれば、ライブコマースのようなことも可能です。コアなファンやフォロワーとコミュニケーションを取りながら、新商品やキャンペーンなどの情報が発信できます。ライブという形式を活かし、顧客から寄せられる質問にその場で回答すれば、オンライン上で対面接客の疑似体験が提供できます。
Twitterでは、自社アカウントで商品のPRができます。フォロワーがいないと口コミで広がりにくいため、情報発信には工夫が必要です。動画や画像を活用したコンテンツで拡散を狙ったり、購入後にフォローしたり、購入前の顧客にアプローチするなどで運用します。
Webサイトでの「チャット・メール」
公式サイトで自社スタッフがチャット対応をしたり、受け付けた問い合わせメールに回答する接客方法です。メールフォームは、すでに多くの企業でカスタマーサポートの窓口として活用されていますが、問い合わせ以外にもオンライン接客の手段として利用できます。
スタッフによる有人チャットは、コロナ禍をきっかけに企業への導入が広がっています。顧客側から見ても、時間や場所を問わない点や、電話のようにつながらなかったり、待たされることが無い点はメリットといえます。ただし、チャットやメールでの接客は文章で行うため、スタッフには顧客に伝わる文章力が求められます。
Webサイトやアプリ上の「チャットボット・ポップアップ」
チャットボットは、顧客の質問に自動で応答するシステムです。あらかじめ質問に対する回答を設定しておき、そのシナリオに沿って質問してきた顧客にメッセージを返します。
企業・店舗側のメリットは、チャットボットのために人を常駐させる必要がなく、人的リソースが節約できることです。顧客側でも、自分のタイミングで質問できること、質疑応答をテキストで見返しやすいところがメリットです。
ポップアップは、顧客のWebサイト上での行動や閲覧状況に応じてメッセージを自動で表示するものです。表示内容で多いのは、会員登録や問い合わせ、クーポンの提示などです。顧客のニーズを分析した上で最適なポップアップを表示するため、顧客が次のアクションを取りやすくなります。
オンライン接客市場が拡大した2つの理由
このようにさまざまな手法のオンライン接客が生まれている背景には、いくつかの理由が考えられます。
理由1. EC市場が拡大した
経済産業省が2022年に発表した「電子商取引に関する市場調査」によれば、2021年度のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場の規模は20.7兆円(前年比7.35%増)でした。
BtoC-EC市場規模拡大の要因は、デジタル系分野と物販系分野の大幅な伸長にあります。物販系分野の伸びは、単なる巣ごもり需要によるものではありません。外出機会が徐々に回復しはじめた2021年度になっても伸びは衰えず、引き続き拡大傾向を示しています。
理由2. オンライン接客を取り入れやすい環境が整った
新型コロナウイルスの影響で対面接触が避けられるようになった結果、代替となるオンライン接客が利用されるようになりました。そのオンライン接客の導入にはオンライン環境やICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の整備が必要です。企業でDXやリモートワークの推進が叫ばれている背景もあり、オンライン接客に必要なICT環境は、コロナ禍以前よりも格段に整えやすくなっています。
アイ・ティ・アールが行った調査では、2022年度にIT予算額を増額した企業の割合は、前年度に比べて増加しています。2021年度比で6ポイント増の41%となっています。
小売業界でも、ICTを導入する企業や店舗が増加しています。アイ・ティ・アールの調査結果では、DX関連予算を計上している企業のうち、DX関連予算に占めるICT予算の平均比率は21.9%となっています。業種別で見ると、卸売・小売業界は22.2%と平均値をやや上回っており、多くのICT予算を投入して、DXの推進に力を入れていることがわかります。
同調査では、2021~2022年度に卸売・小売で最も高い伸び率を示したICT製品は、チャットボット、チャットサポートツールという結果が出ています。そのほかにはデータ統合やAI・機械学習プラットフォーム、VR・AR・MRなど、顧客データの活用につながる製品や顧客体験を向上させる製品の導入率も伸びています。
小売業がオンライン接客を導入する5つのメリット
小売業でオンライン接客を導入することで得られるメリットについて解説します。
メリット1. 接客品質の向上が期待できる
たとえ非対面であっても、Web会議・ビデオ通話サービスを活用することで、対面接客と同じような質の高い接客を提供できます。それだけでなく、働く場所を問わないオンライン接客の導入により、人材を有効活用しやすくなります。たとえば「商品知識が豊富」「ヒアリングが上手」など、質の高い接客ができるスタッフがいる場合、オンライン接客によって離れた場所に住んでいる顧客にも良質な接客を提供できます。
