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小売業で広がるICT活用(第35回)
市場における競争優位性を確保し、競合他社との差別化を図るためには、業界内での自社の立ち位置や強み・弱みを把握する必要があります。強み・弱みを把握するうえで役に立つのがバリューチェーン分析です。バリューチェーン分析とは、企画から消費までの流れを価値の連鎖として捉え、各事業活動や各工程が生み出す付加価値がどのように創出されているのかを分析することです。本記事では、バリューチェーンの概要やサプライチェーンとの違い、具体的な分析の流れなどについて解説します。

バリューチェーンは、自社の強みと弱みを把握し、競争力を獲得するうえで有効なフレームワークです。業界や業種を問わず、どの企業にも適用でき、小売業界でも取り入れられています。
バリューチェーンとは、「価値連鎖」という意味のマーケティング用語です。原料の調達から製造、流通、販売といった一連の事業活動を「連鎖して価値を創出するもの」として捉え、各工程の問題や、付加価値の創出状況を明確化するためのフレームワークで、最終的な価値の最大化を目的としています。アメリカの経済学者でハーバード大学教授のマイケル・ポーターが、1980年に発表した著書『競争の戦略』の中で初めて提唱しました。
バリューチェーンは、いまでは事業戦略の課題や改善策を立案する際のフレームワークとして多くの企業に採用されています。具体的には、商品・サービス提供のフローを工程ごとに区分けし、より高い価値を生産している事業活動や、反対に価値の創出につながっていない事業活動を可視化して客観的に分析します。
バリューチェーン分析では、自社の事業活動を主活動(一次活動)と支援活動(二次活動)の2つに分けて分析します。
主活動とは、商品やサービスの企画から原材料の調達、製造、物流、販売、マーケティング、アフターフォロー、クレーム対応まで、生産から消費までに関わる事業活動を指します。一方の支援活動とは、商品の生産やサービスの提供に関する一連の流れには直接関わらない、間接的にサポートする部分です。一般的には、労務管理や人事評価、従業員の福利厚生、経理、経営企画、会計、技術開発といったセクションが行う事業活動が分類されます。
小売業は、卸売業者や生産者から商品を仕入れて消費者に販売する製造業のように、原材料を仕入れて商品を作りません。そのため小売業のバリューチェーンは、店頭での販売商品を決定することから始まります。
商品を仕入れた後は、広告など消費者が店舗に足を運ぶきっかけを作るための施策を講じます。販売する商品の種類や店舗の方針によっては、購入後のアフターサービスを保証する場合もあります。小売業の具体的な主活動としては、1.商品企画、2.仕入れ、3.店舗運営、4.集客・販売、5.アフターサービスという流れが一般的です。