ECサイトを運営している場合でも、オンライン接客の導入でインターネットの利便性と対面接客の良さを取り入れて、顧客体験の向上が図れます。これまでは、顧客がECサイトの商品情報や口コミなどを参考にして、購入の意思決定が行われていました。そこに、新しい接客の形としてオンライン接客を加えることで、より良い購入体験を提供できる可能性があります。
メリット2. 感染症対策として期待できる
オンライン接客は、感染症対策で高まった非接触・非対面のニーズに応えられます。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、非接触でも顧客とコミュニケーションが取れるオンライン接客の需要が高まりました。チャットやビデオ通話などのICTツールの活用で、スタッフと顧客双方の感染対策ができます。今後、新たな感染症が流行して、対面による接触が回避されるようになったとしても、オンライン接客を導入していれば、売上の減少は最小限にとどめられるでしょう。
メリット3. 接客業務のデータ化が期待できる
オンライン接客ツールによっては接客の履歴、会話内容、顧客ごとの商品購入情報などを記録できます。こうしたデータを蓄積し、分析することで、接客品質の改善を図ることが可能です。
チャットタイプのオンライン接客ツールの場合は、Webサイトに訪問した顧客の行動が記録できます。集まった顧客の行動データは、サイト設計の変更やマーケティングの際の参考になります。
オンライン接客で得られた詳細な顧客データは、顧客に対する理解を深めるのに役立ちます。その結果、効果の高いマーケティング施策の実施や接客サービスの提供が可能になり、顧客満足度の向上が期待できます。それぞれの顧客に適した接客を提供できれば、リピーターを獲得しやすくなります。
メリット4. 購入率や顧客単価の向上が期待できる
顧客がECサイトで商品を購入する際、ECサイトに掲載されている画像と文章で、どのような商品かを把握します。価格の安い日用品なら、こうしたECサイト上の情報だけで購入を決めることもあるでしょう。しかし、高額な商品の場合、同じようにはいきません。
ECサイトで売れにくい高価格の商品は、オンライン接客との組み合わせで、売上をアップさせることも可能です。商品を映像で見せるのに加え、顧客にわからない点があれば、スタッフによる詳細な説明を、購入の参考情報として提供できます。ECサイトの文章と画像だけではわからない商品の良さが伝えられるため、顧客も購入に踏み切りやすいでしょう。
オンライン接客は、主に「興味はあるが、商品に関する疑問を解消したい」という顧客が利用するため、やり取り次第で購入に直結します。接客サービスが良ければ、購入率や顧客単価の向上も期待できます。
メリット5. 多様な働き方に対応しやすくなる
オンライン接客ではスタッフが実店舗に常駐する必要がないため、サテライトオフィスや在宅勤務などの多様な働き方に対応しやすくなります。複数店舗の接客を少人数で担当することも可能で、人材配置の効率化や人件費の節約が期待できます。
接客サービスのテレワーク化が可能になることで、子育てしながら働きたい人や、介護と仕事の両立を望む人も雇用しやすくなります。ライフワークバランスを重視する求職者に対し、柔軟な働き方が可能な企業であることをアピールすれば、人材採用にもプラスに働きます。
オンライン接客の実現に向けて取り組むべきこと
オンライン接客はネットワーク回線の状態・品質に大きく影響を受けます。回線の状態が悪いと、画質が乱れたり、通話の音声が途切れたりすることがあります。通信状況が安定しない場合は、契約している回線を見直し、安定した通信環境を確保する必要があります。
オンライン接客サービスを利用する顧客が、ICTツールに慣れていない可能性もあります。操作が難しいツールを使用すると、顧客が不満を抱き、逆効果になる恐れもあります。なるべくなら、一般的に広く普及しているツールや、操作が簡単なツールを選ぶべきでしょう。
まとめ
新型コロナウイルス感染症の流行による自粛期間が明け、外出機会が回復しつつある現在でも、BtoC-ECの市場規模は拡大傾向を保ったままです。ECサイトの利便性が消費者に浸透し、定着していると考えられます。ECサイトの利用が一般化する中で、今後も顧客満足度の向上や働き方の多様化を実現する手段として、オンライン接客がさらに普及する可能性は十分に考えられます。まだ未導入の企業は、いまのうちにオンライン接客を検討しておくことで、ビジネスの新しい一手になる可能性があります。
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