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バリューチェーンと似たマーケティング用語に「サプライチェーン」があります。サプライチェーンは「供給連鎖」という意味です。原材料の調達から商品の生産、物流、販売までの事業活動を分析範囲とする点ではバリューチェーンと同じです。
バリューチェーンとサプライチェーンとの大きな違いは、バリューチェーンが事業全体のどの工程でどの程度の「価値」を創出しているのかを分析対象とするのに対し、サプライチェーンでは商品やサービスがどのような過程を経て「供給」され、商品やサービス、お金がどのように流れているのかを分析対象にしていることです。
バリューチェーンとサプライチェーンは相互に影響します。例えば、サプライチェーンの課題を改善して無駄な工程を省くと、業務が効率化し、リードタイムの短縮につながります。その結果、商品が消費者の手元に届くまでの期間も短くなって、顧客満足度の向上が期待できます。つまり、バリューチェーン分析を実施する目的の「価値の最大化」は、顧客満足度の向上にもつながることになります。
このようにバリューチェーンとサプライチェーンの関係を理解することで、事業活動に適した対応を調整しながら、マネジメントを行えるようになります。
バリューチェーン分析は、自社の事業および工程ごとに発生している付加価値の量やバランスを可視化し、自社の強みと弱みがどこにあるのかを明確にします。ここでいう「強み」とは、自社が顧客に対し付加価値を生み出している要因を指し、「弱み」とは自社の課題や改善点を指します。
バリューチェーン分析の結果、明らかになった自社の強みは、さらに強化できるよう事業活動を展開していきます。反対に弱点に対しては補完するための改善策を講じます。自社の強みと弱みを把握したうえで、適切な施策を講じることが、競合他社との差別化につながります。
なお、バリューチェーン分析を実施する際には、客観性を確保するためになるべく多くの関係者から意見を募り、視点に偏りが出ないようにすることも必要です。特定の部署・部門のメンバーだけでなく、他部署から人を集めて検討することが求められます。
バリューチェーン分析では、競合他社の提供価値も明らかにできます。自社だけでなく、競合他社の事業活動に対してもバリューチェーン分析を行うことで、競合他社の強みや、どの工程でどの程度の価値が創出されているのかが把握できます。同時に弱みや課題も把握できるため、今後、競合他社がどのような事業活動を展開しそうかといった、市場全体の動向を予測することも可能です。
加えて、業界における自社の立ち位置や自社の商品・サービスがどれだけ市場に浸透しているのかなども可視化できます。分析結果に基づいて差別化戦略を立案・実施することで、競争優位性の向上が期待できます。
バリューチェーン分析により自社事業活動のコストをセグメント別に把握できることもメリットのひとつです。主活動と支援活動に分けて各事業活動におけるコスト比率を計算し、もし収益に対して過剰にコストがかかっている事業や工程は、そのコスト要因も分析します。
ある事業活動にかかるコストが、別の事業活動に与えている影響も分析対象になります。自社の事業活動に要するコストと、その仕組みや相関関係を明確化することで、コストを削減・追加すべき領域が明確になり、経営資源の合理的な再配分と効果的なコスト削減を実施できます。
バリューチェーンの洗い出しが終わったら、事業活動ごとの収益性やコストを把握し、コスト分析を行います。表計算ソフトを用いて一覧化し、担当部署も記載します。複数の部署で事業活動を展開している場合は、合算の金額も記載します。コスト比率の計算やコストドライバー(コストに影響を与える要因)の分析も行います。
各事業活動にかかっているコストの相関関係には、特定の事業活動のコストを減らすことで、もう一方の事業活動のコスト削減につながるものもあれば、反対に増加してしまったり、他の事業活動にマイナスの影響が及ぶものもあります。例えば、小売店が仕入れコストを削減するために従来よりも低品質な商品を仕入れた場合、顧客からの評判が低下して、購買客数の減少やクレームの増加につながり、結果的にアフターフォローにかかる人件費が増えてしまうかもしれません。このような事態を防ぐためにも、コストの関係性を調査することが必要です。
事業活動ごとのコスト分析の次は、自社の強みと弱みはどこにあるのかを分析します。まず。自社の強みと弱みを一覧表にリストアップします。
自社にとっては強みと思える特徴も、競合他社に比べると、実は特筆すべきポイントではないかもしれません。自社の強みと弱みを分析する際には、必ず競合他社とも比較し、さらに各関係者から話を聞いて、多角的かつ客観的に行うことが大切です。
VRIO分析とは、経済資源から有効活用の可能性を分析するフレームワークのことです。Value(経済的価値)、Rareness(希少性)、Imitability(模倣困難性)、Organization(組織)の4項目と市場での競争状態を評価指標にして、自社のバリューチェーンが該当しているかどうか、市場競争においては優位にあるのか劣位にあるのか、均衡状態にあるのかで分析します。YesまたはNoの代わりに5段階評価が使われることもあります。
経済的価値では、自社の経営資源がどれくらい売上に結びついているのか、どれくらい社会に影響を与えているのか、新しいビジネスチャンスにつながるのかなどが評価されます。希少性では、競合他社と比較した際、自社の商品・サービスにどの程度の希少性・独自性があるのかがわかります。模倣可能性は、自社の商品・サービスなどを他社に真似される可能性がどの程度あるのかを評価する項目です。希少性が高く、模倣可能性が低いほど、市場競争では優位性を保っていることを意味します。
組織では、自社の経営資源を有効に活用する体制が整っているかどうかが評価されます。人材採用や教育、報酬制度などの仕組みが整備されているほど、持てる経済資源の価値を発揮しやすくなります。
バリューチェーンでは、以上の4項目のすべてが“Yes”に該当し、市場競争状態で高い優位性を維持している状態が理想的です。

自社の強みと弱みをリストアップし、分析する作業では主観が入りやすいため、可能な限り大人数の意見を参考にして客観性を保つことが重要です。コストや収益性といった数値化が可能な指標であれば担当者一人でも判断できますが、強みや弱みという定性的な評価は人によって判断が分かれます。さまざまな役職や部署の人から多角的に意見を募ることで、少人数では気づかなかった強みや弱みが見つかる可能性もあります。
もともと強みや弱みは定量化が難しい性質のものであるため、抽象的な言葉で表現すると、余計に分析が困難になります。例えば「接客力がある」という表現は、何をもって接客力があると判断するのかが不明確です。「商品知識が豊富」「相手のニーズを正確に読み取れる」「場の雰囲気を和ませるのがうまい」など、より具体的な表現で強みと弱みをリストアップすることが重要です。

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